Ⅲ 図書館での再会

――午後九時。
フェリシアは図書館での自習を終えると、女子寮へ帰宅するため荷物をまとめた。

物理学って、噂どおり鬼門ね。なかなか答えにたどり着けない。これじゃ駄目だわ。次回のテスト、無事に通るかしら……

独り言を呟きながら、図書館中央ホールへ続く廊下を歩く。
すると角から何者かが現れ、グッとフェリシアの腕を掴んで、暗がりに引き込んだ。

ちょっと……誰?誰なの?

青ざめて震えながら犯人を見上げる。
そこにいたのは、昼間に学内で会話した、”噂の王子様”だった。

あなた、昼間の……

ほら、大きな声を出さないで。僕はウィルフレッド・フィールド。ランチの時間に会ったこと、君は覚えていてくれたんだね

え、ええ。……私に何か?

君にお願いしたいことがあるんだ

フェリシアに近づくと、ウィルフレッドはやわらかい笑みを浮かべる。

お願い……?今日出会ったばかりのあなたが、私にどんなお願いをするというの?

訝しげにフェリシアは言った。

今日、君が落とした資料に『死霊秘法(ネクロノミコン)』と走り書きがあったね。その書物を始めとする貴重な書物は、この図書館に収められているものの、閲覧が許可される機会は少ない。君は興味を持っているようだが、そもそも一学生なんかに閲覧の許可が下りるはずがない

それは分かっています。でも、私には調べなきゃいけない理由があるんです。だから、諦めません。

君がいくら望もうと、それは出来ない。だからお願いだ、『死霊秘法(ネクロノミコン)』からは手を引いてくれ

鋭い視線を投げかけ、ウィルフレッドは言った。

偶然にあの走り書きを見たあなたに、何が分かるっていうんですか?

フェリシアは声を荒げた。

私は『死霊秘法(ネクロノミコン)』やその他の魔道書について知るために、この学園に来たんです。勝手なことは言わないでください

失礼な話だと思う。ウィルフレッドはフェリシアにとって『死霊秘法(ネクロノミコン)』が重要であることが分かっていて、手を引けというのだ。
憤慨したフェリシアは、ウィルフレッドの腕を振りほどこうとする。だが、男性の力に勝てるわけがない。フェリシアは逆にウィルフレッドに抱きしめられ、唇を奪われた。

何をするの?やっ……やめてってば

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