放課後、キサラギから書類を受け取り、俺はすぐに校長室に向かった。

 姫様には何もいっていない。三人で、いつものようにパソコン室にいるはずだ。

 キサラギとの約束がある。誰にも言わない、姫様にも。

 だとしたら、俺が校長とキサラギの仲介に入って、交渉するしかない。

おじいさんとおばあさんのお宝を取り戻すために、鬼との仲介に入る猿って……どんな展開だよ、これ

終わりよければ大丈夫です

 校長室の前で、俺は深呼吸する。やけに豪華な扉を見ていると、確かに、こんな豪華にできるんなら部費を少しあげてくれよおと言いたくなる気持ちもわかる。

 そういう理不尽は、いろんなところにきっと、転がっている。

いざ、出陣

お猿さん頑張って!

 まるで桃太郎になった気分だ。俺は、校長室の扉をノックした。どうぞ、と声が聞こえる。

 中に入ると、大きな机の向こうに、着物を着たおじいさんが座っていた。

おお、縁君。久しぶりだね

 しばらく絶句。

 いやあ、ここまで学園学園していたのに、おじいさんだけはまるで、ももたろうから出てきたような、昔話のおじいさんみたいな風貌だ。

 どうしてここだけリアルなんだよ。気を抜いたら笑いそうだった。だから、絶句。

 それにしても、姫様は随分遅く産まれた子どもなんだなあ、と、別のことを考えるんだ、俺。

どうしたんだい?

……あ、いえ。お久しぶりです。あの、少しおはなしが

 俺は扉を閉めて、校長先生の前に立った。うーん、緊張する。

ひめ……桃子さんと、俺たちが、例のものを探しているのはご存じですよね

 校長先生がどれだけ情報を握っているのか知らないので、さぐりさぐり。

 ああ、と表情を曇らせたので、とりあえずディスクを僕たち四人が探しているのは、校長先生も知っている、と。

単刀直入に言います。僕だけが、ディスクのありかを発見しました

なんだって

 思わず立ち上がらんばかりの勢いで、校長先生は身を乗り出す。うおお、おちつけ、俺。交渉は冷静に、かつ穴がないように!

犯人も知っています。僕は、犯人と接触し、ディスクを返してもらう約束をしました。ただし、その前にいくつか条件があります

その条件はなんだね? 犯人は、誰なんだね?

まずは僕からの条件です。

犯人が誰だったかは、誰にも言わないでください。桃子さんがもし知ってしまった場合は、ショックを受けることになります……犯人も、それを望んでいません

わかった、誰にも言わない

犯人は反省しています。どうか、最小限の処罰で

約束しよう。それで、犯人の条件はなんだね

 俺は、一枚の封筒を校長先生に差し出した。中身は俺も見ていない。ふむ、ふむ、と校長先生がゆっくりその書類に目を通す。

……仲介役、感謝するよ

条件はのんでいただけますか

ああ。思ったより大事ではなかったんだな、よかったよ……

 ぶつぶつと独り言のように言っている。この校長先生は、いったいどんな敵を想像していたんだろう。

この文章、君は読んでいないだろう

あ、はい

キドウ君は真面目な青年だ。彼がここまでするのも、部活を思ってのことだろう。

もう少し、相手側の主張もきいてあげればよかったな……反省したよ。キドウ君を、呼んできてくれるか

 校長先生はそう言って、寂しそうに目を伏せた。


 校長室を出たあと、俺はふと考えた。

どうして、鬼は宝物を奪ったりしていたんだろうなあ

……相手側の主張を、って、先程校長先生がおっしゃっていたことですね

そうそう。ふっと気になったんだ……まあ、昔話だからそこまで考えられてないのかもしれないけど

 それにしても。

キドウ君って、多分キサラギだよな?

違ったらまあ、そのときはそのときで

 行き当たりばったりは最後まで、だ。もうすぐ、物語も終わる。

1 秘密のディスクと不思議な姫様(11)

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