こうしてその日も夕方まで宴会は続いた。
マゴーネもハミルカルと同様に、夕暮れ過ぎに人々に見送られてアルサラムの町を後にしたのだった――
……というわけで、バイバルス殿は
私の妻を守ってくださったのです
なんだそりゃ!
ってことは、悪いのは領主の方じゃねェか!
権力を振りかざして婦女子を……
それも家臣の妻を手篭めにしようなど
貴族の風上にも置けませんね!
ああーもう!
聞いてるだけで腹が立ってきたぜ……!
そのこと、ハミルカルさんは?
いえ……
お恥ずかしながら、父は堅物の上に激情家で
私の話を聞く前にバイバルス殿を追って――
飛び出してっちまった、ってことか
はい……
それで、アンタはどうしてバイバルスを
追ってるんだ?
事情はともあれ、バイバルスは
領主を斬ったことは確かなんだろ?
重罪は免れないぜ……
あァ、同感だ
追わずに逃してやるべきじゃないのか?
いや、それだけじゃマズいぜ
なにしろマゴーネさんだけじゃなく
ハミルカルさんもバイバルスのことを
追いかけてるんだからな
そうですね……
ハミルカルさんのあの雰囲気では
捕らえて国に連れ帰るどころか……
その場で殺し合い、だろうな
はい……私もそう思います
しかし、父は私一人が何を言っても
きっと耳を貸そうとはしないでしょう
なるほど、それでハミルカルさんを追わず
先にバイバルスさんと合流しようと?
はい……
それと理由はもう一つあります
もう一つ?
バイバルス殿を説得して
国に戻っていただくことです
あァ?
そんなことしたらバイバルスは
処刑されちまうんじゃねェのか?
いえ
領主様が亡き後、お父上の先代様が
一時的に領主の座に戻られました
先代様は私に息子の非を詫びてくださり、
バイバルス様の罪を不問となされたのです
それに、国民や騎士団にもバイバルス殿を
悪く言う者はおりません
皆、バイバルス殿の帰還を待っています
へぇ、バイバルスって人は
相当人望があるんだな
誰かとは大違いだな
うるせェよ!
誰か、としか言ってねェのに……
……ここまでの話を総合すると
白煙の異名を持つ高潔な騎士・バイバルスは
親友の息子・マゴーネさんの妻を守るため
領主を手にかけて逃亡者になってしまった
そんな事情を知らない親友・ハミルカルは
バイバルスを討伐するため旅に出てしまった
んで、マゴーネさんは二人の戦いを止め、
バイバルスを国に連れ戻すため旅している
……って感じでいいのか?
は、はい
その通りです
……あの、マスターさん
ん、なんだい?
バイバルス殿がここを訪れることがあれば
どうか今の話を伝えていただけませんか?
ああ、そりゃもちろんだ
本人だけじゃなく、色々な奴に伝えたほうが
バイバルスの耳にも届きやすいだろう
よし、オレが手伝っといてやるよ
構わんよな?
え?
そ、それはもちろん構いませんが
食事をごちそうしていただいたばかりか
そこまでお手を煩わせるのは……
はは、気にすんな!
このスノッリって男は朝から晩まで
飲んだくれるしかやることが無いからな
たまには働かせとけ!
ひでェ言い草だな……
ま、でもそういうことだ
は、はい
ありがとうございます!
なあに、礼には及ばねェよ
それじゃ、マゴーネさんの旅の成功を祈って
乾杯といこうぜ!
こうしてその日も夕方まで宴会は続いた。
マゴーネもハミルカルと同様に、夕暮れ過ぎに人々に見送られてアルサラムの町を後にしたのだった――
つづく