パソコン室に戻ると、派手な髪の毛のケンケンとやらが、にやにやしながら俺に頷きかけてきた。

 あれなのかな、縁ちゃんも姫様のことがすきだったりするのかな? そういえば親衛隊長って言ってたしなあ、と思いつつ、ケンケンから目をそらす。

 残っていた三人組は、一台のパソコンに集まっていた。
 先程姫様が座っていた場所に金髪おかっぱの優男、ケンが座っている。
 彼のの右隣にケンケン、左隣にキサラギだ。

 目をそらした先にいたケンも、俺を見て微笑んでいる。
 なんなのもう。

 青髪眼鏡のキサラギもかな、と思って目をやると、彼だけはにやつかず、俺をただじっと見つめていた。

 なんだ? 思わず首をかしげると、いや、と返事をするように、彼も首を降った。

どう、ケン。何か収穫あった?

 姫様の質問に、いいえ、とケンは眉を潜める。

学校でディスクを見た痕跡は、今のところありませんね

やっぱり誰かがもって帰っちゃったのかなあ

変わりましょうか?

 ケンが席を立ち、姫様が代わりにパソコンの前に座った。

 俺は姫様の後ろにまわり、画面を見てぎょっとする。

 意味のわからないアルファベットと数字の羅列。それをふんふんと解読してく四人集。いったい、何者なんだ。

うわあ、意味がわかりませんねえ

 お気楽サポーターが、ほええと感動しているが、無視、無視。

 いいなあ、こいつは気楽で。

縁、ちょっと

 小声で話しかけられたと思ったら、突如腕をぐいとひっぱられた。声の主はキサラギだ。真剣な表情にぎくりとしてしまう。

 そのまま腕をぐいぐい引っ張られ、思わず抗う。

なんだよ、き、キサラギ

姫様、少し縁と資料室に行ってきます。気になる本があって、もしかしたら助けになるかもしれない

お前一人でいけばいいだろ

二人で吟味した方が確実だろ

いや、でも、姫様

 姫様、応答なし。嘘だろ、おい!

集中しすぎちゃって声が聞こえていないパターンですね

 サポーターはこういうときのためのサポーターじゃないのかよと叫びそうになる。

 ひどい、ひどいぞサンザシ!

新しい情報がゲットできるかもしれません。キサラギさんと話してみるのもいいのでは?

 いやいやそうかもしれないがでもそうじゃないだろあああああ、っという間に、俺はパソコン室の外に再び連れ出されてしまった。

 姫様あのやろう。キサラギこのやろう!

……姫様、大丈夫か?

 廊下に出て、すぐにキサラギはそう訊いてきた。資料室とやらに行く気配はない。

資料室は?

嘘だよ。さっき、三人で話してたんだ、姫様最近こんつめすぎだ、何があったのか知らないが……縁、お前に今、教えてくれなかったか?

……詳細か?

 なるほど、なんとなく読めてきた。

 姫様は最近ずっと、ディスクにかかりきり、三人も協力しているが、さすがに姫様が心配、しかしディスクの中身がわからず、打つ手も限られてくる。

 そこでいきなり、俺だけが連れ出される。

 幼馴染みでおそらく信頼が一番厚い俺に、ディスクの詳細を話したのではないか、と思い、俺に直接聞く、と。

そうだ、あのディスクには何があるんだ?

 やけに必死だなあこの眼鏡君、そんなに姫様のことが大切なのかあと思いつつ、俺は肩をすくめる。

知らない。彼女も何も言わなかった。俺だって知りたい

……本当だろうな

何で隠さないといけないんだよ

じゃあ訊くが、さっきお前と二人で何を話してたんだよ

 ぶわっと、俺の背中に汗が流れる。

 そうですよね、じゃあ何の話をしていたんですかって話ですよね! 

 何かいい案、いい案、うわあ思いつかない、混乱!

姫様のご両親が、最近の姫様の様子がおかしいことに気がついて、縁様に連絡。

姫様はご両親づたいにそのことを先程知り、縁ちゃんに迷惑をかけてしまったことを平謝り。ってのはいかがですか?

 サンザシ様が早口でそうおっしゃる。

 俺は、彼女の言葉の途中辺りから、まるで言い出しにくそうに、ゆっくりと言っているかのような振りをして、話を切り出していた。


 前言撤回、このやろうだなんてとんでもない。
 サンザシ様ほどのサポーターはそうそういらっしゃらないだろう。

――家庭の事情だよ。

彼女が必死にディスクを探してるのは、家でも同じみたいでさ。
昨日、俺のところに親御さんから連絡が来たんだよ、最近うちの娘はどうしたんでしょうって。

適当にごまかしといたから大丈夫だったけど、姫様、その後ご両親が俺に連絡したことを、ご両親づたいに聞いたらしくてね。

さっき、平謝りされたよ、迷惑かけてごめんって

 完璧だ! 後ろで拍手をしているサンザシさん、笑いそうだからやめていただきたい。

 キサラギも、ふうんと納得したように頷いた。よし、よし。

その後、少しご両親の話をしてね、話が長引いちまった

なるほど、ディスクの情報じゃなかったわけか……

そんなに気になるか? ディスクの中身

そりゃあな。ディスクの中身がわかったら、探しやすくなるかもしれない。

でも、姫様はどうしても教えてくれないようだし

 救世主だと崇めた俺にも教えない情報だ。

確かに、気になりはするけどさ

だろ? ま、嗅ぎ回るのはよくないか……突然悪かったな

いや……

戻ろうか。姫様はたぶん、俺たちが出ていったことにも気がついてないだろうし、早すぎるって疑われることもないだろう

……すげえ集中力だよな

ああいう一直線なところが好きなんだろ

すっ

 げほげほむせる俺を鼻で笑って、キサラギはパソコン室へと戻っていった。

1 秘密のディスクと不思議な姫様(5)

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