ハッピーゴースト！ | 第四話「除霊だ！幽霊」（前編） | ガーデンガーデン

…ふう。

…いよいよ準備は整った。この蒸し暑い夜、ボクは今夜、あの人を除霊する。

本音を言うと、少し辛い。でも、これは自分の命と、あの人のためでもあるんだ。やらなければ。

――ああ～～楽しいなあ～～幸せだなあ～～幽霊っていいなあ～～～ｗｗｗｗｗ

…

あらゆる思想・宗派を飛び越えた全ての神仏よ、ボクをお守りください。

――あらゆるものに宿る八百万の神々よ、星の神よ、まつろわぬ神々よ、かつて忘れ去られた神仏よ、神仏習合の神々よ――

――で、なんと目の前に現れたのは！当時国内では最高級であった和食・洋食・中華のフルコースでありまして、その絢爛豪華満山全席の極みと言ったらもう筆舌に尽くしがたく！その料理がどんな内容なのかひとつひとつ説明させていただきますと――

――オン・バザラド・バン、ナウマク・サマンダボダナン・アビラウンケン――ナウマク・サマンダバザラダン・カン――

…ってあれｗｗｗｗｗどうしましたあああ？？？？まさか聞いてませんかああああｗｗｗｗ？？？？もう一回最初から話しますよおおおｗｗｗｗ

…佐連照さん、聞いてください。
ボクは最初、貴方をただのウザい幽霊だと思い、軽蔑していました。だけど、貴方の家族や友人たちに会い、あなたの話を聞いた今、ボクは貴方のことを心から尊敬しています。

だけど…いや、だからこそ、貴方が生前、素晴らしい人だったからこそ、断言する。貴方はいま、紛れも無く「悪霊」だ。ボクはこのままでは、貴方に殺されてしまう。

そんな大げさなｗｗｗｗｗｗどうぢで！！？！？！？ワタクシの幸せな話を聞いてアナタも幸せでしょおおお？？？？ｗｗｗｗ

貴方は気づいていますか？ボクは、日に日に痩せ細り、弱っていることを。そしてそれは、貴方のせいであるということを。

ちょ……
ちょっとおおおおおｗｗｗそうかあああｗｗｗｗ寝不足にしすぎましたねええｗｗｗごんめｗｗｗいやごめんなさｗｗｗ

そうだ！！！これからはもう少し早く帰りますねえええ？？？？ｗｗｗ

違うんだ。そういう問題じゃないんだ。
たしかに、ボクも最初はそう思っていた。
貴方はただの変わった幽霊なんだと。だけど、貴方はいつまで経っても成仏しない。

それに「自分の幸せ」を伝えに来ただけの幽霊なら、ボクはここまで弱らない。貴方は、ボクのエネルギーを奪いながらこの世に存在しているんだ。それはもはや「悪霊」と何も変わらない。

奪っている！？悪霊ｗｗｗワタクシがｗｗｗｗそんなｗｗｗｗワタクシの話でエネルギーを与えているでしょう？？？？？？？？？？

貴方が「幸せな幽霊」だということは疑わない。でも、それは決して一緒にいる人間までも幸せにしてくれるわけじゃないんです。

残念ながら、貴方が幸せだからといって、ボクが幸せになるわけじゃない。

…。
じゃ、じゃあこういうのはどうでしょうｗｗｗワタクシがあなたにこの世で成功する秘訣を教えて差し上げますよｗｗｗ大金持ち間違いなしｗｗｗｗどうですか？最高でしょｗｗｗｗ

ありがたい話だ。でもお断りします。たしかにお金は欲しい、幸せも欲しい。だけど、ボクの良心がそれを咎める。

それに、貴方に従えば、いつまでも貴方に頼り続けることになる。はやく貴方を成仏させてあげなければいけないのに。

良心？？？？ｗｗｗなぜｗｗｗ世の中とはそんなものですよおおおおｗｗｗｗ利用できるものは何でも利用するんですうううｗｗｗｗ

ええ、わかります。でもそれは半分ウソでしょう？貴方は自分がのし上がるたびに、誰かを蹴落としていることが苦しかったのでしょう？

ボクはバカだ。貴方の気持ちがよく分かる。だからこそ、貴方のアドバイスは聞けません。

…。
いやｗｗｗそんなｗｗｗ
ワタクシの気持ちがわかる？？？？？？

…あなたの自伝、読みました。内容は10巻分、とても長い。そして何より、あれほど長い自伝を書いておきながら、貴方は最後までどこか自分の功績を謙遜した書き方ばかりをしていた。

…ストレスが溜まったはずだ。なぜなら、貴方は本当は、あの自伝で自分の人生を自慢したくて自慢したくてたまらなかったのだから。

でも、できなかった。分かっていたからだ。延々と続く自慢話、幸福すぎる人生の披露など、妬まれるだけで誰も読みたがらないということを。

わ…ワタクシはｗｗｗあの自伝を書いている時は…心の底から嬉しくて…いやｗｗｗ

お孫さんは言った。貴方は決して自分の言動を誇ることはなかったと。でも本当は、生きているうちに力いっぱい誇りたかったのでしょう？

貴方は「自分はこの世に心残りなんかない」と言っていた。これも嘘だ。貴方は自己顕示欲を抑えながら生きたんでしょう？だから死んだ後に、力いっぱい自分の人生を誇らなかったことを後悔したんだ。

……

だから貴方は幽霊となってボクの前に出てきて、延々と「自分がいかに幸せだったか」を語り始めたんだ。

もっと早く気づくべきだった。貴方の言う「幸せだったから出てきた。それを聞いて欲しくて出てきた」ということの意味を。それはつまり、生前に自分がどれだけ幸せだったのか、恵まれていたのかを精一杯自慢できなかった「心残り」だったということに。