マゴーネ

……というわけで、バイバルス殿は
私の妻を守ってくださったのです

傷顔の客

なんだそりゃ!
ってことは、悪いのは領主の方じゃねェか!

魔道士風の若者

権力を振りかざして婦女子を……
それも家臣の妻を手篭めにしようなど
貴族の風上にも置けませんね!

傷顔の客

ああーもう!
聞いてるだけで腹が立ってきたぜ……!

スノッリ

そのこと、ハミルカルさんは?

マゴーネ

いえ……
お恥ずかしながら、父は堅物の上に激情家で
私の話を聞く前にバイバルス殿を追って――

スノッリ

飛び出してっちまった、ってことか

マゴーネ

はい……

旅人風の男

それで、アンタはどうしてバイバルスを
追ってるんだ?

旅人風の男

事情はともあれ、バイバルスは
領主を斬ったことは確かなんだろ?
重罪は免れないぜ……

傷顔の客

あァ、同感だ
追わずに逃してやるべきじゃないのか?

スノッリ

いや、それだけじゃマズいぜ

スノッリ

なにしろマゴーネさんだけじゃなく
ハミルカルさんもバイバルスのことを
追いかけてるんだからな

商人らしき男

そうですね……
ハミルカルさんのあの雰囲気では
捕らえて国に連れ帰るどころか……

スノッリ

その場で殺し合い、だろうな

マゴーネ

はい……私もそう思います
しかし、父は私一人が何を言っても
きっと耳を貸そうとはしないでしょう

商人らしき男

なるほど、それでハミルカルさんを追わず
先にバイバルスさんと合流しようと?

マゴーネ

はい……
それと理由はもう一つあります

スノッリ

もう一つ?

マゴーネ

バイバルス殿を説得して
国に戻っていただくことです

旅人風の男

あァ?
そんなことしたらバイバルスは
処刑されちまうんじゃねェのか?

マゴーネ

いえ
領主様が亡き後、お父上の先代様が
一時的に領主の座に戻られました

マゴーネ

先代様は私に息子の非を詫びてくださり、
バイバルス様の罪を不問となされたのです

マゴーネ

それに、国民や騎士団にもバイバルス殿を
悪く言う者はおりません
皆、バイバルス殿の帰還を待っています

傷顔の客

へぇ、バイバルスって人は
相当人望があるんだな

旅人風の男

誰かとは大違いだな

傷顔の客

うるせェよ!

旅人風の男

誰か、としか言ってねェのに……

スノッリ

……ここまでの話を総合すると

スノッリ

白煙の異名を持つ高潔な騎士・バイバルスは
親友の息子・マゴーネさんの妻を守るため
領主を手にかけて逃亡者になってしまった

スノッリ

そんな事情を知らない親友・ハミルカルは
バイバルスを討伐するため旅に出てしまった

スノッリ

んで、マゴーネさんは二人の戦いを止め、
バイバルスを国に連れ戻すため旅している

……って感じでいいのか?

マゴーネ

は、はい
その通りです

マゴーネ

……あの、マスターさん

店主

ん、なんだい?

マゴーネ

バイバルス殿がここを訪れることがあれば
どうか今の話を伝えていただけませんか?

店主

ああ、そりゃもちろんだ

スノッリ

本人だけじゃなく、色々な奴に伝えたほうが
バイバルスの耳にも届きやすいだろう

スノッリ

よし、オレが手伝っといてやるよ
構わんよな?

マゴーネ

え?

そ、それはもちろん構いませんが
食事をごちそうしていただいたばかりか
そこまでお手を煩わせるのは……

店主

はは、気にすんな!
このスノッリって男は朝から晩まで
飲んだくれるしかやることが無いからな
たまには働かせとけ!

スノッリ

ひでェ言い草だな……
ま、でもそういうことだ

マゴーネ

は、はい
ありがとうございます!

スノッリ

なあに、礼には及ばねェよ

旅人風の男

それじゃ、マゴーネさんの旅の成功を祈って
乾杯といこうぜ!

 こうしてその日も夕方まで宴会は続いた。

 マゴーネもハミルカルと同様に、夕暮れ過ぎに人々に見送られてアルサラムの町を後にしたのだった――

つづく

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