翌日。
真夏はいつもどおり始業45分前に出勤し、掃除をしてコーヒーを淹れる。

佐藤真夏

係長、コーヒーです

矢代係長

うん

矢代係長は、机の上の書類を見ながら、受け取ったコーヒーを一口飲んだ。そして、ぼそりと呟く。

矢代係長

また痴漢か。最近やけに多いな

佐藤真夏

痴漢……そういえば
莉子さんの友達も被害に合ったって
言ってたな……

矢代係長

佐藤、これやっておけ。
日野は佐藤の面倒見てやれよ

日野悠二

了解です

真夏が係長に突き出された書類を受け取ると、呼ばれて日野がそれを後ろから覗きこむ。

日野悠二

場所は……近くだな。
とりあえず現場の駅に行って
防犯カメラでも見てみっか

佐藤真夏

了解です

日野悠二

真夏~朝飯食ってから行こうぜ~

佐藤真夏

え、いや……自分は食べてきましたが

日野悠二

まじかよー。
俺寝坊したからまだ食ってねえんだ

佐藤真夏

じゃ、とりあえずコンビニ行きますね

先輩の我儘を聞いて、真夏はコンビニへとハンドルを切るのであった。

とまあ多少の道草を食いながらも、コンビニで買った軽食を胃に収めつつ、二人は書類に記されていた駅へと辿りつく。

日野が駅員と話して手続きを済ませ、駅員室の奥の個室で防犯カメラのチェックに入る。

佐藤真夏

この子が被害に合った子ですね

日野悠二

こんな短いスカート履いてたら
うっかり魔が差しちゃうよなー

佐藤真夏

せ、先輩……不謹慎ですよ

佐藤真夏

!?

突然扉が開く音がして、真夏は驚いて椅子から立ち上がった。不謹慎なことを言っていたのは日野の方であるのに、何故か動揺してしまう真夏であった。

一方、日野の方はけろりとしている。

日野悠二

どうかしましたか?

刑事さん、あの……
隣の駅で、痴漢が捕まりました。
すぐに向かってくれませんか?

駅員の思わぬ言葉に、真夏と日野は顔を見合わせた。

日野悠二

……わかりました。

いくぞ、真夏。

佐藤真夏

はい!

駅員からの報せに、二人は駅員室を飛び出した。
それから真夏は、二段飛ばしに駅の階段を駆け上り、息を切らせてパトカーに飛び乗る。
今度こそ、サイレンを唸らせて現場に急行――

佐藤真夏

あ、あれ、先輩?

エンジンを駆け、サイレンを鳴らそうとしたところで、真夏は日野がついてきていないのに気がついた。

切れていた息が元に戻る頃に、ようやく助手席の窓から日野の姿が見える。しかし、彼はパトカーには乗らず、胸ポケットから取り出したタバコに火をつけた。

佐藤真夏

せ、先輩?
急がなくていいんですか?

日野悠二

んな急がなくても
もう署の奴らが向かってるって

佐藤真夏

そ、そうですか……

無線から、現行犯逮捕の報せが流れてくる。
それを聞くともなしに聞きながら、真夏はぼうっと短くなっていく日野の煙草を眺めていた。

と、急に日野は煙草を地面に押し付けると、胸ポケットを探りだす。

日野悠二

はい、日野です。
……今現場で防犯カメラを見ていたところですが……はい。はい。了解しました。

取りだした携帯に向かって二言三言喋ると、日野は携帯灰皿に煙草を放りこみ、舌打ちしながら助手席に乗り込んだ。

佐藤真夏

どうしたんですか?

日野悠二

係長が、例の現行犯逮捕のやつに向かってマルヒを連れてこいって。

佐藤真夏

係長、きっと先輩がサボるの
見越してたんだろうなぁ……

日野悠二

くそっ、あの昼行燈め……

佐藤真夏

先輩、そのうちホントに怒られますよ……

嘆息しながら、真夏は赤色灯を車の上に乗せてギアを一速に入れた。
ようやくのこと、ウゥン、とサイレンが唸りを上げた。

それでも僕はやってない 3

facebook twitter
pagetop