Ⅵ ある事件

フェリシアは授業を終えると、予定通り図書館へ足を運んだ。
ジェレマイア・オーン図書館は、壮大なゴシック様式の建物に四十万冊の蔵書を誇る、我が学園の自慢の施設だ。

あれは……

視線の先に、ウィルフレッドの姿を見つけた。
閲覧用の机にたくさんの古めかしい書物を積んで、調べごとをしている。

今日は顔を合わせたくないわね

フェリシアは、経済学に関する本の棚を見て、時間を潰す。

――数十分後。

はあ。ウィルフレッドはまだ帰らないのかしら。仕方ない。彼から見えない場所で授業の復習をしましょう

フェリシアは気づかれないように、図書館の奥の机へ座り勉強を始めた。
ウィルフレッドの様子が気になって集中できないが、仕方ない。
なるべく彼の方を見ないようにして、午後九時の閉館時間までを過ごした。

――午後九時。

さてと。今日も予定通り、課題をこなせたわ

フェリシアは荷物をまとめると、昨日と同じ図書館の廊下を歩く。
すると昨日ウィルフレッドがいた場所に、黒い人影が見えた。

あれは……ウィルフレッド。大丈夫。怖気づいては駄目よ

あくまでも、何も気にしていないという仕草で通り過ぎようとする。
だが、フェリシアの考えは甘かった。

きゃっ!何をするの!!

昨日と同じように腕を掴まれ、暗がりに引き込まれてしまう。

忠告したはずだ。君はずいぶんと無用心なんだね?

黒い影の正体――ウィルフレッドは、愉快そうにフェリシアを見つめて言った。

ウィルフレッド……どうしてこんなことを?私があなたに何かした?

フェリシアはなるべく強気に聞こえるように言い、ウィルフレッドを正面から睨みつける。

アーカムについての歴史書に、『死霊秘法(ネクロノミコン)』……一体君は何をしようとしているんだ?

そんなこと、あなたに関係ないわ

フェリシアは無意識に声を張り上げていた。

関係あるんだ

ウィルフレッドはフェリシアをグッと抱きしめ、昨日と同じように唇を塞ぐ。

きゃっ!

驚いてフェリシアが唇を開くと、口腔へ苦い液体を流し込まれた。
舌をねじ込まれると、反動で飲み下してしまう。

フェリシアはそのまま、意識が遠のいていくのを感じた。

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