すみません、長くかかって

 ほったらかしにされていた姫様は、教室のすみにあるパイプ椅子に腰かけて待っていたらしい。

 俺が入ると、すぐに立ち上がり、いえ、と微笑む。

 俺の後ろからサンザシが入ってきて、静かにドアを閉めた。俺と一定の距離があいているのは、まあ、気にしないことにしよう。

それで、えっと、俺がその、縁って人じゃないのは、なぜ……

 しどろもどろな俺の質問に、ああ、と姫様は真剣な表情になってうなずく。

実は、数日前に妙な方とお会いしたんです。

銀髪の……ここの制服を着ていらして。廊下を歩いていたら、突然声をかけられたんです。

近々君の心配事を解決してくれる人がやってくる。君にしか見えないはずだから、見つけたらすぐに声をかけてごらんって。

それと、君の仲良し君たちの誰かも、中身が入れ替わっているはず、とかんとか……よくわからないことばかり言ってきて。

たちの悪いいたずらだとも思ったんですけど

……銀髪の、人、とは

 俺がサンザシに目を向けると、サンザシは無表情でうなずいた。

マスターです。そんなことをしていたなんて……なんなんだあの人は……

 ゲームという言葉は伏せているが、なるほど、ゲームマスター直々に、この姫様に俺たちの予告をしてくださったということらしい。

 そしておそらく、そのことをサンザシは聞かされていない。

 自由奔放な上司に振り回される部下、といった構造が頭に浮かんだ。頑張れ、サンザシさん。

本当、だったのですね。救世主様

姫様、銀髪の人に何を吹き込まれたのかは知りませんが、とりあえずそんな大層なものではないんですよ。

メシア的なものではないです。でも、あなたの手伝いはします

 どうやらそれがゲームクリアに繋がっているようだし。

 ゲームマスターが直々に接触した人が、物語の筋道をなぞるうえで中心人物となっていないはずが、ない、と、信じたい。

 ゲームマスターが、クリアに関係ない人を巻き込むような人なら、もう、お手上げだ。

ありがとうございます……助けてください

 姫様はそう言うと、俺たちに向かって頭を深々と下げた。

わ、そんな、やめてください

 慌てて止めるも、姫様は頭をさげたままだ。

お願いします。困っているんです

 何をどう助ければいいのか全くわからなかったが、それでも助けてあげなければと思う必死さが、彼女からにじみ出ていた。

助けます、助けますから

 言うと、顔をあげたあとに心底ほっとしたような表情を浮かべるのだから、参ってしまう。

申し遅れました、私トウコと言います。ヒメノトウコです

ああ、だから姫様

 言うと、姫様はかっと頬を赤くした。

あれは、勝手にケンケンが、あ、えっと、ケンケンはあのはでな色の頭の!

赤と黄色の?

そうです! あの人が勝手に呼びはじめて

 ケンケン、えっと、名前は憲二君、だったか。

ケンがふたつで、ケンケン?

そうです。

あ、他の人の名前も教えないといけないですよね。金髪おかっぱがケンで、青髪目がねがキサラギです

ケンケンとケンなのか

そうです、わかりづらいですよね。

ちなみに縁ちゃんも、ケンケン、ケン、キサラギって私と一緒の呼び方をしてます

なるほど、ありがとうございます。

でも、関係性とか、そもそも俺の性格とか、説明するのは難しそうですね……

 縁ちゃんとやらが根明の元気くんだったら、さっきの俺の態度はかなりおかしいということになる。

縁ちゃんは基本無口で表情もあまり変わりません。でも、困りますよね。それでは、常に私のそばにいるようにしてください

そ、そばに! それは、その、大丈夫ですか、勘違いとか

どうしたサポーター

 突如テンションがあがったぞ、この子。

あ、いえ、その、ほら、え、っていうか縁さんとあなたはどのような関係で

 サンザシの言いたいことを素早く察した姫様は、ああ、と柔らかく微笑んだ。

大丈夫です、幼馴染みなんで、よく一緒に行動するんですよ

 なるほど、だから縁ちゃん、か。

じゃあ、あなたの側にいるようにします。

それで、話がそれまくりましたが、俺たちは何をどう手伝えばいいんでしょう

 姫様は、眉をハの字にして、言った。

あるディスクを取り返してほしいんです

1 秘密のディスクと不思議な姫様(3)

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