Ⅳ 戸惑いの朝

翌日、朝食を食べるために女子寮の食堂へ行くと、寮監から昨夜図書館に置いてきてしまった勉強道具を渡された。早朝に寮のポストへ届けられていたらしい。
そこにはメッセージカードが添えられていた。

<申し訳なかった。けれどこれだけは聞いて欲しい。『死霊秘法(ネクロノミコン)』には近づくな>

……何よ、これ

一体あの人には、どんな目的があるというの?
フェリシアは気味が悪くなって、その手紙をクシャッと手の中で丸め、ゴミ箱へ投げ捨てた。

フェリシアどうしたの?浮かない顔して。せっかくのスクランブルエッグが冷めちゃうよ?

食堂で朝食を頬張りながら、ベティはフェリシアに訊ねた。

昨日ね、あの<噂の王子様>に図書館で会ったの。でもあの人、すごく失礼なのよ。それで私……

ん?何かあったわけ?

それは……なんでもないわ

もうっ!フェリシアったら可愛いんだから。ウィルフレッドは実家もお金持ちだし、成績もずっとトップよ。それにあの外見……狙っちゃえば?

ば、馬鹿なこと言わないでよ!

ベティの話からすると、昨夜の行動も頷ける。

ウィルフレッドは、私みたいな田舎娘がめずらしくて、からかってみようと思ったのかもしれないわ

フェリシアは次第にそう思うようになっていた。けれどそんなウィルフレッドへの軽蔑の気持ちは別にして、フェリシアは確かに彼のことが気にかかっていた。
美しい髪と、憂いを帯びた薄茶色の瞳、陶器のように白い肌――異性を魅了する要素を充分すぎるほど備えているウィルフレッドを、フェリシアも他の大多数の女性と同じように意識し始めていたのだ。

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