言わねえよ

 即答したが、キサラギはどこかまだ疑わしげだ。少しの沈黙。俺は、念を押すように言う。

誰にも言わない。ケン、憲二、桃子、誰にも言わないから

……うちの部活が、大所帯になってきてるのは、知ってるだろ

 キサラギの迷いはなくなったようで、ぽつり、と彼は言う。知らない情報だが、ああ、と適当に相づちを打つ。

去年、大きな大会にも出られた。もっと成長していくために、部費が必要なんだ。

でも、生徒会に交渉してもうまくいかなかった。去年、予算が確定したあとに賞をとって、有名になって、部員も増えたからな……時期的に仕方がない。

だから、校長に直談判しに行ったんだ。

でも、だめだった……決まりは決まりだって。

無性に腹がたってさ。部活の集まりで、ふっと言ってしまったんだよ

 はあ、とキサラギがため息をつく。

あんなにでかい金庫を買っているくせに、演劇部の部費を少しだけ上げるのには渋るなんて、ってね。

そっからは悪のりの体だよ。

あの金庫の中身、盗んで脅迫しようぜ、そうしようそうしよう、とんとん拍子に話が決まって、決行されて、あっさり盗めた

……予想外だったのは、桃子が絡んできたことか

その通りだよ……なんで、よりによってあいつが目撃者になるんだ

 姫様自信が、あのディスクと深くかかわっていることはもちろん知らないのだから、そうなるだろう。しかし、腑に落ちないことがある。

ディスクを盗んだ時点で、作戦は成功だろ。そいつを人質に金を要求すればいい話じゃないか。

なんで、中身まで知る必要があるんだよ

俺もそう思ったさ。ディスクを返してほしくば、って脅迫文を出したよ、メールでね。

そうしたら、校長側は、ディスクの中身がまだわかってないことを察したらしい。

その中身がわかれば、その中の情報を提示するぞ、と脅してくるはずだから、だそうだ。確かにそうだよな。

ディスクの中身がまだわかっていないようなら、許してやる、なかったことにするから、早く返せっていうのが、相手側の返事。

こちらがなんで盗んだかっても訊かないから、交渉になってねえよな

なるほど、校長側は校長側で混乱してるな

そういうこと。だからひとまず休戦、って考えてた矢先に、姫様が捜索するとか言い出して、俺はもう、とっても微妙な立場になったってわけ

 さらにだ、とキサラギは眉をつり上げる。

どうしようか迷ってたら、お前が、パスワードを知っている、だもんな

……状況は分かった。ようは演劇部の部費をあげればいいんだよな。

可能だ、絶対に大丈夫だ。だからディスクを返せ

……お前はどんな立場なんだよ

だから、お前よりいろいろ状況を知っている立場だっていったろ。ほれ、返せ

順序が逆だろ。先に部費、だ

 うーむ、確かに。クリアまで目前なのになあ。

わかった。いくらあげてほしいのか、どうしてあげてほしいのか、どれくらい何に使うのかをまとめた上で、書類にして俺に提出しろ。

部費が手に入ったらすぐに、俺にディスクを返せ。大事にしないから

……わかった

 よくわからないがわかった、というような表情だ。そりゃそうだ、結局こいつはなんなんだ、っていう俺の立場がよく見えないはずだからな。

約束しろ。すべて解決したら、この事件はちゃらだ、何も無し。俺はお前に何も言わないし、お前も俺に何も言わない

 じゃないと、俺が抜けたあとの縁君が大変だ。

じゃあ、またあとで

 俺は颯爽と立ち上がる。

あ、おい、お前、何で俺がディスクを盗んだことがわかったんだ。それだけ教えろ

 ああ、颯爽と立ち上がって何事もなかったかのようにいなくなる作戦は失敗だ。

 サンザシさんが、おれにこそこそと耳打ちをする。おいおい、それでいいのかよとも思うが、ええいやけだ。

――大量の衣装を用意できたのは、演劇部か撮影部だと思っただけだよ。

それで、パスワードを知ってる、っていう、ディスクを持ってるやつにしか分からない情報を言ってみただけ。

鎌かけたんだよ

……まんまとひっかかったってわけか

 お、よかった、納得してくれたらしい。

それに、お前、俺にディスクの内容訊いてきただろ。あのとき、怪しいなって思ったんだ

ケンと憲二はだませたんだけど、お前は無理だったか

 チャイムがなる。

 本当はとんでもない方法で知ったんだけど、と内心で思いながら、じゃあなと俺は歩き始めた。

 後ろで、放課後までに作ると、キサラギが叫んだ。

もう少しでクリアですねえ

 サンザシが、そう言って、隣でぴょんとはねた。本当に、おきらくだ。

1 秘密のディスクと不思議な姫様(10)

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