―こことは異なる世界ヨカトピア―
テンジン王国領 セブリの森

  

うう……
なんだったんだ一体……

  

ここは森、なのか?
しかも日が昇っている……
俺は職場でトイレのドアを開けて……
ええと、今日の会議に書類は間に合ったんだっけ……

  

なんだこれ!?
日本にこんな動物いたっけ……?
手のひらサイズだし、害はなさそうだけど……

  

なんか気持ち悪い所だなあ……
おーい!誰かいませんかー!!

  

なんだ!?悲鳴!?
誰か人がいるのか!!

とりあえず声のする方に向かうか……


























  

なんだ、あれ
人と…… デカい生き物……?

  

どうして領内に魔獣ランクBのグリフォンが……
これも魔王復活の影響なの!?

  

うわ! なんだあのバケモノ!?
しかもなんか立体感のない女の子が襲われてる!!

  

えっ!? 一般人!?
どうして何の装備もしてない一般人がこんなところに……
どうやら、逃げるわけにもいかなくなったわね――

グリフォンなんて相手にするのは初めてだけど――

  

おーい、そこの妙に立体的な一般人!!
巻き添えを食らいたくなかったら早く逃げなさい!!

  

逃げろって、君一人で戦うつもりなの!?
絶対ヤバいって!!
一緒に逃げようよ!!

  

逃げないならいいわよ! 一応、忠告はしたんだからね……

ニイチガニ ニニンガシ……

  

えっ!? 九九!?
なんか指で数えながらめっちゃ真剣に唱えてるし――

  

ニサンガロク ニシガハチ……

  

なんだ!? 彼女の前に炎の塊が!
まさか…… 魔法……?

  

ニゴジュウ…… ニロク……
えーっとニロク……

  

えっ、2×5の次が分からないのか!?
まさか両手で数えられなくなったから――
これは…… すごいバカだ!!

  

えーっと…… ニロク…… ニロク……
10から2増えるから……

  

まずい!炎が消えかかってる!
本当に九九が呪文なのか!?
一か八か…… やってみるか!

  

おーい!! 2×6は12だ!!

  

!!

ニロクジュウニ!

  

その後は、ニシチジュウシ ニハチジュロク ニクジュウハチだ!!

  

ニシチジュウシ ニハチジュロク ニクジュウハチ…… くらえ!!

 

グエェ――!!

  

やった!

  

やるじゃない!あなた魔術師だったのね!
しかも暗算で第二界相攻撃呪文(フェイズⅡ・オフェンシブ・スペル)を暗唱できるだなんて相当の使い手じゃない!
心配して損したわ!

  

えっ? いや、普通の会社員ですけど……

  

またまたー 謙遜しちゃてー
一般人にこんな高等魔法使えるわけないじゃない!

  

いえ、魔法とかホントよくわかんないんですけど……

これってやっぱり夢なんですかね?
俺、仕事あるんであんまり長く寝てるわけにもいかないし、そろそろ起きたいんですけど……

  

本当に魔法のこと知らないの!?
まさかあなた――

  

うそ……
全然効いてない!?

 

グルルルル……

  

うわー! めっちゃ怒ってる!!

ギエェェェェ!!!!!

  

くっ!!

  

うわ、なんだ!? 痛っ!!
まさか…… これ、夢じゃないのかよ!?

  

くっ…… もはやここまでなの……
私の使える攻撃呪文は第二界相が限界
なんとか隙を作ってもう一発撃ち込めてもグリフォンを倒すのは不可能……

  

――あなた、私が時間を稼ぐから今すぐ逃げなさい――

  

えっ……
だって、君は……?

  

いいから早く行きなさい!
民の一人も守れなくて何が王族よ!

  

どうする? 彼女の言うとおり逃げるべきなのか?
確かに、俺がいても何もすることはできないかもしれない……
すごく怖いし、死ぬのは嫌だ……

でも…… もしかしたら……
俺の考えている通りなら――

 

啓太、あんたならできるはずばい!
自分ば信じんね!

(啓太、あなたならできるはずです。
自分を信じなさい!)

  

母ちゃん――
ちかっぱえすかばってん、やってみるたい!

(お母様――
非常に恐ろしいですが、私はやります!!)

よし、決めた!!
俺は、世界を変えるために今から自分を変える!!

  

下がれ! お姫様!

  

あなた、何をするつもり!?

  

彼女は九九の二の段を唱えることで魔法を発動させた……
第二なんとかとか言ってたから、きっと九九の段に応じた効果があるはずだ……

そして、彼女は二の段も暗唱できないバカだ――
だとすれば――

  

シチイチガシチ シチニジュウシ……

  

今、「シチなんとかかんとか……」って言ったわよね…… まさか!!
第七界相攻撃呪文(フェイズⅦ・オフェンシブ・スペル)を使うとでもいうの!?
第六界相以上の高位攻撃呪文を使える人間が存在するなんて聞いたことがないわよ!!
(繰り上がりが多くて計算が難しいから)

――指じゃ数えられないけど、デタラメじゃないのよね!?

  

シチサンニジュウイチ シチシニジュウハチ……

  

おお、力が漲ってくる!!
これなら…… いける!!

  

シチゴサンジュウゴ シチロクシジュウニ……

  

すごい!
魔法が発動している!
この人、本当に第七界相攻撃呪文を使いこなせるというの!?

やはり、この方が――

  

シチシチシジュウク シチハゴジュウロク!!

  

シチクロクジュウサン!! くらえ!!
















 

ギャアアアァァァァァ!!!!

  

やった……

  

すごい…… 本当に第七界相呪文を使いこなすなんて……
やっぱりこの人が……

  

ふう、それにしてもすごい威力だ
森が半分吹き飛んでしまったぞ……
七の段におさえておいて正解だったな……

ところで、お姫様は大丈夫でした――
って、うわっ!!

  

お待ちしておりましたわ!
勇者様!!

  

わっ、急に抱き着かないでよ!!

って…… 俺が勇者だってーーーーーー!?

つづく

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