第四話 ~純文学の歴史 part3~

パイセンすげえ! スイーツ食べ放題で50種類のスイーツ全部食べた!

ふふ。大変美味でございました

……お前らの胃袋はどうなってんだ?

とっぷしーくれっと、です♡

…………

…………♡

まあ、いいや。で、だ

はい

芥川賞は昭和二十年まで続いたが、戦争と戦後の混乱で四年近く断絶する羽目となった。これは芥川賞に限らず、直木賞然りだし、昭和十年台から文学界の雲行きも随分と怪しくなってきたんだな

はあ、雲行きですか……

どういうこと?

即ちな、好きなものが好きな風に書けなくなってしまったのだよ

弾圧、というやつでしょうか?

まあ、弾圧だな。当時、賞や懸賞作品の多くが戦争協力的な作品に変化して、中には元々社会主義的で、プロレタリア書いてたような連中まで皇国史観や戦争協力に媚びるようになったんだな

嫌な時代ですね

けど、ここで間違えてはいけないのは、この作家協力を右翼だ、とか、戦争犯罪者だ、とか安易に言っちゃダメなんだな

どうして?

そりゃ当然で。今の時代で見れば、あの戦争は愚行であり、侵略的とーーまあ、今右翼だの左翼だのが売国奴などなんだの猿みたいに喚いているがーーいう位置付けで反戦的な人が偉く、戦争に乗じて偉くなったという人は悪い位置付けになっているけどね

はい

当時としては、それらの戦争協力、皇国史観なんかのイデオロギーを持ち合わせている、というのは当然の思考であり、それが普通であったんだ。だから、彼らの多くは敗戦まで、天皇は神だと思っていたし、軍部は素晴らしいと思っていたわけだ。逆に今みたいに天皇がー! だの東条英機は、山本五十六は愚将だ! なんて恐ろしくて言えなかったわけよ。まあ、少し話が飛ぶけど、軍部は日本人の集団心理をうまく操ったわけだ。

イデオロギー?

イジメとかあるだろう。最下層を虐めることによって、自分達はいじめられないようになる。だから集団で最下層イジメるようになる、て話ではないけどね。作家やら芸人にうまく愛国的なものを書かせ、演じさせることによって、愛国で戦争協力が当然であり、それに従わないものは非国民だ、的なね。まあ、ここでは戦争犯罪について語るとこじゃないがこの辺にしておくが。

なんか今の世の中に似てますね……

ふーむ。まあ、これで一気に伸びた人、また協力を拒んだために牢につながれたり、貧窮の身になった人……戦争という一大事件は日本史のみならず文学史にも大きな出来事だったのだよ

伸びた人は?

まあ、火野葦平とかじゃねえの。麦と兵隊、って兵隊三部作でね。あとは丹羽文雄なんかもそうだし、これは大衆文学だが、岡田誠三なんて人はニューギニア山岳戦って話書いたくらいだしね

落ちぶれたり貧窮になった人は?

……まあ、そりゃたくさんいるわなあ。反対すれば、従わなければ弾圧だから。そうねぇ、石川達三……生きてゐる兵隊で捕まり、非国民扱いされた。永井荷風、舟橋聖一、正岡容、谷崎潤一郎なども不当な扱いを受けたなあ。仕事が回されてこない的なね。まあ、正宗白鳥みたいにバカらしいから国に奉職するふりをして、心でバカだとか思っていた作家もいるっちゃいるけどね

そういう人は絶対強い……

さらに、弾圧としか言えない社会主義の逮捕や思想家の追放、また若者の徴兵や特攻隊、死線を彷徨うような経験、原爆、ソ連侵攻などの、善悪の概念を超えた戦争というものは様々な感情や記憶を人々に植えつけて、昭和二十年八月十五日、終戦を迎えた……

そこで第二の純文学が開けるってことですか?

まあ、そういうことかな。戦争が終わり、大御所たちは一斉に書き始めた。正宗白鳥、永井荷風といった戦時中、あまり良い扱いをされなかった人になればなるほどに、大活躍を遂げた

バネみたいだね

逆に戦争協力しすぎて、今度はGHQから睨まれて、公職追放された作家も多々いたわけだ

例えば?

まあ、戦犯まで行ったのが赤木桁平、徳富蘇峰。蘇峰はA級戦犯のはずだ。公職追放は、菊池寛、武者小路実篤、尾崎士郎、山岡荘八、火野葦平、石川達三なんかもそうだな。特に役員は目をつけられた。

ふむ……って、え? 貴方様、先ほど石川達三は非国民扱いとおっしゃいませんでした?

後、武者小路実篤って自由主義的な考えしてたでしょー?

石川達三なあ。自由になった後、汚名返上とばかりに戦争協力したのが睨まれてしまったようだ

ああ、よく少年漫画にあるタイプだね。ボス! チャンスをください! 次こそあいつらに一泡吹かせてみます! 的な!

お前……

べ、ベラミー

それ以上はいけない

でも、あながち間違えではないな。石川達三さんはある意味で不運な人だった、としか言いようがない

じゃあ、武者小路実篤は?

彼は思想上は自由主義的で、理想主義者であったわけだが、戦前、白人にバカにされたのをきっかけに国粋的な顔を見せたのが睨まれたそうだが……まあ、情熱的で自分正直な武者小路実篤の悲運だね

なるほど……

そんな作家たちの台頭と没落、占領という混乱の中で二つの流れが大きく登場をしてくる。

おっ!

一つは無頼派、もう一つは第一次戦後派と呼ばれる人々だ

無頼派! 待ってました! 大統領!

大向こうかけるなや!

まあ、無頼派は少し本好きな人なら分かるだろう。太宰治、坂口安吾、織田作之助を中心とした人々の総称で、ざっくばらんで男性的、無規律無秩序的な問題作を多く描いた作家たちだ

ふむふむ

まあ、このあたりは後でやるし、太宰治は取り上げる気ないけど、まあ何かのおりで無頼派紹介するよ。

でもさー。ダンディー先生、一応、無頼派的だった人紹介したほうがいいんじゃねえーすか

……せやな。太宰治、坂口安吾、織田作之助を筆頭に、田中英光、伊藤整、高見順……このあたりだろう。まあ、後、交友的な意味で石川淳、檀一雄、青山光二がいるけど、石川淳は数えで九十まで生きたし、他の二人もそれなり長命を保っていた。さらに、石川淳、檀一雄に至っては他の無頼派が手に入れられなかった芥川賞(石川淳『普賢』)、直木賞(檀一雄『真説石川五右衛門他』)なんか貰っちゃってるしね

うーん。区分がよくわかりません……

無頼派ってのは名の通り、本当に無頼で頼りない。同人誌作ったり、徒党組むわけでもないから、ここの明確な区分はそう簡単にできないと思うな。

無頼だけに頼り無いってwww

それに対して、第一次戦後派は違った

……徒党でも組んだの?

まあ、大まかに言えばそうなるな。彼らは「人民文学」とか「近代文学といった同人誌を立ち上げたりしたんだな。そこが曖昧な無頼派と違うところで、ある程度規律がある、と言うべきかな

なるほど……同人、ねえ

そんな彼らには反動の文学、というテーゼが存在していた

反動の文学ぅ?

どんな作家がその第一次なんちゃらに分類されたのですか?

せやなあ。梅崎春生、椎名麟三、野間宏、武田泰淳、埴谷雄高、花田清輝、といったところかね。後は批評三羽烏のように加藤周一、中村真一郎、福永武彦を入れることもあるが、この人たちは反目していたし、批評の方が有名だからなんともなんとも…………

なるほど……でも、そういう割にはあまり名前は聞きませんねえ。

まあ、野間宏だの何だのねえ。今では……有名だけど読むのは好事家くらいなもんだろう。知られていて花田清輝程度か

ん? 花田清輝ってある人に似ている

何?

ラブライブとか艦これの脚本書いた花田十輝って人に。

似てるもクソも、花田清輝の孫だもんなあ

ええええええええ⁈

まあ、これは花田清輝の本を紹介の折にーーっていってもこの人、純文学ぽくないんだよなあ…………

なるほど。楽しみにしている

プレッシャーかけんな……

で、その人たちはどういう傾向にあるんですか?

まあ、悪く言えば左派的な人々だ

左派……

まあ、社会主義的ってか革新的というか。ぶっちゃけ、野間宏、埴谷雄高、武田泰淳なんかは戦前、社会運動しすぎて逮捕されていて、転向経験があるし

転向って?

まあ……一言で言えば今持っている、信じている思想や考えを捨てて、常識、世論を信じるという感じかなあ。転向文学、ってのが一時流行ったのだよ

なんかイジメみたいですね……

まあ、戦前の思想なんてガバガバだしな。戦中は特に。んで、この人たちはそれらの挫折経験や戦争に対する思想的なるものを見事に小説にしたんだなあ

どんなの?

どんなのって……はっきり言うと第一次世代は読みづらいぞ。梅崎春生はユーモアがあるから読めるけど、埴谷雄高なんぞは『死霊』ってグインサーガみてえな作品書いてるし

グインサーガならいいじゃん

あのな……あれはファンタジックだから面白いが、この死霊ってのは思想概念を超えた上での云々という観念的思想小説だからな

プシューーーー

ああ! パイセンが聞きなれない言葉のせいで沸騰しかけている!

少し冷やしてやるか……

〜しばらくお待ちください〜

失礼致しました…………

もうちょっと簡単に行きたいがそうもいかないしなあ

まあ、あれでしょ。第一次戦後派の人々は、とにかく戦前虐げられてたのが経験として蓄積されていって、戦後、全て自由になったのをきっかけに爆発させたんでしょ?

……まあ、おおざっぱに言えばそうなるわなあ

もう、移りませんか? どうせ、見ている人はうつけ者なのですから……

あんた丁寧な口調でさらりと恐ろしいこと言ったな!

面妖な……

あんたがだよ!

ダンディー、怒るとまた血管切れるよ

またって切ったことあるのは胃潰瘍だけだわい!

で。貴方様、第一次があるなら、第二次もあるのでしょうか?

鋭いな。そういうことだぞ。珍しく協力してくれたな

てへぺろ

……まあ、いいや。第二次はな。喪失と新生の世代、というべきかね

喪失と新生……ですか?

そう。ここのグループは面白くて、左派右派両方ともに存在していたんだな

どんな人が?

右派は有名な三島由紀夫、左派は安部公房に井上光晴、堀田善衛ーー堀田さんはマルクス嫌いだったがーーそしてこれは一概に入れられないからなんとも言い難いけど、大岡昇平。後、都合、島尾敏雄、長谷川四郎を入れるときもある

第二次戦後派。
時計回りに、
長谷川四郎、島尾敏雄、井上光晴、三島由紀夫、堀田善衛、大岡昇平、安部公房

都合というのは?

なんというか、彼らはこの後、話す第三の新人のくくりに入れられることもあってね……この第二次も結構曖昧だったりする。まあ、一言でいえば、右派、戦争経験ーーそれは挫折経験でないーーをした人が出てきたというのがこの第二次の特徴だと思う

てか、三島由紀夫、安部公房なんて超有名どころじゃん!

俺は買わないけどね。あの美学やら寓話性は苦手……でも、知名度はあるから……まあ、少々は取り上げるかも

それで……

それで、この人々は喪失と新生という人間の存在価値やあるがままというものを、それぞれの体験を通して描こうとした

貴方様、その、喪失というのは?

まあ、一番デカイのは敗戦だろう。今で正義で正しいと教わり続けてきた概念が敗戦という一瞬の出来事で百八十度回転してしまった

三百六十度じゃないのね

一回転する気か!

ちっ……騙されなかったか

舌打ちするな。全て変わったわけだ。思想も教育も概念も。そして、自分のいる立場もやってきたこともね。これがある意味で喪失であり、新生であった。解脱、というのは言い過ぎかもしれないが

うーん……難しい

三島にすれば信じ続けた大日本帝国が、安部公房からすれば祖国が、島尾敏雄なんかからすると国のために死ぬ、という概念や存在が全て喪失をしてしまったんだな

他の人は?

重箱の隅を突っつくなや……まあ、長谷川四郎はシベリア抑留があり、堀田善衛は中国に抑留、井上光晴は国家主義と共産主義の理想……とでもいうかね

わかんなーい

分かんないなら聞くな!

それで、そんな経験や喪失から新生を生み出した……と?

せやな。そんな感じ。
物を失えば、必ず、違う形とはいえど、新たな物が生まれる。戦後、自由になった世界でこの作家たちはそれぞれの喪失体験や喪失体験から生じた胸の内、そして戦争が終わって入ってきた新たな芸術を下地にして、思いや感情をを小説にしようとした。それが仮面の告白であり、壁であり、広場の孤独であるわけだが……

なるほどね

分かってんかこいつは……

まあ、こう聞く限り目まぐるしく転換していきますね(プシュー)

パイセン、カチューシャから煙出てますぜ……

で、そんな活動的で人間の根幹問題やら存在価値を迫ろうとした中で、原点回帰するかのごとくのグループが現れた……それは……

東京03

お前、二の次が三だからって変なこと言ってんじゃねえよ! 第三の新人だよ!

おや、これは聞いたことあります

ほお、タカネさんがね。どこで?

こうこう……ゴホンゴホン! く、国許の教育係の月の聖霊が教えてくれました!

……今のは聞かなかったことにしよう

第三の新人って教科書なんかにも出るよねー。知名度的には三島由紀夫なんかには負けるかもしれないけど、グループだけなら自然主義とか白樺派とかプロレタリアなんかと並ぶかもしれないね

せやな。でも、この第三の新人ってのは元々軽視的な呼び方だったんだよ

そうなのですか?

タカネさん、考えてごらんよ。最近、テレビとか何やら見るとよくやってんだろ?

月にてれびしょんはありません

……先日、某所でラーメンフェスタやっているから行きたいって言ったのはどこのどいつだ?

え、あの、そ、それは! こ、このフミがお、お、お、教えてくれたのですよ!

ウェェェ⁈ 私、そんなこと言いましたぁ⁈

……当てつけしてやがる。ま、まあ……で、だ。よく新聞や広告にあるだろ。第三のビールとか三等車とか三等席とかなんとか

ああ……ありますねえ

この表記を見て、どう思う?

ふーむ……なんといえば、いいのでしょうか。なんか、褒めているような言い方ではないですねえ。第三っていうのが

鋭い。そう。褒めた言い方ではないんだな

パイセン! 流石ぁ!

第三ってのは、なんかなり損ないみたいな言い方じゃない? 本来の流れなら、第三次とくるところを、第三次としやがった。さらに、新人と言われてどう思う?

新人……中には新人呼ばわりを嫌う人もいますからねえ

だろう? だから、貶めるようなニュアンスの塊だったんだよ。第三の新人ってのは。

なるほど……でもどうして?

まあ、断定はできないが一次、二次の連中よりあまりにもスケールが小さく、書く世界が消極的だったというのが大きいのかもしれないな。

スケールが?

ああ。自然主義への回帰、と言うと語弊があるが、一次二次の連中が憂国、喪失、反動と実存や本質に迫ろうとする中で、第三の新人はスケールの小さい、即ち、個人の劣等感とか女と男の恋愛感情とか、日常とかを描こうとしたのだよ。

えー。そういう題材の方がいいじゃん。ほのぼのとしてて。説教臭くないし。なのに虐められちゃったのか……

ふむ。まあ、日本人は碌な思想を持たないくせに思想性を求めるからな…………ある意味で不遇な世代だよ。第三の新人ってのは。

あーね。

そんな逆境から、多くの名作を生み出して、賞を総なめし、文化勲章を二人も出して文学史に残ったんだからなあ。最終的には。ある意味で勝ち組でいいとこどりをしたってのも見逃せないがね。

なるほど……で、どんな人がいたのでしょう?

せやな……ある人は、第三の新人は吉行淳之介、安岡章太郎、遠藤周作、小島信夫、庄野潤三、三浦朱門、曾野綾子の七人と言ったが、これは一意見だろう。少なすぎるね。僕はここに近藤啓太郎、小沼丹、阿川弘之なんか入れるね。まあ、あと微妙線で、長谷川四郎と島尾敏雄……

一段目…安岡章太郎、吉行淳之介、遠藤周作、三浦朱門、曾野綾子
二段目…小沼丹、近藤啓太郎、庄野潤三、小島信夫
三段目…阿川弘之、(島尾敏雄、長谷川四郎)

結構有名な人多いですね。遠藤周作や吉行淳之介、安岡章太郎なんか、根強いファンが多いと聞きますよ。

まあ、この辺りは超王道だからなあ。僕は、この人たちを後々論じながら、作品や作家を勧めていきたいなと思うね

第三の新人は読みやすいのですか?

そうだね。今に通じる作品とか結構あるよ。
周りからバカにされていた新人もたち死ぬまで新人のような心持ちで書いたからね。この人たちは。だから、瑞々しく決して作風が枯れることはなかったような気がする。

老害ババア曾野綾子も?

老害ババアいうなや……確かに問題になってるけど……ふーむ。三浦朱門と曾野綾子はなあ。途中で政治的になっちゃったから……でも、この二人を抜いても十分みずみずしい。

なるほど

しかし、第三の新人は第一次戦後派、第二次戦後派のようにすぐさま安泰な地位に座れるはずがなかった。彼らがやっと認められ始めた昭和二十年の終わりから昭和三十年台初頭……彼らの地位を脅かす四人の新人が現れる……

だ、誰!?

石原慎太郎……有吉佐和子……開高健……大江健三郎だぁ……

!?

THE END

挿絵は後で追加します。
後、土日は忙しいので更新は未定です。

純文学のミカタ!! ~第四話。純文学の歴史  part3~

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