Ⅴ 授業にて

一限目の教養科目の授業のため、フェリシアは大教室へ向かう。窓際の、真ん中より少し後ろの席。そこはフェリシアの指定席だった。始業の20分前に座って、予習のために資料に目を通し始める。この学園の授業レベルは高い。こうして予習復習を徹底しないと、進級や卒業はすぐに茨の道となってしまう。

おはよう、フェリシア。隣に座ってもいいかな?

ふいに声をかけられて、フェリシアは顔を上げた。見上げた先にあったのは、こちらを見つめて微笑むウィルフレッドの姿だった。

どうして、あなたがここに……?

どうしてって、この授業を登録しているからだよ。今まで君に気づけなくて、ごめんね。ところで、君の隣は空いているの?それとも先約があるかな?

……あいにく、この席は空いているわ。あなたが座りたいなら、どうぞ

ありがとう

そう言いながら、ウィルフレッドは隣りに座り、教科書を開く。平然としていたが、内心は彼の挙動が気になって仕方がなかった。授業が終わるまで、フェリシアの鼓動は早鐘を打ったままだった。

おつかれさま。今日も図書館へ行くのか?

ええ、もちろんその予定よ

僕も行くかもしれない。もし会ったらよろしくね

……

それなのにウィルフレッドは、やわらかい笑顔を残して去って行った。

昨日のことは、一体なんだったというの?

昨夜、図書館の暗がりでキスをしたというのに、ウィルフレッドは平然とフェリシアに近づいてきた。馬鹿にされているように感じて、心の中にわだかまりができる。

その日はずっと、暗い気持ちが消えなかった。

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