領主の執務室
(別名:愛の説教部屋)
領主の執務室
(別名:愛の説教部屋)
アレックス様。ご自分がどれほど愚かなことをしたのかわかっていますか?
ゴリラが怒鳴りました。
やっほーみなさん!
アレックスちゃんだよー♪
超絶カッコイイ技でドラゴンを仕留めた私。
えっへっへー!
みんなが褒め称えてくれますよ。
ほめられるのが嫌いな人はいないですよねえ?
ね?
でね!
いまね! いまね! 今アレックスちゃんね!!!
ゴリラにお説教されてるの。
ゴリラは超怒っています。
怒り狂ってます。
こんな怒られたのは数千年ぶりです。
しかたないやん!!!
私が行かなかったらみんな死んでましたよ!!!
私はたまらず反論しました。
するとゴリラは一層大きな声で怒鳴りました。
将が前に出て戦ってどうするんだ!!!
おっと、もっとなご意見です。
でも私たちじゃないと誰も勝てないでしょ!
ドラゴンですよ!!!
巨大怪獣ですよ!
だからって王位継承権第10位のアレックス様と、王位継承権第7位のシルヴィア様が戦う理由にはなりません!!!
王位継承権?
私は真顔で聞きます。
おーいけいしょうけん?
だってうち軍人ですよ?
うがー!!!
将軍家は王族でしょうが!!!
あ、そうか。
実家はそんなに偉かったのか。
私もスペアの一人だったんですね。
アレックス様は将来、最低でもこの国の軍を率いることになります。
御身がどのような立場なのかちゃんと理解してください!
ふーん
私はつまらなさそうに鼻をほじりました。
だって興味ないですもん。
隙を見て革命起こして民主制に移行しようと思ってましたし。
(どさくさ紛れに司教に嫌がらせもします)
そんで私たちは政治を頭のいい人に押しつけて楽隠居。
適当な財団の理事長でもしながら、庶民に課せられた重税の甘い汁で一生面白おかしく暮らす予定です。
なので私には王位が云々という話には全く興味がありません。
そのどうでもいいという態度が伝わったのでしょう。
ゼスさんの顔が真っ赤に変わっていきます。
お前は!!! バカなのかー!!!
次の瞬間、私の視界がもの凄い勢いで揺れました。
それは拳骨でした。
ゼスさんが私の頭に拳骨を落としたのです。
ぎゃぼおおおおおおお!
痛い!
超痛い!!!
ちょっと待て!
頭が割れる!
話すか話すまいか悩んでいたが仕方がない!
アレックス! このゼスは貴様の叔父である!
やっぱりウチの血縁だったー!!!
ゼスさんの眉がぴくりと動きました。
あのね紋章見りゃ気づくでしょ……
もしかして……
わからないレベルの超絶おバカだと思われてた!!!
い、いや待て、バカならバカの方が楽ですよ!
てへッ♪ アレックスちゃん、おバカだからなんにもわからなーい♪
テヘペロ♪
だから領地運営はみんなで適当に……
今さら誤魔化されるかー!!!
怒鳴られました。
しかたない。
こういうときは話を逸らそう。
ところでドラゴンですが、守備兵団の一人が『収穫前に来たことがない』と言っておられましたが?
そ、それは……
ゼスさんが言葉を失いました。
いえーい!
私の勝ちー!
ひゃっほー!
つまり、以前から襲撃を受けているということですよね?
ゴリラがゴクリと生唾を飲み込みました。
資料には遊牧民の襲撃とありましたが、実際はあのドラゴンの襲撃ですね
誰も信じてくれないから信じてくれそうなシナリオをでっち上げたんですね。
よくわかります。
にっこり。
私は追い詰めていきます。
まあいいじゃないですか。
有害鳥獣も無事撃退しましたし。
ここは一つ何もなかったということで?
いやはや一件落着。
これであとは怠けることができますね。
はー疲れた。
さて寝よう。
と、思った私が甘かったのです。
違います
絞り出すようにゼスさんが言いました。
へ?
あのドラゴンだけじゃないのです……
はい?
おかしいです。
流れがとんでもない方向へ行っています。
昨年だけでも、巨大なアンデッドに空から爆撃してくる不思議な生き物にドラゴンを超える大きさの巨大怪獣に……
マジっすか?!
私は驚きのあまり頭の悪そうな声を上げました。
世界が全力で私を殺しにかかって来てやがる!
……よく生きてましたね
ええ。もう本当に……何度も死ぬかと……
ゼスさんがうな垂れました。
「討伐できましたか?」なんて無粋なことは聞きません。
うん。
生き残っただけで偉い偉い。
それじゃあ、まずはドラゴンの死体を見聞しましょう
話題を誤魔化しきった私はいい顔でそう提案しました。
ゴリラはハトが豆鉄砲喰らったような間抜けな顔をしています。
なんのために……ですか?
だってここって、どう考えても大型の怪獣が生息できるほど野生動物が多い地域じゃないですよね?
ところが事件は複数。
なんらかの原因があるはずです
私はニコリと笑いました。
こうしてゼスさんが叔父貴であるという事実は一旦棚上げになったのです。
広場
シルヴィアも合流してドラゴンの死体を見に来た私たち。
ドラゴンの死体は村の広場に運び込まれていました。
ククク。
これを仕掛けた勇者(リア充)は今ごろ慌てふためいていることでしょう。
ざまあ!!!
それにしてもなんだか濃厚な魔力を感じます。
おかしいなあ……
シルヴィア。魔力貸してもらえませんか?
なにをするのだ?
魔法で詳細に調べます。
うーん。
おかしんですよねえ。
まるでこの世界のものじゃないような……
私がそう言うとシルヴィアが魔力を集中しました。
私はそこから漏れてくる魔力のカスで魔法を使います。
自分でもセコイと思います。
でもしかたないでしょ!
魔力ないんだから。
私はドラゴンの前身をスキャンします。
なんでしょうねえ。
この違和感。
そして首に何かを発見した私は首を切り裂いて手を突っ込みます。
やはりあった!
シルヴィア!
私は発見したものをシルヴィアへ投げました。
シルヴィアは上手にそれをキャッチすると、まじまじと見つめます。
エメラルド……?
それも傷もなく色が濃く透明度の高い……
しかもこぶし大の大きさ……
恐ろしいほどの高級品だぞ
シルヴィアがそう言うのなら、そうなんでしょうねえ……それにしても……
召喚魔法だな?
ですねえ。
それも相当な腕ですよ。
どうやら誰かが宝石を触媒にして、凶暴でバカ強いモンスターを召喚しているようです。
ですが、これでこの領地の問題がある程度解決するかもしれない可能性が出てきました。
シルヴィア。
こいつはラッキーです。
うむ
ゼスさんは怪訝な顔をしています。
ゼスさん。
このエメラルドの価値がおわかりですか?
いえ、自分は宝石などは苦手で……
そうでしょうねえ。
見た感じ
成分:騎士100%
って感じですもん。
重さ1キロって所ですかね?
美しくないカットがされてるので、カットし直して最終的に半分になるとしても500グラムか。
はいシルヴィアちゃん。
この石の価値は?
価値は算定できない。
国宝クラスなのだ。
ですよねー。
んじゃ割りましょう。
はい?!
ゼスさんが声を上げました。
シルヴィアはうんうんと頷いています。
売るのだな?
そうそう。
手頃なサイズにカットして売るのです。
そしたらそれを全部復興資金にあてましょう。
ゼスさんが口をパクパクとさせていました。
まあ普通は反対しますよね。
でもこのサイズだと叩き売るにしても扱える商人が限られてしまいます。
割って中央の複数の宝石商に売って誰が売ったのかわからないようにしてしまいましょう。
はい。
今からここはエメラルドの産地。
でも有害鳥獣がたくさん出るから入場規制あり。どうです?
いい感じでしょ?
は、はあ……?
私は途中の説明を飛ばして結論だけ言いました。
とうとうゼスさんは会話について来られなくなったようです。
しかたない。
ちゃんと説明しましょうか。
つまりですね。
他の怪獣も倒せば宝石を落とすと思うんです。
かなりの高確率で。
あっ!
どうやらゼスさんにもわかっていただけたようです。
さあて、ゼスさん。
守備兵団を集めてください。
狩りを始めますよ。
私はにっこりと笑いました。
こうして私たちと巨大怪獣との血で地を洗う死闘の日々が始まりました。
そして気がついたときには引き返せなくなるとは、この時は思いもしなかったのです。