…はあ

…二度に渡る除霊に失敗してから、1ヶ月が経った。まだ夜は蒸し暑かった。

なのにアイツときたら、まだ20代前半の頃の話をしているのだ。しかも居眠りしていると、起こしてくるようにまでなった。

ボクは日に日に痩せていった。幸せだから出てきた幽霊、まさかこんなものにボクが苦しめられるとは…今まで会ったどんな悪霊より、手強い。

このままでは取り殺される。ボクはそろそろ限界だった。

何とかコイツを成仏させる方法はないものか?考えているうちに、ふと気がついた。

…そういえば、ボクはまだ、コイツの名前も、住んでいたところも、知らなかったのだ。(どこかで話していたのかもしれないが、聞き流しているし…)

コイツの家族は、親族は、親しい人々は、
コイツのことをどう思っていたのだろうか?

こんな鬱陶しいやつだ、もしかしたら生前も…











ケシャ~~ッシャッシャッシャッシャ!!!

――なあ、お前さあ、名前はなんて言うんだい?

えええええええ!!?!?!??!wwwwwwwwさんざん話したじゃないですかwwwwwですからその話はまた傑作でwwwwワタクシがどうしてこんな名を貰ったかと申しますに――

名 前 は な ん て 言 う ん で す か !

んも~~~~うううううwwww
忘れっぽいんだからあああああ~~んんんwwww

三田 佐連照(みた されてる)ですよお~~~wwwww

み、三田 佐連照ぅ!?それってもしや、あの日本の富の3分の1を掌握しているという噂があるほどの超巨大企業「三田グループ」の名誉会長のことか!?ボクでも知ってる超有名人じゃないかぁ!?

道理で腹立つほどに幸福な人生を長々と語れるはずだ…!

…み、三田 佐連照…ね。ふ、ふーん…。
ち、ちなみになんだがな、お前の家族または親族が住んでいる家の住所を教えてくれないか?ちょっと行ってみたいんだ。いいだろ?

きゃあああああああああああああああ!!!!!ワタクシの家族にまで興味を持ってくれたのですねええええええ?????嬉しいなーーー!!!!幸せだなーーーwwwwまあ何しろワタクシの一族は超↑有名な一族ですからねええええwwwwまあその話はいずれお話しようと思っておりましたのですが――

やっぱりコイツ、”あの”三田 佐連照なのか…!?

く、くそう…なんだよ!この妙に萎縮し始めているボクの気の小ささは…!

…い、いや、待て!その、なんというかだな……そんな超有名な一族ならば、僕が行っても普通に門前払いじゃないか?だからその…どうすればボクみたいな一般人でも、お前の一族に会えるのかというのをだな…

ファーーーーーーーーーーーーーwwwwwやっとワタクシの凄さが理解できてきたようですねえええええwwwwwでも心配ご無用!!!!あなたにだけ特別サァーーービィスで!ワタクシの一族への接触方法をお教えしてあげてもいいですよおおおおおおwwww

そ、そうか…それは、助かるなあ!

うう…何だこの妙な敗北感は…











…とにかくボクは、この三田 佐連照(みた されてる)の家族に会いに行くことにした。














これは……!
…本当に、本当にとんでもない大豪邸だ…。いや、ここまで来ると宮殿だよ!さすが日本の富の3分の1を掌握していると言われる三田グループの邸宅…。

コイツ…本当にあの三田 佐連照だったんだな…改めて実感が湧いてきたよ…。

――この超大豪邸、いや宮殿に入る方法、
それは、コイツがごく僅かな親しい者にしか渡していない「佐連照帝国倶楽部」の会員バッジを持っていること。これを身に付けていること自体が、ステータスだと言っていい代物。

それを付けて行けば、コイツの親しい友人、
VIPであることは証明されているようなものだという。
少なくとも、門前払いはあり得ないそうだ。

ボクは、コイツにそれを持って来てもらい、
バッジを身につけてここへやって来たのだ。

ワタクシの家、凄いでしょおおおおおおおおwwwwwww今アナタビックリしているでしょおおおおおおおwwwwwwwwwwwwww

…そう、コイツにも来てもらった。

コイツが居なけりゃ、バッジを付けていても、
三田グループの厳重な警備チェックをくぐり抜けられるとはとても思えなかったし、何より、
家族や親族がコイツをどう思っていたのか、
直接聞いて欲しかったのだ。

しかし、真っ昼間からハイテンションで取り憑いてくる幽霊を想像して欲しい…生き地獄である。

キシャアアアアアアアアいつ見ても素敵な最高の我が家にゃああああああああああああああ!!!!!!

に、してもだ。
ダメだ…とてもガマンできない…。

…なあ、三田さん、頼みがあるんだ。

ウエエエエエハッハッハッッハッッハwwwwwwww見ているだけで幸せだなああああああああwwwww

聞いてくれ!真面目なお願いなんだ!

すまぬwwwww我が家を見たらついテンションが上ってしまってのうwwwww

ニュースで見たんだが、アンタってさ、確か120歳で死んだんだろ?奥さんと二人、手をつなぎながら、笑顔で息を引き取っていた…。

てことはだ、どう考えても、アンタ120歳の時はそんなハイテンションじゃなかったよな?

…今のアンタってさ、要するに「肉体から自由になって身軽になった解放感からテンションが高くなってる」状態なんだろ?いわゆる「学校ではおとなしいけどツイッターではその反動で超ハイテンションな奴」みたいな。

それプラス死んでなお幸せすぎる状態なwwwwwwwwここ重要wwwwwwww

わかってるよ!でもな、今だけは…今だけでいいから、一回生きていた頃のテンションに戻ってくれないか?頼むよ。

うぇ……?うぇ……?

アンタなしじゃ、こんな厳重な警備チェックを通過することはとても無理だ。でもアンタがそんなノリじゃ、とても通過できる自信がないんだよ。

頼むよ、このとおりだから…

……

承知した。お前の言うことは最もだ。では、私もここからは生きていた頃の自分に戻ろう。なあに、任せておけ、ここは私の家だからな、必ず私の家族に会わせてやるよ。

…そのノリでそのまま成仏してくれないのですかね。

それは出来ない相談だな(笑)何しろ私は今とても幸福なのだ。それをお前に伝えきるまでは、どこへも行くつもりはない。しかしこの幸福はいつになったら伝えきることができるのか、検討もつかないよ。すまんな。

…ねえ君、さっきからここで何をしているのかな?なにか喋っているようだけど…?

(ゲッ、警備員!)
あ、す、すみません。ボクは佐連照さんの友人だったんです。ほらこれ、佐連照帝国倶楽部のバッジ。ご家族に会って、渡したいものがありまして…。

…む…これは……。念のため、一応スキャンさせてもらうよ。

……

…本物だ。
驚いた…君みたいな若者が、このバッジを!?











ボクは最新鋭の厳重なチェックを何度もくぐり抜け、
やっとの思いで、グループの現会長であるお孫さんの部屋まで通してもらった。
(息子さんはご高齢のため、会うことが出来ず)











いやあ、これは祖父が大事にしていた思い出の懐中時計ですよ。返しに来てくださるなんて…ありがとうございます。

アイツに持ってきてもらったんだけどね…

しかし、貴方のような若者とまで親交があったとは…改めて祖父の交友関係、人脈の広さには驚かされます。

佐連照さんには大変お世話になりました。
感謝してもしきれないくらいです。

自然に嘘を付くじゃないか。
若造にしてはやるな?

今は邪魔しないでください!

ちなみに、お伺いしたいのですが…
























まさか(笑)祖父を嫌っていた者など居るはずがありません。彼に関わった人々は皆、彼を心から慕い、尊敬しておりました。あんなに寛大で豪快で優しい方はおられませんでしたからね。

――祖父はどんな時でも勝利しました。飛ぶ鳥を落とす勢いでのし上がり、ライバルをはねのけ、常に頂点に立ち続けた男です。そして、それを誇ったこともなかった。

――そりゃあもう!もう一度、会いたいですとも!あってまた語らいたいですよ!積もる話がたくさんありすぎるほどです!

…ところで、なぜそんな質問を?

孫よ、嬉しいぞ。いまだ私を尊敬してくれているとはな。












その後、この家に仕えている人々に聞いてみたのだが、
やはりみな同じだった。











奥様ともども素敵な方々でしたよ。誰に対しても分け隔てなかった。もう一度、お会いしたいわねえ…。一番の思い出ですか?そうねえ――

お仕えしたのは僅かな期間でしたが、本当に優しく温かい方でした。一番覚えているのは――

あの方は、私のようなほとんど会うこともない警備員にも気さくに話しかけて下さり、語り合ってくださった。あんなに良い人はおりませんでしたよ。思い出はね、いっぱいありますよ!例えば――

大お爺ちゃん、大好きー!

ありがとう…ありがとうみんな…。みんなにも、私の姿と声が聞こえたらいいのだがな。











その後、彼の親しい友人にも会い、
話を聞いてみたが…みな同じ。

口々に語るのだ。コイツの…いや、彼が与えてきた、
たくさんの愛を、たくさんの優しさを。

笑える話、うれしい出会い、悲しい別れ、豪快なエピソード、痛快なエピソード、沢山の人を救ったこと、誰もが彼に惹かれ、誰もが彼を支えたこと…

本当に、本当に良い人生だったんだな。羨ましいよ…。

不覚にも、ボクは彼を少し尊敬し始めていた。成仏させようと思っている僕が間違っているのかと思うほどに。

…誰か一人くらい、コイツ、いや、佐連照さんを疎ましく思っていた人がいれば、その人の恨み節で、佐連照さんを凹ますことができるのでは…と思ったのだが。

あるいはその人なら、死してなお現世にとどまり続ける佐連照さんを説得してくれるかもしれない、という算段もあったのだが…。

みな、口を揃えて彼に「また会いたい」という。とても「成仏させたい」なんて話はできそうにない。それどころか、ボクの話なんて信じてくれないだろう。「佐連照さんは今ボクに取り憑いています。しかも幸せだったから出てきて、毎晩ウザすぎるのです。成仏を手伝ってください」だなんて…。

……。

ひゃあああああああああwwwwwやっぱり我慢できないwwwwもうここまで来たんだからハイテンションに戻しますねえええええwwwwwwwww

…ええ。どうぞ、お好きなようにしてください…。

なんか塩らしくなってるしwwwwwwwwwwww

どうすればいい?ボクはこのまま佐連照さんに取り殺されなければならないのか?

いやダメだ…「幸せな幽霊」に殺されるだなんて…なんて死に方だよ!

考えろ…どうやったらこの人を成仏させることができるんだ。

もう我慢できないwwwww今から息子が生まれた時の話をしちゃいますね????ね????ね?????――

今までの出来事に何かヒントはないのか……

……ない。ダメだ。

こんな恵まれた男に、隙なんてないよ。それにしても、お孫さんのあのセリフ…。

――祖父はどんな時でも勝利しました。飛ぶ鳥を落とす勢いでのし上がり、ライバルをはねのけ、
常に頂点に立ち続けた男です。
そして、それを誇ったこともなかった。

そしていつぞやの佐連照さんの自慢話…

――そうやって数多の強敵・ライバルを打ちのめし、
弱冠21歳にして一大財閥を築くことになったワタクシですが…

――とまあこんな感じで彼女はワタクシを選んだのでございますが、いやあ~~~ライバル共は悔しくて悔しくてしょうがなかったでしょうねえええwwwwww

常に勝ち続けた男、か…。
世の中って不公平だよな、もう!

嗚呼、いい天気だな…むしろクソ暑いな…
なんかもうどうでも良くなってきたな…。

…ん!?ちょっと待てよ…!?

“常に勝ち続けた男”

これだ…!掴んだぞ!

もしかしたら…もしかしたらだけど、この方法なら…この人を除霊できるかもしれない!

――うちの妻なのですが、その時にうんたらかんたらボボラボラゲラヘラヘロロバベデ――

…佐連照さん、今日は本当にありがとうございました。感謝します。
でも、とりあえず今はボクを一人にしてくれませんか?続きはまた夜にゆっくり話を聞きますから。

――おらおれ…られれろ…ぶぅええええ???wwwwちょっと今いいところだから中断なんて無理ですからwwww一旦良いところまで話を聞いて…

お願いですから!











とにかく彼には一旦どこかへ行ってもらい、
ボクが向かった先は…











…企業…自伝…

…あった!佐連照さんの自伝(10巻分!)
立ち読みで“アレ”がどこまで見つかるかな…。

……。

…長すぎる!ええい全部買っちゃえ!











そして次にボクの向かった先は…











墓地だ!

まずはこの墓地からだ!
日が暮れてきたぞ…いい時間だ!











だが、これはまだ序の口!これから自伝を読破して、
もっともっとたくさんの墓地を回らなければ!
そうだ、心霊スポットも行ってみよう!
これが除霊の糸口になるはずだから…必ず!

今度こそ除霊するぞ…この人を!




続く…

第三話「お前は誰なんだ?幽霊」

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