カチッ……カチッ……カチッ……カチッ……

部屋の中心で、メトロノームが揺れている。それを見つめる、椅子に腰掛けた青年。

「意外かもしれないけど、平和な世の中でも宗教の影響力は増す傾向がある。例えば江戸時代、お伊勢参りが社会現象となったみたいに」

『今』から二百年前。人類は遂に、「功徳」からエネルギーを取り出すことに成功した。社会は改革され、徳という価値観の下に統一され……やがて万人か徳の高い生活を送る理想郷が完成した。

……だが、その理想郷は長くは続かなかった。

「徳カリプス」

後にそう呼ばれることとなる大災禍によって、徳エネルギー文明は脆くも崩れ去った。

「徳カリプスによって社会は大打撃を受け、徳エネルギー自体も激減した。でも、それでも人類は徳エネルギーを使い続けた」

バランスの崩れた世界。そこで人々は二つに別れた。

 片や狭い世界の中で、徳を積みながら生きる者達。

そして……片や、自ら徳を生み出すことを諦めた者達。彼らは過去の徳の残滓を漁り、命を繋ぐ。

「これはそんな、アウトロー達の物語だ」

「繰り返そう。これは『僕』の物語じゃない。『彼等』の物語だ」

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