姫様のカレーを頬張りながら、俺はほぼ独り言をいうように、作戦をたてた。

 サンザシは、なるほど、そうですね、いいですね、おおーというような、決まりきった言葉しか言わない。

 まあ、ここで素晴らしいアイディアを出すサポートキャラだったら、向かうところ敵なしだし、それこそイージーモードなのだろう。


 作戦を一通り話し終わったところで、食事(絶品)も終わり、俺ははあ、とため息をひとつついた。

どうしました? うかないですね

そりゃそうだろ……こんな行き当たりばったりのアイディアしか浮かばない俺を、俺は情けなく思う

そうですか? 素敵なアイディアだと思いますけど

うまくいけば、ね

虎穴には入らずんば虎児を得ずって、こういうことを言うのですね

 全くもってその通り。

演技力が試されるな……

相手はその道で生きる人たちですしね

 そう。姫様が言っていた。事件について、演劇部のキサラギが、ごまかしたとか、なんとか。

 演劇部の人たちが、衣装でも使って仮面をかぶり、校長室を襲ったというのが、俺たちの見解。
 つまり、犯人はキサラギを筆頭とした、もしくは潜入者とした、演劇部一同だろう、という推理。

 ちなみに証拠は無し。推理というより、憶測にすぎない。
 しかし、ここにすがる以外に方法がない。

 なにしろあのディスクはとても大切なもののようだし、急がないと。情報が漏洩してからでは遅すぎるのだ。

姫様以外に、俺のこの状況を話すのはだめ、なんだよな

そうですね、ゲーム内のキャラクターに、これはゲームだと教えるようなメタ発言になってしまうものは禁止です。

姫様は、私たちから見たらメタな人物です。ゲームだということは教えていないにせよ、我々の状況を少しでも知っている存在ですからね。

ゲームマスターが絡んでいますから、特別だと考えた方がいいでしょう

 そういう人物は他の世界に行ったときにもいるのか、それともこの世界の彼女が異例なのか、ふと疑問に思ったが、そんなことを考えている場合でもない。

 まずは目の前の、このゲームを片付けなければ。


 かっこよくいうと、この世界を救わなければ。
 とか考えている場合でもなくって。

 誰にもサポートを頼めない現状では、本人に直接訊く他ない。それが、俺のだした結論だった。

 キサラギ本人に訊き、説得し、返してもらう。

 相手にだって、何か理由があるはずなのだ。

真っ向勝負だ……サポート、よろしく

お任せください。魔法が使えないことが、心残りです

ほんとなあ

世の中の決まりごとですからね、必然という名のの常識で!

 彼女いわく、魔法のない世界で魔法を使うのは、いろいろな世界でのご法度、世界の常識とやらだという。

 状況を把握するので精一杯だったが、そういや、魔法は使えるのか、と考えたのは先程。断られたのは直後。

 当たり前だ、ディスクを魔法でとってきてもらって、はいおわり、なんてことになってしまったら、もうそれはゲームではない。

ところで、姫様には作戦の概要を説明なさるのですか? 姫様にでしたら、立場上説明しても問題はありませんが

いや、言うつもりはないよ

……内部犯だというのは、伏せておくおつもりなのですね

万が一だけど、内部犯じゃない可能性も捨てきれないし、それに、相手の状況もよく分からないしさ……

 サンザシはにこりと笑って、うなずいて、

あなたは、いつも本当にお優しいですね

なんて、まるで知ったような口をきいた。



 作戦のことで頭が一杯で、学校で授業を受けなければならないというのを忘れていた。


 一時間目の数学を終え、俺はすでに疲れきっていた。

 ぽんぽん生徒に当てる先生で、しかも答えられないときはしつこくヒントをくれる先生だったから、あてられないかとひやひやしっぱなしだった。

 内容は、なんか知っているけど懐かしいものばかり。

 つまり、俺の実年齢は高校生よりかは上なのだろうという推理に到達したのが、唯一の救いだったかもしれない。

さぼる

 縁君すまない、と思いつつ、一時間目の休み時間に俺は教室を飛び出した。
 神経をすり減らしっぱなしじゃ、ディスクを取り返す前にへとへとになってしまう。


 朝、姫様にあらかじめ聞いておいた。姫様は、彼らとはいつも放課後に集まっていて、昼休みには女の子の友達とご飯を一緒に食べているのだそうだ。

 俺はというと、あの四人組で食堂に行く、というのがいつものパターンだという。


 そこがチャンスだ。作戦決行は、今日の昼休みに決めていた。

 さぼるために教室を出たが、休み時間のうちにキサラギに会いに行かなくてはいけない。俺がいたのは二組、彼は、姫様情報によると六組だった。

 幸運にも、目の前に六組がある。俺は教室を覗きこみ、青頭を探した。

 ちなみに、教室内はまあ華やかなことで、様々な色の髪の毛が集まっていた。

 髪を染めることが当たり前となり、いかにそこで個性をはっきできるかに、若者たちは精を出しているようだった。
 姫様いわく、縁君は控えめな方だというのだから驚きだ。赤茶なのに。

 青頭のキサラギ君は、教室の窓側の席に座っていた。ヘッドホンをして音楽を聴いている。声かけづらいなあ。

 づかづかと教室に入り、彼の視界に入ると、キサラギはヘッドホンをゆっくりとはずした。

どうした?

昨日のこと

 俺は、単刀直入に切り出した。キサラギの目が、少しだけ見開かれる。

すまん、俺、嘘ついてた。昨日よくよく考えて、お前には話しておこうと思って

……俺だけか?

そうだよ。だってお前、演劇部だろ

 キサラギは、さらに目を大きく見開いた。よしよし、驚いている、上々だ。

 演劇部だからなんだとはいってないが、彼が黒なら、演劇部が犯人だろ、に聞こえたはずだ。

 都合よく、チャイムが鳴る。

昼休みに、ここに来る

1 秘密のディスクと不思議な姫様(8)

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