卒業式…


一人一人呼ばれる卒業生の名前。

一人…また一人…と呼ばれ、あっという間に俺の番が来る。

もう後には引けない。

俺はこの卒業式の場にアレを持ってきたんだ。
アレを紙袋に入れて持ってきた時点で後になんか引けないんだ。

いや…引く必要がどこにある。
今の俺にはツルッパゲの校長が待つステージの上へと続く一本の道しかないじゃないか。

それは、この先も同じだ。

決めた道に分岐なんて必要ない。

もしもあるなら―――それは甘い罠。

草むらを刈ってでも進めッ!

道は自分で切りひらくッ!

考えながら進み気が付けばステージの上に立っていた。


聞こえる…。
自分の息が聞こえる。

聞こえる…。
自分の心臓の音が聞こえる。


卒業証書を受け取り振り返る。


全校生徒・親族・先生・知らない町内会の人…全ての視線が俺を突き刺す。

俺は…


俺は校長を背に立ち止まりステージの真ん中で叫ぶ。

俺は、ずっと自分の夢が見つけられないでいた。でもそれは―――


俺が言葉を続けようとすると、担任の先生やいろんな先生が物凄い形相で駆け寄ってきた。
あっという間に取り押さえられるが―――俺は抵抗し言葉を続ける。

―――でもそれは、本当はウソなんだ!ただ夢を言うのが…口にするのが恥ずかしくて…勇気なくて…


俺はどんどんステージの下へ引きずり下ろされる。

その時一人の声が体育館に響いた。

離してあげてください!


遥だった。

遥の意外な叫びに先生たちは俺の身体から手を離し俺はまたステージへ上がる。

はぁ…はぁ…このままは終われない。大学進学を捨てて、就職活動もしてない俺は…このまま終われない。そんなヤツだったなんてクラスのヤツに思われたまま終われない!俺には夢があるんだ!夢は声に出して初めて叶うモノだと信じてる。だから俺は―――勇気を出して言う。


俺は手に持っている紙袋をステージの上から会場へと投げる。

 紙袋は曲線を描きながら飛び―――袋の中から一枚。また一枚と紙がこぼれ落ちる。

やがて、一枚の紙を手にした在校生の一人が口にする。

これ…田中じゃね?


そしてまた一人声に出す。

あれ?三井先輩?


そしてまた一人…

これ…私?

わ、我輩でありますか?


また一人…また一人…。

その紙はこの学校と生徒達が描かれたイラストだった。
部活をしている生徒たち。

体育祭の光景。

文化祭の合唱している姿。

どれもこれも、知っている人が見たら特定できるくらい特徴を捉えたイラスト。

俺の夢は―――漫画家になる事だ!


体育館を包み込む静寂。

先生たちは誰一人として動こうとしなかった。

騒いでいた親族の人たちや、町内会の人たちも黙っている。

そしてもちろん生徒たちも黙ってジッと俺のイラストを見ている。

この静寂を切り裂く様に手を叩く音が響く。


―――パチパチパチ―――

おかえり―――夏樹

遥だけが立ち上がり、拍手をして俺を見ていた。

なんだか勝手に涙が出た。

でも…どうしても言いたかったんだ。

ただいま。遥



それから―――

高校を卒業して直ぐに出版社に作品を投稿した。

半年後に結果が出たが、入賞とはいかなかった…人生そんなに甘くない。

何度か読み切りの作品は週刊誌に掲載されたが、まだまだだ…。


 遥とは相変わらずの時々会う程度だが、多分俺たちは順調なんだろう。

気持ちはいつも側にある様に感じれる。

そして―――

1年経過した今、いよいよ自身初の連載作品を描いている。

はい。はい!…もぉ絶好調っすよ。既に完成してるっす。任務完了ってやつですよ


ピッっと電話を切り、電話を机の上にそっと置く。

…認めたくないものだな―――自分自身の若さゆえの過ちというものを


などと言っている場合ではなかった。

後数時間で担当の人が作品を取りに来るだろう。

でも…完成なんてしてねーよ。

むしろ完成する気配すらねー。

作者取材のため休載にして欲しいくらいだ。

はぁ…よくねぇよ…嘘はよくねー


(…また嘘付いちゃったのですカ?)

まぁな…


部屋にせんべいの砕ける音が響く。

えっ?

嘘は良くないのでス


目の前に、少し見なれた感じの和服少女がフワフワと浮いていた。

だから、俺は椅子から転げ落ちて最大級に驚いてやったよ。


これでこの物語は終わる…が、俺の人生はまだ続く。

筆遊び~プラネタリウム~ 第5話(最終話)

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