雄叫び!
怒号!
そして悲鳴!
百を超える生徒会の精鋭たち。
牧島譲司はたった一人立ち向かう!
雄叫び!
怒号!
そして悲鳴!
百を超える生徒会の精鋭たち。
牧島譲司はたった一人立ち向かう!
うおおおお!
うおおおお!
うおおおお!
ウォオオオ!
うわーっ!
怯むな、私に続けえええぇーッ!
クッ!
……
…………
………………
激戦は、わずか数分。
グラウンドには倒れ伏した生徒がひしめている。
呻き声と呪詛の声。
グラウンドは今、死屍累々の地獄絵図と化した。
ち……手こずらせやがって
生徒会の精鋭、百三十人。それが、五分もたずに全滅とは……
やはり、アナタは化け物ね
お前はかかって来ないのか?
手駒を煽るだけ煽っておいて、まさか自分は戦えないなんて言うつもりじゃねえだろうな
その程度の覚悟で、正義の二文字を掲げたりはしません!
女は体操服の胸を張って言う。
心の瞳でしかと見よ!
アナタも確かに見たはずだ!
体操服の胸に輝く『正義』の文字を!
大きな胸と!
『正義』の二文字が!
動きに合わせて揺れるのを!
牧島くん。アナタ、女は殴れるタイプかしら?
お前が立ちはだかるのなら、容赦なくやらせてもらう。
そう……それは良かった
なに?
アナタを倒した時に、女は殴れないからなんて言い訳されたら興冷めだもの
なんということだ!
女の両目が光る! 輝く!
二階堂と同じように、摩訶不思議な炎が宿る!
生徒会副会長、天ヶ崎美咲。
音速の美咲、なんて呼ぶ人もいるけど……
覚えなくても結構よ
そう名乗った次の瞬間――天ヶ崎の姿が消えた!
どうせここで死ぬんだから!
声は、背後から聞こえた。
譲司は直感だけを頼りに、前方に体を投げ出す!
首筋に冷たい感覚!
クソッ!
鮮血が舞う!
頸動脈に向かってナイフが振り下ろされていた!
間一髪!
ナイフは譲司の皮膚を浅く切り裂いた!
振り向き、構える!
どこを見ているの?
しかし、すでに天ヶ崎の姿はない!
背後に向かって裏拳を振り抜くーー!
手応えはない!
首筋。手、足、胸。
カマイタチに切り裂かれるかのように!
譲司の肉体に一つまた一つと傷が刻まれる!
スピードだ!
人間を超越したスピードで、天ヶ崎は動いている!
非科学的!
非現実的!
これでは超常現象だ!
魔法使い。
超能力者。
譲司の脳裏にそんな言葉がよぎった。
少なくとも彼女や二階堂は、譲司とは違う。
こいつらは、普通の人間ではない!
だが……てめえらの正体がなんだろうと……
殺されてやる義理はねえ!
地面を蹴り、譲司は跳んだ!
一歩の助走もなく垂直に百メートル!
天ヶ崎のような魔法ではない。
純粋に鍛えた筋力のなせる、人間の技だ!
上空から、グラウンドを見る。
譲司は思い切り息を吸い込んだ。
着地の瞬間ッ!
はああああああッ!
吸い込んだ息を一気に吐き出す!
極限まで膨張した肺から放たれる蛮声!
さながら稲妻の如く、地面を打った!
校舎のガラスがひび割れ、地面が砕ける!
倒れた生徒たちは吹き飛ばされて地面を跳ねた!
ク……何を
天ヶ崎が耳を抑えて、呻いている。
立ち上がる隙は与えない。
瞬時に接近、拳を天ヶ崎の腹部に叩き込んだ!
ウッ
息を詰まらせて、天ヶ崎が倒れる。
その細い腕を掴み、体を宙吊りにする。
痛ッ……放せ!
苦痛の声を上げて、天ヶ崎がナイフを落とした。
ちょろちょろ動き回りやがって。もう逃がしゃしねえぞ
……殺しなさい。虜囚の恥を晒すつもりはありません
誰が殺すかよ。お前には答えて貰うぜ。どうして俺の命を狙う。
……
……そういう命令だからです
命令だと? 誰の命令だ
……
……校長よ。七星学園の、校長先生
彼女はそう言った。
自由な左手を体操服の下に突っ込む。
(体操服なのだ、誰が何を言おうと)
どこに隠していたのか一枚のプリントを取り出した。
夏休みのお知らせ。
全校生徒の皆さん。
来週から夏休みが始まります。
海や山、部活動と楽しみにしているイベントもたくさんあることでしょうが、事故や怪我のないように気を付け、七星学園の生徒として節度を持った生活を心がけましょう。
3年生の皆さんは受験に備えることを忘れず、1年生、2年生の皆さんも日々の勉強を習慣としながら、夏休みを思う存分に楽しんでください。
さて、夏休みが明けた9月1日、1年17組に転校生が一人やってきます。北海道からはるばるやってくるのは、牧島譲司くん。
家庭の事情で七星学園にやってきますが、皆さんは彼が職員室へ辿り着くのを全力で阻止してください。
持てる全ての力を使って彼に立ち向かい、刺し違えてでも息の根を止めましょう。もしもタイムリミットの11時までに彼を殺せなければ、全校生徒を単位未修得で留年とします。
敵前逃亡は単位・成績に関わらず退学処分です。一切の功績を残さなかった運動部は廃部とし、文化部は後方支援をもって協力をしましょう。
当日の遅刻・欠席は理由の如何に関わらず退学処分ですから、夏休みに風邪など引かないよう注意しましょう。
協力を惜しむ場合は廃部です。精一杯がんばりましょう。
七星学園校長 豪徳寺雷十郎。
最後にそう署名されている。
夏休みの前に、このプリントが配られたわ。全校生徒がアナタを狙って来る。そうしなければ私たちが助からないから
なぜだ……
なぜ県立高校の校長が、俺の命を狙う!
私たちに校長の考えなんてわからないわ……
誰も校長には逆らえない。死ねと言われれば喜んで死ぬ。七星の生徒はそう教育されているのよ。
それがこの学校の正体だってのか?
失望しましたか? すぐに逃げた方が、アナタのためだわ。いくら校長とはいえ、アナタが転入を取り止めれば命まではとらないでしょう
私たちは逃げられないから。他の生徒を守るために、本当なら生徒会だけでアナタを止めたかった……でもダメね
職員室はどこだ
退くつもりはないのですか
くどい。俺は職員室に行く。何があろうとこの学校に入ってやる
言え。職員室はどこにある
職員室の場所は、私にもわかりません
何?
私だけじゃないわ。生徒の誰も、職員室の場所は知らないはずです
どういう意味だ
たどり着けないのよ。
どこかにあることは知っているわ。先生たちは職員室にいるはずだもの。
でも、それがどこにあるのかわからない。職員室はね、誰も見たことがないの。先生たちはどこからともなく現れて、忽然と姿を消すのよ
隠し部屋とか……
ひょっとしたらこの学校には、まだ私たちの知らない秘密があるのかも知れない
喋り過ぎよ、天ヶ崎美咲
校舎から、声。
三階の窓から、一人の女が身を乗り出している。
譲司と目が合うと、女は呑気に手を振った。
やあ
相原、先生……
生徒会は良く頑張ったわね、天ヶ崎……
でもダメだった。二階堂の言ったこと、覚えてる? 生徒会で転校生を止めてみせる。だから他の生徒は手を出すな……そう言ってたわね?
でもダメだった。
だからここからは解禁よ。楽しみは他の生徒にもわけてあげなくてはね。
その男とやりたくて、みんなうずうずしてるんだから!
さあ、ここまで来なさい。
そうしたら職員室までの道を教えてあげるわ
その時、チャイムが鳴った!
校舎に設置された時計を見る。午前10時だ。
タイムリミットの11時まで、あと1時間!
倒れた連中の世話は、任せるぜ。
手加減はしたが、数が数だったからな。重傷者は病院まで連れて行け。死なれでもしたら後味が悪い
これから死ぬかも知れないのに、倒した相手の心配?
フン
全員俺の先輩か、同級生になるからな。
そのくらいは心配する
冗談のつもり?
俺は本気で言ってるんだぜ、天ヶ崎先輩
……
争いのない日々。
普通の高校生活。
譲司が夢見たのはただそれだけだった。
誰もが過ごす時、誰もが知る退屈な毎日。
ただその中で生きていたいだけだった。
その些細な夢を邪魔するというのなら。
校長は俺がブチのめしてやる
校舎に向かって譲司は歩き出した。
昇降口が、暗黒の淵へと譲司をいざなう……!
続くッ!