〜純文学の歴史。 part4〜

前回、なんであんななり損ないのアニメみたいな終わり方だったんですか?

まあ、気にするな。気にしたら負けだぞ

作者が面倒くさいから切ったんだもんね

おまwwwメタ発言んんんんwww

うるせえなあ。文学史語るにも時間かかるのだよ。

だそうです

タカネさん、今何と話ししていた⁈

あと、少しだから

だそうです

面妖だぁ……面妖だぁ……

で、貴方様。前回の最後に四人の名前をあげられましたが……

ノーコメントかよ……まあ、いいや。昭和三十四年、一橋大学にいた石原慎太郎という23歳の青年が『太陽の季節』という作品で流星の如くにデビューを遂げた

え……石原慎太郎って、あの石原慎太郎?

せやで。都知事で議員のあの石原慎太郎やで。石原裕次郎の兄貴の

あの老害でデブで瞬きが激しくて、自分の作品はめちゃくちゃで太陽の季節が残っているくらいなのに他人の作品に偉そうにケチつけまくって、読む価値がないとか吐き捨てたり、政治家としてはろくな業績がないくせに威張り散らしていて、自分の若い頃を棚に上げて、若者の軟弱さとアニメや漫画排斥論を説いたりする、石原良純の親父さんの石原慎太郎?

お前、どんだけ悪口出るねん! まともなの最後しかねえじゃん!

だってそうじゃん

まあ……若者から見ればあながち間違いではないんだがなあ……

せやろ。クソ老害やん

まあまあ、ここではそういう話はあまりしない……政治的なことはあちらに置いておいて

寝ま

せんからね? 石原慎太郎は戦前生まれとはいえども、第三の新人のように召集されたり、抑留の経験のない、アプレ……まあ、戦後の若者だったんだな。それは石原に限らず、大江、開高、有吉もそうなんだが……

ほお

その四人の中でも石原慎太郎はお坊ちゃんで現代的だった。大江は愛媛の山の中、開高は大阪の闇市、有吉は和歌山……それに対して、石原慎太郎は神戸生まれの逗子湘南育ちというね

荒くれKNIGTHみたいですね?

お前……もう少し、サザンとか大衆受けするような例えがあるだろう……

テヘペロ

そんな坊ちゃん気質がいい意味でも悪い意味でも慎太郎に影響を与えたわけなんだが

今は悪い意味で

いうな! まあ、でもその坊ちゃん気質は石原裕次郎にもあった。愛川欽也が戦争体験話す時によく言っていたよ。『石原の家は金があったから甘いものに悩んだ経験がない。俺ら疎開組がやられた先生の傍若無人ぶりや飢えを知らない』って

なるほど……

まあ、それは置いておいて。石原慎太郎は子供の立場として敗戦を経験し、様々なものを見たと思うんだ。喪失まで行かないとはいえね。ある意味で、子供への抑制、戦時協力の圧迫から解放された。石原慎太郎をはじめとしたこの世代は『解放の世代』とでもいうべきかね

解放の世代?

ふむ。もう何もビクつく必要はない。変なことを書いて非国民呼ばわりされたり、空襲や飢えもない。すべてから解放された、と

なるほどね

この解放を基盤に、石原慎太郎は自分の身の回りの話や経験をまとめた。それも戦時中のように抑制した、お上や軍部の顔を窺うような筆跡ではなく、エログロマゾ、坊ちゃん気質で痴呆的なまでにアホをやる若者の姿を描き切ったのさ

それが太陽の季節……

せや。それで石原慎太郎は当時出来たばかりの『文学界新人賞』に応募をした。やはり、問題作として扱われたが、多数決の結果、大賞に輝いた。これは評論集なんかにあるが、選考委員の一人だった武田泰淳(前回参照)が面白いこと言ってるよ

なんて?

この人は作家でなく、大実業家になりそうだ、って

ふふふふ! それは傑作だね! 老害政治家に成り果てて……

あのなあ! それで、文学界新人賞と同時に芥川賞にノミネートをされたんだな

へえ。芥川賞に

そうしたらね。芥川賞はじまって以来の混戦になったんだ。まあ無理もない。こんな性を赤裸々に描く作品なんてないから……まあ、これは機会があったら詳しく話すが、戦前組からすれば石原慎太郎の文学はまさに未知との遭遇だったに違いない

なるほどね

それで……揉めに揉めた末に彼は芥川賞を受賞したんだ

え? 性を赤裸々に描いた作品で?

うむ。二つの幸運を得てな。見事に受賞。

二つの幸運?

まず一つは、石川達三をはじめとした賛成者がいたということとその前後で書いた作品が認められた、ということだ

認められた?

ふむ。石原慎太郎は文学界新人賞を受賞した後、何作か執筆をしているんだ。

なるほど

それがな、太陽の季節だけなら落ちるかもしれなかったのを、この人は実はちゃんとしたものをかける、というクッションになったんだな。

もう一つの方は?

もう一つは優秀な候補者がいなかった上に不毛地帯の中でノミネートをされた、ということだろう

不毛地帯?

ふむ。この時、石原を含め候補者は五人。安部公房の折は九人、松本清張は十人、吉行淳之介に至っては十三人だからどれだけ少ないか一目瞭然であるよ

確かに……松本清張の半分じゃん。十分の一と五分の一ではその確率は二倍だもんねえ

せやで。宇野浩二って芥川賞選考委員が昔、運鈍根(堀田善衛が芥川賞取った折)という皮肉を吐いたことがあるが、悪く言えば石原慎太郎は運鈍根の運で受賞したというわけだ

うどん粉?

讃岐うどん……

うどんから、食べ物から離れてください

お腹すきました

早えよ!

で、そのうどん粉がどうしたの?

運鈍根な。運鈍根ってのは、古い言葉なんだ。
運はそのまんま、命運、天運のチャンスとしての運だな。これはわかるだろう。

うん

…………

で、鈍ってのは鈍い、即ち、頭が良すぎてあれこれと考え先走るのではなく、じっくりじっくり攻めるのがいいってこと

根は根性の根でしょうか?

せやな。根性……即ち、我慢ということだ

で、石原慎太郎は運だったと

ま、そうなるわな。これといっていい作品がなく、さらに二十三歳学生という看板は多かれ少なかれ、受賞に導いてくれたに違いない。

どんなに汚い花でもそれが荒野の中だったら、綺麗に見えてしまう。ひときわ目立つというような感じでしょうか……?

意外に詩人やな……。まあ、そうなるんだわ。結局、見劣りする話の中で、一つだけ特異な話が現れた。これが目立たないわけがない。いつの世もタイミングと運と話題性は必要なんだな

それで、石原慎太郎はそんな運続きで見事に芥川賞を受賞した。この受賞は文壇に衝撃を与え、世間の価値観をひっくり返すことになったんだ

どうして?

ふむ。受賞や作品というものに『スター的価値』というものがつき始めたのさ

スター的行動価値?

一言で言えば、作家のスター化。アイドルのような扱いをされるようになったんだな。

受賞後の石原慎太郎は一時期の風俗に大きな影響を与えた。太陽族に石原裕次郎ブーム、慎太郎刈り……といった具合に

こうこ……いえいえ、教育係に教わりました

……タカネさん。あんた、本音が出かかってますよ

面妖な!

こちらが言いたいわ……

で、これに続けと言わんばかりに文学ブームが起きてな、作家は三文文士で古臭い、という因習を打ち破ったんだ。さらに書けば売れる。第三の新人までの賞を取っても三千部、芥川賞でも見通しがつかぬ、という貧乏新人からの脱却に成功したんだ

え。いいじゃないですか。今と違って

……しかしな。これには大いに問題があった。石原慎太郎の人気が出れば出るほどにマスコミは文学作品の本質を見なくなったんだ

本質?

太陽の季節ってのはね。今見れば馬鹿学生の戯言程度だけど、当時から見れば文学の破壊だったわけだ。モラルの崩壊的なね。即ち、不真面目でどうしようもない、亜流的なものばかり目されるようになったんだな

今のラノベブームみたいな感じでしょうか? ネットとかから話題性だけで売り出す的な……

まあ、そんな感じ。ゴミをも売る、ではないけどね。とにかく、石原慎太郎の作品の本質ではなく、若くて俳優を弟に持つ、問題的な作家。こればかりがクローズアップされたんだ

マスコミ的な

先述した宇野浩二が見事に石原慎太郎の態度や作品を見事に指摘しているよ。『……意地わるく云えば、一種の下らぬ風俗小説であり、又、作者があたかも時代に(あるいはジャナリズム)に迎合するようにこの頃流行している、『拳闘』を取り入れたり、欲しいままの性を出来るだけ淫猥に露骨に書きあらわしたり……』とね

わーお。辛口

石原慎太郎はこの時、宇野浩二と一緒にボロカスに貶した佐藤春夫は終生恨んで、西村賢太なんかとの対談で嫌な奴とボロカスに貶しているのに、宇野浩二については一切語らないのは一番痛いところをつかれたからかね?

どうなんだろ。でも、自分が佐藤春夫にされて嫌だったことを、数年前まで石原慎太郎、芥川賞選考委員としてやっていたんだから笑えるよねwww

それなwww舞城王太郎の候補作を名前見るだけうんざりとか、侮辱も甚だしいでしょ

ねー。麒麟も老いれば駑馬にも劣るって言葉があるけど、今では悪名高き老害野郎だもんなあ

……でもね、この石原慎太郎の登場ってのは文学の転換でもあったのかもしれない。これまでの純文学は作者の意図や思想に基づいて書いていたのに対して、ここらから敢えて時代を迎合し、流行を取り入れるような作品がね。これは大衆文学なんかもそうなんだけども……

ふーむ。難しいですね

なんか長くなってしまったなあ。では、有吉佐和子に移ろうか

あれ、大江健三郎じゃないの?

実はね。この石原慎太郎が受賞した時、候補作品として残ったのがこの有吉佐和子の作品だったんだ

なるほど……でも、有吉佐和子って誰?

有吉佐和子はなあ。一世風靡した割には今ではコアなファンか笑っていいともの話題ばかりだもんなあ

あの、てれびで暴れた、というやつでしょうか?

せや。しかし、この人は石原慎太郎とは真逆の正統的な純文学作家だったというのは明記しておきたい

へえ。女流で正統的とは珍しいですね

有吉佐和子はな。石原慎太郎より一歳上で、やはり裕福な家庭の生まれだ

裕福が多いですね?

まあ、文学に限らず、今と違って、昔なんてボンボンの道楽呼ばわりだったしな。創作なんて。

なるほど

んで、和歌山で生まれ、一時父の転勤について、ジャワに行った。このジャワの経験は彼女に大きな影響を与えたといわれている

南国ですね。

一言で言えばジャワは劣っていると教わっていたはずなのに、よほどジャワの方が素晴らしかった。常夏だしね。戦中に帰国するわけだが、その日本というのはどうしようもなかった。建築物も下水も食生活も。大和魂なんて下らぬもので意地を張る日本人風情の情けなさに彼女は幻滅した。病弱で、さらに集団的な日本人体質が有吉にとっては最悪なものだったに違いないと思うが

なるほど……

そんな彼女の心の支えになったのは歌舞伎をはじめとする日本の伝統芸能であったんだな

歌舞伎のミカタ!

やめろ! それは中の人が考えているネタだろ!

メタwwwww

おふざけはやめよう。戦争が終わり、解放された彼女は二つの行動に出る。一つはカトリック入信、そして、演劇批評家への夢の実現だった

カトリック入信……

学校がミッションスクールだったのも大きいが、この戦後の入信というのは、何か解放らしきものを感じないかい?

まあ、少しは

そして彼女は批評を書き始め、そのうち、賞を取る。さらにそれに並行するかのように小説も書くようになった。

てか、ダンディーさ。そんな説明する必要あるの?

……ふーむ。石原慎太郎と有吉佐和子は本当に対照的だから、はいはい、こうですねこうですねっていけないのよ。尚更、石原慎太郎なんて純文学的か言われたら困るし……第一次、第二次、第三の新人はもう少ししたらまとめるよ

……了解。まあ、どうせ原稿料貰ってないんだから好きな風に喋って

嫌味言うなや!

で、だ。彼女ははじめ、『白痴群』、先述した三浦朱門らが主催した『新思潮』に所属をしてな。小説を書くようになったんだ。ここで後に才女の名を争うことになる曾野綾子と出会うのだから縁とは不思議なものだね

え? あの問題な人と?

あのな……当時の曾野綾子の作品は本当に達者だぞ。第三の新人で紹介するが。それで有吉佐和子は少しずつ腕を上げ、『地唄』という作品を書き上げ、第一回『文学界新人賞』に応募したんだ

結果、次点と……

うむ……やはり、古く格調のある文より、アプレ的な新しい作品が取られた、というのは見るべきものがあるだろう。『地唄』はいい小説やで。これもミカタであげておく

よろしくー

その後、有吉佐和子さんはどうなさったのですか?

まあー。石原慎太郎と違ってあまり政治方面はいかなかったなあ。けど、芸術面においては実に行動的で、貴重な芸談、ルポ、批評、台本、芝居などたくさん残した。

へえ、作家らしくて良いじゃない

例えば?

紀ノ川と呼ばれる一連シリーズに、華岡青洲の妻……これは未だに芝居になるほどだね

華岡青洲?

日本で最初、麻酔を使って手術を成功させた人だよ

存じております。華岡青洲の妻が夫の為に家の為に犠牲になるという……

へえ。パイセン、さすが年齢不詳だけあるね

ギリギリギリギリ……

イタイイタイ! 悪かったって! 髪引っ張らないで!

……他には?

チーン

……お前、フミをボコボコにしておいてよく平然保ってられるなあ?

天誅です

あの……まあ、そうだなあ。そうそう。この人は社会的な小説を書いたんだよ

社会小説ですか?

恍惚の人って呼ばれる介護小説や、私は忘れない、複合汚染という一連の事件ものね。

なるほど……

この人のすごいところは、日本のみならず世界を論じようとしたところかな。無論、日本も独特の視点で見ているわけだが。この着眼点の鋭さは、政治で日本を動かそうと夢を、妄想を描いた石原慎太郎とは大きく違って、その行動はまさに作家冥利に尽きるもので、もっと評価されるべき点だと思うけどなあ

でも、やはり……先述なされたように、作品の本質でなく、人物の逸話や行動ばかりが注目されるのですね……

……そこが日本人の愚かしいところだと思うけどね。作品なんぞろくに見ていないということになる

ふーむ。難しいですね……

……だいたい、小説家とかはあまり政治なんてやるもんじゃないのよ。老いてなら分かるけど。石原慎太郎みたいになっちゃうと作品より悪政や人柄が非難されるからね

石原慎太郎……彼は悪評で後世に残るでしょう……残念ながら

ふむ……悲しいけどね。仕方ない。これもまた生き方だ。なんか有吉佐和子短くなったが、彼女は後であげるから……ではね、少し休憩して、大江健三郎と開高健。そして、少し余談を話すことにしよう。

はーい!

忙しい忙しい。
イラストやらねば。
少し遅れるかも。

純文学のミカタ!! ~第五話。純文学の歴史 part4~

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