サンザシはにこりと笑うと、姫様に頭を下げた。
サンザシさん、確認するけどこれはゲームオーバーではないですかね
そうですね、少し外にでて話しましょう
サンザシはにこりと笑うと、姫様に頭を下げた。
申し訳ございません、少々お時間をいただいてもいいでしょうか
あ、えっと、はい、どうぞ
姫様は明らかに混乱しているが、空気をしっかりと読んでくれた。では、とサンザシは微笑みながら、静かに教室を出る。俺も慌ててついていく。
ドアを閉めるとすぐに、説明不足でした、とサンザシが今度は俺に向かって頭を下げた。
ゲームの世界でゲームだっていうような、メタ発言は禁止させてください。この世界の人が混乱します
ふむ。
なあ、この世界の人っていう、設定? それとも、この世界は現実にあるもの?
うーん、とサンザシは唸る。
なぜ、迷う!
現実にあるものという設定です
……なるほど。微妙なところだなあ
現実にあるものとして楽しんでください。大変申し訳ございません。今すぐに答えることはできないんです
止められてるの?
はい。か……
そこまでいって、いけない、とサンザシは手で口を押さえた。
か?
いえ。あの方は本名で呼ばれるのが嫌いなんでした。……ゲームマスター、です
ほーう。なかなか面白い人物が出てきたぞ。
ゲームマスターが、止めている、と
はい。いずれお話しするときが必ず来ます。まだ、そのときではありません
……ゲームっぽいー!
結構好きだよ、その設定
気に入っていただけて何よりです! とにかく、本当の世界を救うつもりで挑んでいただかないと!
わかったよ。ちなみに、ゲームオーバーじゃないんだよね?
はい、大丈夫です! ゲームオーバーになるのは、物語を筋道通りに終わらせられなかったときだけです
なるほど……っていうかちょっとまって。そのときは、どうなっちゃうんだ?
クリア条件は聞いたけど、ゲームオーバーのときの状況はそういえば聞いてなかった。
筋道通りに行かなければ、ひとつの童話が消えます
サンザシは、そう言って目を伏せた。テンションが上がって下がって、忙しい人だ。
……ほう、消えるのね
なかなかハードな設定だ。俺は、この世界、童話ひとつを背負ってゲームに挑んでいるというわけだ。
まあ、そもそもこの物語が何の童話なのかもまだわかっていないけれど。
童話が消えると、すべての生き物が持っていた、その童話の記憶すべても消えてしまいます。その童話が、なかったことになってしまうのです
世界を背負っているわけね
その通り、です
サンザシは、いつになく真面目にそう言った。
サポートキャラなら、こういうことこそ明るく言ってくれなくちゃ、と思う。淡々と言われてもなあ。まあ、だからこそリアリティが出るのかもしれないけれど。
ちなみに、セーブポイントなどは
ありません、一発勝負です!
楽しそうなサンザシに戻る。すこしだけこの子のキャラがわかってきたような気がする。浮き沈みが激しい。
それにしても、一発勝負とは。
ゲームらしくないなあ
お忘れですか?
そこで、サンザシはいたずらに笑う。
最高難度、ですから
確かに。俺は思わずひきつった笑みを浮かべた。
本当に、記憶をなくす前の俺は何を考えてこんな設定にしたんですか?
ちなみに、一度ゲームオーバーになってしまった場合は、その後ゲームを続けられなくなる可能性があります
そういうことは、ゲームが始まる前に言うものでは?
これも最高難度の一貫として考えてくださいね! と言いたいところですが、これはゲームマスターからの指示で、私にはなんとも言えません
またそいつか……なんでそういう
指示を出したのか、を、聞く前に読めてしまった気がする。
なあ、もしかして、ゲームを続けられなくなるって、けっこうまずいことなんじゃない?
だから、ゲームを始めさせてから、その情報を提示した。違う?
正解です!
そこは明るいのかよ!
記憶をなくす前の俺がどういう状況だったかが定かではないが、俺の勘が言っている。
これは、まじめにクリアを目指したほうがいい、と。ゲームオーバーになったら、感覚的な感想だが、なんか、まずそうだ。
ゲームマスターとやらに、いつか会えるのかな
おそらく、会えるかと
サンザシの顔が曇る。おそらく上司かなにかなのだろうが、なんだか苦労してそうだ。
なんか、大変そうだね
言うと、サンザシは目を丸くして、慌てたようすで首を横に何度もふった。
そんなそんな! そんな!
そんな、そんな?
そ……そんな
うう、とうつむいてしまう。うーん、なんなんだこの小動物。
気がつくと俺は、そんな彼女に手を伸ばし、わしゃわしゃと頭を撫でていた。
な、な、なっ……崇様!
顔を真っ赤にしたサンザシが、すごい勢いで後ろに飛び退く。うーん、かわいらしい。
やめ、てくださ、本当にもう!
鳥みたいだね、ぴよぴよ
私はひよこではありません!
見た目は鷹みたいだけどね、そういえば鷹ってなんて鳴くんだろ。ぴーひょろろ?
そ、それはたしか……ってもう! 戻りますよ、戻ります!
俺の方がドアに近いことに気がついた彼女は、しかし俺に近づきたくないらしく、戻ってくださいよときゃんきゃん吠えるのだった。