「大当たりだぞ、ガンジー!」

「やったな、クーカイ!」

ハイタッチを交わす男が二人。彼等が廃寺を掘り返して見つけたもの……それは

「……本物のソクシンブツだ」

「これで街のエネルギーも三ヶ月は安泰だ」

彼等は手を取り合って喜ぶ。一体のソクシンブツから得られる徳エネルギーは、街1つを養って余りある程膨大だ。

「……だけど、本当にいいのかよ」 

「大丈夫さ。大勢の命が生きていくためだ、この住職も、きっと喜んでくれる」

何故、彼等がこのような罰当たり行為を行っているか。徳カリプス後の世界で生きるにも、徳エネルギーが必要だ。

荒廃したこの世界で、徳を積み続けるには資質が要る。才ある者達は今日も徳を積み上げる。いつか、解脱に至るその日まで。だが、そうでない者達は?

生み出せなければ、奪うしか無い。
彼等はそれを生業とする徳エネルギー採掘屋だ。

「……まぁ慣れるもんじゃねぇがな。俺達は、こうして徳を奪うしか無い」

クーカイは続ける。彼等は、自ら徳を生み出すことを諦めた者達だ。

「俺もお前も、こんな徳の高そうな名前もらっといて、こんな生き方してるんだ。罰なら、とっくに当たる筈さ」

「まぁ……そうかもな」

嘗て、『徳ネーム』という風習があった。
徳エネルギー社会で少しでも子弟の徳を高めようと、高僧や偉人の名前を付けることが流行った。ガンジーという名はその名残である。

「行くぞ」

「……うん」

 クーカイとガンジーは、寺を後にする。寺を漁れば、他にも仏像や金品があるだろう。だが、彼等は盗賊ではないし、そんなものはこの荒廃した時代に役立たない。

そして何より……彼等もまた、心のなかのブッダを完全に沈黙せしめた訳では無いのだ。立ち去り際に、ガンジーはふと廃寺の庭を見た。そこには、恐らく見事な枯山水だったであろう、雑草だらけの岩と砂の山だけがあった。

「……諸行無常、か」

侘び寂びは解せずとも、それが嘗てのこの寺の住職の徳を偲ばせる。
尤も、彼等は偵察ドローンの観測でこの枯山水の痕跡を発見し、寺に狙いを定めたのだが。

「車出すぞ」

今行くって


二人と即身仏を載せ、車は走り出す……今も危機に瀕している、彼等の街へ向けて。

「……なぁ」

「徳ってなんだろうな」

「そんなもん、俺達にわかるわけねぇだろ」

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