赤い河川を横目に、非常通路を駆け抜る宇宙刑事たち。

ほのかな青の輝きに満ちた「チューペットの歴史館」を超えて。

人の限界を遥かに超えた脚力で走る事、ごく数秒。
彼らの辿り着いたパビリオン屋外では!

出店のコロッケ屋の主人、ビーフ望月が。

着ぐるみ手品で笑顔と生傷を絶やさないミス・バッカーが!

路上の灰皿掃除当番、牛島イーニックが。

哀れムセニビールスにその身を侵され、異形の魔物と化していたのだ!

オレノセイダー

望月さん!
バッカーさん!
牛島さんまで!

キサマノセイダー

くそっ、既に三人も……!

キサマノセイダー

急げ、奴らを処分するんだ!
排出されたムセニビールスを私が焼却する!

オレノセイダー

俺のせい……俺のせいだ!

オレノセイダー

三人まとめて、俺のせいだ!

オレノセイダーの両手の先に、青い光が集束する。そして!

オレノセイダー

食らえ、俺!

光の粒子は彼の手元で、車のキーの形を成す。

現れたキーのオートロックボタンを、オレノセイダーが力強く押した、その時!

排気音を響かせ彼らに迫るのは、

光の粒子で構成された薄汚い白のハイエースだった!

オレノセイダー

バーニングレンタンヴィークル、カモン!

ドリフト気味に横っ腹を晒し、サイドドアを開け放ったまま、ハイエースは魔物たちに迫る。

有無を言わせず魔物達を車内に飲み込んだハイエースに、

オレノセイダー

とうっ!

オレノセイダーもすかさず飛び乗る。

全ての窓の隙間隙間を埋めるべく、続々とべったり貼られる光の粒子のガムテープ。

そして後部座席に並ぶ無数の七輪に、正義の炎がぽっかり灯る!

ぴたりと停まったハイエース、もといバーニングレンタンヴィークルは、オレノセイダーの意図を察して必死に外に出ようとする魔物達を、決して逃しはしない!

オレノセイダー

すまない、みんな。
俺がふがいないばっかりに……ムセニビールスに身体を乗っ取られて!

車内に立ち込め始めた黒い煙。咳き込む魔物達が繰り出す必死の爪も、牙も、今のオレノセイダーには届きはしない!

オレノセイダー

お前たちを倒して、俺も死ぬ!

オレノセイダー

俺のせいだ!

キサマノセイダー

いい加減にしろ、オレノセイダー!

効きの遅さに業を煮やしたキサマノセイダーが、バーニングレンタンヴィークルのフロントバンパーを蹴り飛ばす!

軽々と横倒しにしたバーニングレンタンヴィークルのフロントガラスを、再びの前蹴りで蹴り砕いた!

オレノセイダー

キサマノセイダーさん、どうして俺を助けたんだ!

キサマノセイダー

バカが!迅速に処分しろとついさっきも言ったはずだ!

キサマノセイダー

練炭で死ぬのを待っていたら、またムセニビールスが逃げ出してしまうではないか!

そう言いながらもキサマノセイダーは、バーニングレンタンヴィークルから這い出てきた魔物の頚椎を、一人、また一人と踏み抜いて行く。

浄化の電撃で一度はその身動きを止める魔物たちだったが、キサマノセイダーは決して、その命までは奪っていなかった。

実際オレノセイダーの目の前で、望月も、バッカーも、牛島も、元の姿を取り戻し、よろよろと立ち上がったのだ。

迅速に動きを止め、迅速に排出させる。キサマノセイダーはただ冷徹に、最良の方法を遂行していたに過ぎなかった。

オレノセイダー

じゃあ、こんなに手間取っているのも、結局は俺のせい……

排出されたムセニビールスを重い踵で踏み抜き、高圧電流で焼き散らすキサマノセイダー。

キサマノセイダー

ああそうだ、貴様のせいだ!

彼の姿を前にして、オレノセイダーはただ、己の無力に打ちひしがれる他無かった。

キサマノセイダー

もういい、オレノセイダー。いや、折川ルイス

オレノセイダー

えっ……

キサマノセイダー

あとは私一人で片付ける事にする

キサマノセイダー

そのスーツを返せ。貴様には不要だ

オレノセイダー

そんな……でも!

オレノセイダー

まだムセニビールスの脅威が残っているなら、俺も戦……

キサマノセイダー

聞き分けろ、ここまで事態が悪化したのは、貴様のせいだ!

キサマノセイダー

さっきから見ていれば、スーツが体現している貴様の心、あまりに危険だ。過剰に自虐的だ

言葉を返すこともせず、ただ黙って足元に視線を落としたままのオレノセイダー。

ようやく、ようやくだ。

ようやく少しでも「俺のせい」を自分自身で取り返す事ができそうな、力を手に入れたというのに。

オレノセイダー

キーさん、でも、俺……俺!

キサマノセイダー

何を急に馴れ馴れしく呼んでるんだ。さあ、スーツを脱ぐんだ

キサマノセイダー

今ならまだ間に合う。このままスーツが貴様に完全定着でもしたら……

オレノセイダー

い、いやです!

はっきりとした、拒絶。

キサマノセイダーが伸ばした手を、オレノセイダーは強く振り払った。

キサマノセイダー

な、なんだと……!

オレノセイダー

俺は、俺は……

オレノセイダー

俺のせいで起きてしまったことは、やっぱり俺の手で片付けたい!

キサマノセイダー

貴様……

オレノセイダー

今までの俺は、俺自身がやらかしてしまった事に、何の責任も取れずに生きてきた

オレノセイダー

今日だって俺は、シニーソーダーさんを死なせてしまい、遊園地のみんなをビールスの危機に晒している。

オレノセイダー

俺のせいだ!

オレノセイダー

でも、今の俺には、「俺のせい」を片付けるだけの力があるはずなんだ!

オレノセイダー

だから……

キサマノセイダー

それが出来ていないから手を引けと言っているのだ!

キサマノセイダーの一喝に圧され、びくりと身を震わすオレノセイダー。

吐き出したい言葉はまだある。
やらなければいけない事はわかっている。

だが、今自分がこうして「俺のせい」を何とか引き受けたいと願うことは、自分勝手なのだろうか。

キサマノセイダー

……素人なりに、貴様はよくやった方だ

キサマノセイダー

それは誇っていい。
俺のせいとばかり言わずにな

キサマノセイダー

だが今は一刻を争うのだ!
こうしている間にも、ムセニビール……

不意に、キサマノセイダーの言葉が途切れた。

がくん、と力を落とした両腕が、びくんびくんと不自然に蠢く。

キサマノセイダー
オレノセイダー

キ、キーさん……?

恐る恐る様子を伺う、オレノセイダー。

まさか。

オレノセイダーの最悪の予感は、

キサマノセイダー

グアアアアアアアッ!

的中していた。

オレノセイダー

キーさん! ま、まさか、そんな!

オレノセイダー

……あっ、こ、これは!

彼ら二人が言い争う内に、焼却し切れずに残っていたビールスは無音の信号を発していた。

園内に散っていたムセニビールスは、地を貼ってじわりじわりと集合し、キサマノセイダーの脚部装甲のわずかな隙間から、一斉に彼を侵食したのだ!

キサマノセイダー

や、やはり貴様の……!

邪悪な青い液体は全て、じゅるり、うじゅるりとキサマノセイダーの身体に吸い込まれた。

オレノセイダー

や、やっぱり俺の……

キサマノセイダーのわずかな心の闇を、ムセニビールスが増幅し食らう。

稲光の如く輝いていた装甲が、光を失い、汚れていく。

圧倒的強さを誇った宇宙刑事が、今まさに恐るべき敵として、

キサマノセイダー

キサマノセイダー!

オレノセイダー

オレノセイダー!

オレノセイダーの前に立ちはだかったのだ!

俺のせいでつづく!

第三話 交渉決裂俺のせい

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