結局その日のパソコン室での収穫はなし。
帰宅するか、ということになり、俺はぎょっとする。
知らない人の家に、家族のふりをして忍び込むなんて、そんな無茶な!
結局その日のパソコン室での収穫はなし。
帰宅するか、ということになり、俺はぎょっとする。
知らない人の家に、家族のふりをして忍び込むなんて、そんな無茶な!
あ、縁ちゃんのご両親はお二人とも海外暮らしで、縁ちゃんは一人で家に住んでいらっしゃいますよ
と、姫様が教えてくれてほっとした。
そこらへんはうまくできているようだ。ゲーム的というか、なんというか。
校門で男子三人組と別れ、俺と姫様は家へと向かった。バスにのって三十分。家は幼馴染みらしく、徒歩三分ほどの距離。
よろしければ、ご飯を二人分持っていきましょうか
別れ際に、姫様が天使のような微笑みでそう言った。
ありがたすぎます。是非
ありがとうございます!
サンザシもご機嫌だ。
ではあとで携帯に連絡しますねと言って、姫様は駆けていった。街灯に照らされたピンク色の髪の毛が、きらりと光った。
縁の家は、がらんどうとしていた。広いが、寂しい家だ。
とりあえず、家の中をうろつく。二回にある縁の部屋とリビング以外は、ほぼ使われていないようだった。
俺はリビングにある大きなソファに、どっかと腰を下ろす。
横にあるひとりがけのソファに、サンザシもちょこんと腰を下ろした。
お疲れさまでございました
疲れた……ていうかすごく今さらだけど、この世界のどこに童話要素があるんだよ
私からはなんとも言えませんね
ヒントはあるんだよね?
ないと謎解きにはなりませんからね
だよなあ、と白い天井を仰ぎ見る。
っていっても情報が少なすぎるだろ……そのことを逆手にとればいいのか
ぶつぶつ呟く。といいますと? とサンザシが小さく言う。
謎解きするぞ
俺は顔をあげて、腕を組んだ。
お姫様が出てくる物語なんて山ほどあるから、ヒントにならない。
何かを盗まれているっていうのも、まだ候補が多すぎる。
でも、二つを合わせればヒントになるだろ。
とりあえず何かが盗まれている、お姫様が出てくる童話、だ。
そして敵は複数。味方は四人。
姫様と、ケンケンと、ケンと、キサラギ。姫様の本名は……なんだっけな
ヒメノトウコさん、ですね
そうだそうだ。さすがサポーター。
てか俺は、あいつらの名前もろくに知らないぞ……憲二だけは漢字を知ってるけど、名字はわからん。
キサラギに至っては、名前なのか名字なのか……二月の如月だろうけどな
二月生まれでしょうかね
名前だったらな。ヒメノは、姫の野原で姫野だろうな、きれいな名字だ
集中力が切れてきた。だめだ、謎解きなんてしている場合じゃない。精神の疲労が限界値突破だ。
トウコは、どう書くんだろうなあ……
携帯電話のアドレス帳を見てみればいいのでは?
それだ。
ポケットに入っていたスマートフォンは、俺の知っている機種より少し薄くて軽かった。
近未来なのだなあと思いつつ、指で画面を横にスワイプする、と。
ロック画面ー!
ああ、残念でしたね
でもま、あとで携帯に電話してくれるって言ってたから、そのときにわかるだろ
家の電話もありますけどね
家の電話だと、誰がかけてきたかわからないから、携帯にかけてくれるんだろ
なるほど……素敵な方ですね
ほんとな。気遣いできて、聡明で――男四人も従えちゃって
あの男子四人は、完全になついていますよね
動物みたいに言うなよ
動物と言えば。俺はなあなあと身を乗り出す。
謎解きをする気持ちは、完全にどこかにいっていた。
ぴーひょろろって、なんだっけ
また鳥の話をしますか!
目をひんむくサンザシ。やっぱり小動物。
だって、鳥みたいじゃん、そのふわふわ
こ、これは確かに羽毛ですが!
鳥なの? 変身とかしないの?
し、しませんよ! ぴーひょろろは、トンビです、トンビ! ほーほけきょは?
クイズ大会に方向転換しようとするのがかわいい。
ウグイス! クックドゥドゥルドゥーは?
にわとり! しかしどうして、ドゥーの音が入るのでしょうね
まったくだ。謎のクックドゥードゥルドゥー。コケコッコーに聞こえるけどなあ。
他に面白いのねえかなあ
んー……
そのとき、携帯電話の画面がぱっと明るくなった。
サイレントモードにしていたらしい。
画面に表示されているのは、電話のマークと、姫野の文字だ。
姫様ですか? はやいですね
ありがたいね
しかし、アドレス帳には名字しか登録されていないらしく、名前の漢字がわからない。
こうなったら本人に聞くしかない。気になってしかたがないのだ。
決して現実逃避ではない。
もしもし、トウコです。ご飯ができましたので、今から持っていきますね
取りに行きましょうか
いえ、大丈夫ですよ。お心遣いありがとうございます。五分ほどでつきます
待ってます。あ、そうだ、姫様
はい、どうしましたか
どうでもいいことですけど、姫様の名前って、漢字でかくとどうなるんですか?
何を突然、と彼女は笑って、そして、さらりと言った。
桃の子で、桃子です
頭の中を、電撃が駆け抜けた気がした。