―こことは異なる世界ヨカトピア―
テンジン王国 アイガンビル城 王の間

 

預言によれば魔王スゴクワルイの復活まであとわずか……
勇者の召喚にはまだ成功せぬのか!?

 

申し訳ございません。宮廷魔術師からの報告では異世界とのゲートの接続は完了しているのですが……
後は勇者様がゲートを通過するのを待つよりなく……

言い訳はよい!早く勇者を召喚せねばこの国はおろか、世界中が700年前のように闇に包まれてしまうのだぞ!

  

お父様! お気持ちはわかりますがお静まりください
国王がそのように取り乱しては国民まで不安におびえることになります

すまぬアンリエットよ……
だが、魔物の数は日に日に増えてきておる
騎士達も我が国を守ることで手いっぱい……
どうしたものか……

今は信じて待ちましょう
勇者様はきっと私たちの祈りに応えてくださるはずです

勇者よ。この世界を守りたまえ……

 

メレディス国王!
伝令より勇者の召喚に成功したとの連絡が!

おお!まことか!
それで、勇者はいつ到着するのだ!?

 

それが…… 転送魔法に計算間違いがあったとのことで、正確な転送地点が分からず――
召喚の儀式を執り行ったセブリの森の中であることは間違いないのですが……

なんだと!ちゃんとたしかめ算をしろと言っておいただろうが!

 

申し訳ございません。しかし、くり下がりのある計算をできるものとなるとこの国には数えるほどしかおらず……
たしかめ算の計算結果も間違っていたということで、このような結果に……

おお…… なんということだ……

  

お父様!今は嘆いている時ではございません!
勇者様は異世界から何も知らないずにセブリの森に召喚されているのですよ!
あの森にも最近は魔物が増えてきています。早く捜索しないと!

 

確かに、お前の言うとおりだ。
セブリの森となると数を向かわせても足手まといになるだけだ。
直ちに四騎士を勇者の探索へ向かわせよう。
ギルとライザは他の二人と共にセブリの森へ勇者の側索に向かうのだ!

 

はっ!

 

承知しました!

  

お父様!私も勇者様の捜索に向かいます!

 

ならぬ!多少魔法に覚えがあるとはいえ、そなたはこの国の第一王女なのだぞ!
もしものことがあったらどうするのだ!?

  

私の魔法の腕ならこの辺りの魔物に後れを取ることなどありません!
それに、もしも勇者様が倒れてしまえばこの世界全てが終わってしまうのですよ!
そうなってしまってはこの国も王族の血筋も関係ありません!違いますか!?

 

やれやれ、どうあっても引き下がらぬのであろう。母親譲りの性格にも困ったものだ――
仕方ない。四騎士と連絡を取り、危険があれば直ちに引き返すのだぞ……

  

ありがとうございますお父様!
それでは行って参りますわ!

 

顔も性格も日に日に母親に似ていくのう…
あれと同じように、その真っ直ぐさが災いして不幸に見舞われなければ良いのだが――


























―同時刻 こちら側の世界―
日本国 福岡県 有限会社ヒューナカ

  

死ぬほど眠い……
今日も残業かあ……
他はみんなとっくに帰っちゃったし、なんで俺だけこんな夜中まで残業してるんだろ――

  

あー、なんか急に嫌になっちゃったなー
なんで俺サラリーマンなんかやってるんだろ……
子供のころはヒーローに憧れてたのにな……
ヒーローなんて仕事は無いにしても、もうちょっとやりがいの感じられる仕事につきたかったな……
でももう今年で37歳だし、他の仕事なんてできないよなあ……
尿酸値も高いし、彼女もできないし……

 

啓太も良かとこがたくさんあっとやけん、自分の好きなこつばやったら良かとよ……
自身ば持って生きんね!

(啓太にも良いところがたくさんあるのですから、自分の好きなことをやれば良いのですよ)

  

母ちゃん……!
なんでここにおるとの!?
ここはオフイースたい!?

(お母様……!
どうしてここにいらっしゃるのですか?
ここはオフィスですよ?)

 

なんばそげん情んなか声ばしとっとの!
アンタがようらケソケソしよるけんわざわざ来たとたい!
シャキッとせんね!

(どうしてそんな情けない声を出しているのですか!
あなたが最近なんだか情けない様子をしていたからわざわざ来たのではありませんか!
しっかりしなさい!)

  

ばってん、そげんかこつ言っても大手企業以外はまだまだ景気も良くなかとよ……
俺ももうアラフォーたい…… 資格もなかし……
転職支援サイトに登録しても良か求人はなかとよ……

(しかしながら、そのようなことを言われても大手企業以外はまだ景気も良くなく、私もアラフォーですし、資格もないのですよ……
転職支援サイトに登録しても良い求人が無いのです……)

 

そぎゃんかこつば言いよっとじゃなかとよ!
不景気とかアラフォーとか資格とか関係なか!
一番大事なんは自分が世界ばどげんか風に変えたかかとばい!

(そういうことを言っているわけではありません!
不景気だとか、アラフォーだとか、資格だとかは関係ないのです!
一番大事なことは自分が世界をどのように変えたいのかということなのですよ!)

  

母ちゃんの言いよることはようわからんばってん、なんか胸にガツンと来たばい!
すぐに世界とはいかんばってんが、もう少し、やれるこつから頑張ってみるばい!

(お母様の仰ることはよくわかりませんが、なんだか胸に迫るものがありました!
すぐに世界を変えるという訳にはいかないでしょうが、もう少しできることから頑張ってみます!)

 

それで良か……
だってアンタには――

(それで良いのです……
だってあなたには――)

  

むにゃむにゃ……
母ちゃん、わかったばい……

――って、夢か……

  

良かった。寝てたのは10分くらいか。
誰もいなくて助かったな……
寝言を聞かれてたら会社辞めるまで馬鹿にされてたぞ……

うぅ、なんだか寒いな。
トイレに行こう――


























  

うー、漏れる漏れる

よっこいしょっと

  

最近、尿の切れまで悪くなってきたな……
昔はウォータージェットカッターのような勢いで出たものだが……

  

あーすっきりした!

  

……なんだ?
一番奥の個室、なんか光が漏れてるな……

俺以外もう誰もいないはずなのに……

  

あれっ、鍵もかかってない
もしもーし、タイムカード切って帰らなかったらまずいですよー


























  

なんだ! まぶしい!!
うわああああーーーーーーーー!!!




つづく

第一話 異世界と、世界と

facebook twitter
pagetop