一方、その頃……
……ふう
おう、待ってたぜ
その分だと上手くいったみてぇだな?
へへ、オヤジの言う通りにしたら大成功だ!
オレ、もうお腹いっぱいだよ
当たり前だ、俺様を誰だと思ってやがる
ペテンのサムとはこの俺のことよ
でも、こんなに上手くいくなんてね
あの町の酒場は少し泣かせる話でもすりゃ
すぐタダ飯タダ酒を振る舞ってくれるって
仲間連中から聞いてたからな
ま、俺様にはチョロ過ぎる相手だったぜ
オヤジは凄いなあ……
オレ騎士のフリなんて生まれて初めてだから
いつバレるかってずっとヒヤヒヤしてたよ
ったく、お前はまだまだだな
せっかくそれっぽい鎧を着てんだから
それっぽく偉そうにしてりゃいいんだよ
でもこんな鎧、どこで手に入れたの?
裏の人間にゃ色々裏のルートがあるんだよ
凄いなあ、オヤジはカッコいいなあ
ちゃんとイチから仕込んでやるから安心しな
お前もいずれは立派なペテン師だ
うん!
……それにしてもオヤジ、
酒場の人たちはちょっと可哀想だね
あァん?
結構いい人達だったけど
騙されてたって知ったら傷つくだろなぁ
おいおい……
ペテン師がカモを気遣ってどうするよ
でも……
でもじゃねェ!
……ったく、要はあの連中が
俺たちに騙されたと気づかなきゃいいんだ
あの連中のことを思うならなおさら
堂々と騙し続けてりゃいいんだよ
それがペテン師なりの気遣いってもんだ
はぁ~……さすがオヤジ
言うことが違うなぁ……
それじゃ、次の仕事だ!
昼までに西の町に向かうぞ
あ、オヤジ、待ってよ~!
一方、その頃……
よし、今日も一日よく働いたぜ!
おう、お疲れさん
あんたもな、スノッリ
どうだ、久々に仕事になりそうか?
ああ、少し登場人物を整理すれば使えそうだ
アイツらのおかげで今回は傑作の予感だぜ
いつになく手の込んだ作り話だったもんな
ありゃ恐らくその筋のプロだな
特にハミルカルの方は慣れた感じだった
おかげでオレもいい話が書けそうだぜ
そいつは俺にとってもありがたいな
何しろアンタのツケがまた溜まってきてる
ハミルカルもマゴーネも随分よく食ったし
へへ、まあ印税が入ったら
すぐに倍返ししてやるよ
おう、期待してるぜ
人気作家のアンタなら間違いない
ははは、この酒場に入り浸ってると
ネタに困らなくて助かるよ
アイディア料なんか安いもんだ
まあ、食うに困ったヤツらが必死に頭絞って
作り話を提供しに来てくれるわけだからな
アンタもよくこんな仕組みを考えたもんだよ
一番のペテン師は誰なんだか
よせよ、人聞きの悪い
しかし騙した気になってる詐欺師どもは
このカラクリを知ったらどう思うのかねぇ
ああ、オレもそれが楽しみでな
いずれ充分稼いだら全部ネタばらしした本を
書いてやろうと思ってるんだ
ははは、そいつはいいや!
実はもう、タイトルも決めてあってな
マスターの意見も聞きたいんだが
ほう、どんなタイトルだ?
――『アルサラムの酒場』っていうのさ
-Fin-