はいはい、終わり終わりと、桃は大声で叫び、扉の近くにいる人から順番に外に出していった。

 ざわつきながら、その場はお開きとなる。

 誘導しながら、桃はコンノを呼び止めていた。ものの数分で、屋上は生徒会役員とコンノの六人となる。

お騒がせ

 桃が、そう言って生徒会役員に頭を下げた。俺のせいです、とコンノも慌てて頭を下げる。

ウィッチのせいだよ、ここまで騒ぎが大きくなったのは。だから、そんなこと言わなくていい

 晃弘がそう言って、桃の肩を叩いた。桃は顔をあげると、小さくありがとうと呟く。

俺は、ウィッチに鍵の行方を聞いておく。

香里と桜歌は、誰か先生に、ここの鍵どうにかするように言っておいてくれると嬉しい。経費の件も含めてね

 晃弘の指示に、わかった、と二人は頷く。忍は、と晃弘が言いかけたところで、桃が小さく挙手をした。

忍ちゃんには、少しだけ扉の外で見張っててほしいんだ。今からコンノ君と二人で、話をしたい。誰かに入ってこられちゃたまらないからね

ああ、それはいいけど……話って

 忍がすべてを言う前に、桃は返事をする。

もちろん、恋愛のことさ

ああ、そ、そうだよね。ごめん

野暮だな、雑務君は

 じゃあ、と桃は、コンノに目をやる。行こうか、と微笑み、屋上の奥へと歩いていく。

 校内へと続く扉をくぐりながら、心配そうに、桜歌が振り返った。

心配ないよ。ただ、話をするだけだ

 晃弘の言葉に、桜歌は頷く。

 それでも不安なのか、細い指先が、そっと香里の服の裾をつかんだ。香里は、静かに桜歌の手をとり、階段を下っていく。

じゃ、俺は生徒会室にいるから。終わったら来いよ

 忍は、ああとこたえて、後ろ手に扉を閉めた。

もしかして桃は、コンノとかいうやつにだけ屋上でのあのことを言うんじゃないかって、さっき思ったろ

 晃弘が、声をおとして忍に訊く。思わずね、と忍は奥歯を噛み締めながら苦笑した。

二人きりで話って、だって、もう返事はしたのに

みんなの前でふっちゃって、その後のケアもなしってのは、桃やんらしくないからね

 晃弘は微笑んで、屋上へと続く扉を見た。

そういうところが好きなんだよねー……

ああ、ほんとに……ん?

 忍は目を丸くする。えっと、今、えっと、何だって?

お前、この流れで好きとか言うと、恋愛の流れだと勘違いするぞ?

恋愛の流れで間違いないです、桃に好きな人がいるなんて知らなかったから、気が動転してるってのも、併せて秘密で頼みます

 ぽかんとする忍に向かって、あっと晃弘も目を丸くする。

もしかして忍も、桃のこと好きだったりする?

なんでそうなるんだよ

あ、違うの。よかったーぽかんとしてるから、もしやと思って。ま、今後そうなったとしても俺はいっこうに構わないけどね。忍とは友達兼ライバルってことで

いや、大丈夫です

 あんなテンション高い人とつきあえる自信がない、とは言わない。

ま、秘密で頼むよ。口は固いよね?

固いです

 だと思ったと、晃弘は忍にウインクを飛ばした。おえ、と舌をだし、忍はそっぽをむく。ははと笑いながら、晃弘が階段を降りていく音がした。

 晃弘の姿が見えなくなってまず、忍は携帯電話で掲示板をチェックした。

 すぐに、鍵を速やかに返却するようにという旨の書き込みを見つけた。

 晃弘の行動の早さはもちろん、一意見として、返した方がいいと思うという風に書かれていたのはさすがだと、忍は感心する。

 その書き込みのわずか三分後、晃弘の書き込みに対してルビーウィッチから返信があった。

No.2108 ルビーウィッチ 2015/5/25 18:25:32

分かった! すぐに返すことにするね!
今日も生徒会の人には、宮野さんを筆頭にいろいろありがとう!

いろいろありがとうって……

 傍観者としてあの観衆の中に混ざり、あの様子を見て、いろいろとありがとうと、ぬかす。

愉快犯、むかつくなあ

 どうせなら慈善活動でもしろよと、ひとりごちる。

 その後、桃についての記述や、こりない願い事の羅列が続いたが、結局ルビーウィッチからの返答はなかった。

 すぐに返すって、どこにだ? どこかから借りたのか? 忍は思考を駆け巡らせる。

 職員室に鍵があるはずだ、もしかしたら先生が? というところまでたどりつくが、いやいやと首を降る。観衆の中に先生はいなかったではないか。

わかんね……探偵ってすごいんだな

 少ないヒントから、するすると犯人を導き出せたらどんなに素敵なことだろう。芸術にも近い芸当ができるほど、忍は訓練されていなかったし、発想力があるわけでもなかった。

 しかし、今回の犯行は、前回と比べて被害は少ないものの、歓迎されるようなものではなかった。何度も思う。

 よりによって、屋上だなんて。

つーか先生たちは何してるんだろ

 ガラスで敷き詰められた科学室の掃除を、生徒に任せてしまうような先生だ。

 この学校の校風は、なんでも生徒で。よくも悪くも、先生の干渉が少ない学校ではある。

 ルビーウィッチは、この特性をついたのだろうか。

 思考にふけっている忍の後ろで、がちゃがちゃという音がした。
 振り替えると、背の高いコンノがにゅっとその姿を現した。思わず忍は、うお、とのけぞる。

 思わず見上げたその顔の目元は、少しだけ赤くなっていた。忍はすぐに、視線を反らす。

 コンノに隠れていた桃が、ひょいと姿を現した。

2 屋上の夕日はまるであなたの(7)

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