あのまま家を出て、私の一歩前を歩く彼を追いかける。

　アパートは少し路地裏に入ったところにあるので、道に普段あまり人通りはない。

　最近は原因不明の殺人事件も数件起こっているらしく街中は静かすぎるものであったが、彼の言うとおりハロウィンで行われているパレードが近くに来ているらしい、久しぶりに楽しそうな声や音楽が耳に入ってきた。

　それでも賑いは言うほどまでにはまだまだ遠く、二つの足音が外壁を大きく反響する。

（今は……うん。割と大丈夫みたい。あれ、結構波があるのがな……）

（…………）

（……道、こっそり曲がれそうなところもあるし、上手くいけばはぐれてしまうことも出来るかも）

見ると十歩先あたりにちょうど曲がり角を見つける。

（……うん、そうしよう。それが私のためだし彼のためだ）

（よし、あそこ。あと１０、９、８、７、６、５、４、３、２……）



（──１！）

　そう言われて曲がろうと思った小道の先を見ると、その先にきらきらと泳ぐパレードの列が動くのが見えた。

　少し調子の外れた不安定なのに明るい音楽に、ハロウィンらしい紫にオレンジの灯りをメインにジャック・オー・ランタンを模した乗り物や魔女やフランケンシュタインなどの仮装行列。

　道を行く人々が皆、ハロウィンを謳歌していた。

　その後、特に何事もなく店に到着する。

　店内はハロウィンの影響かほとんど人はおらず、店内ＢＧＭだけが静かに喋っているだけであった。

──数ヶ月前

（コーヒー、今日は結構買ったし変なことがなければ一ヶ月は持つかな）

（買い込むのはいいのだけれど、“重たいふり”をするのが結構面倒なのよね……）

　厳密にはどれくらいとは言えないが、吸血鬼は生まれつき少なくとも人間の倍は腕力がある。

　それは私も例外でなく、人間に紛れて生きている以上私くらいの人間がコーヒーのペットボトル２０本を軽々と持っていたら誰が見てもおかしいだろう。

　なので歩幅は小さく、何歩か歩いたら少しだけ休憩と“重たいふり”をいちいちしなくてはいけないのだ。

（血を飲んでなくって良かったのはこういう時だけね……顔色的な意味で）

　そう言うと彼は荷物の四分の三を持ち、物言わせず家の方向へ歩き出す。

　軽くなりすぎた四分の一を手に取り急いで追いつく。

（……お礼？）

（そんな……なにかあったっけ……）

　まだまだ身の振り方が思った以上になってないみたいだ……。

（……正解）


（その通りじゃないけど、その通りだよ。でも私に足りないのは、）

（生命活動としての血ではなく、食事としての血だけれど）