私は守備兵団の皆さんを呼び出しました。

……とは言ってもいきなり訓練を開始しても仕方ありません。
守備兵団がドラゴンを撃墜なのです。
なので戦勝記念パーティ&決起大会を開こうと思います。

ドラゴン

え?
ドラゴン撃墜したのお前やろが?!

ドラゴン

いいえ。
守備兵団がどう言い訳しようとも私が撃墜したと言ったら撃墜したのです。

 私は彼らに栄誉をなすりつける予定なのです!
 あと責任も。(こっちが本命)

 権力ステキ!!!

というわけで広場です。
広場では煙が上がってました。
火事ではありません。

シルヴィア

おっにく♪ お肉♪

肉の焼ける香ばしい臭いが広がりました。
みなさんお肉にがっついていきます。
久しぶりのタンパク源ですからねえ。
しかもタダ飯です。
タダ飯って美味しいですよねー。

急がなくても大丈夫ですよー。
まだまだ大量にありますからね。

ドラゴンのお肉は。

結局あれからもドラゴンの体からはいくつものエメラルドが見つかりました。
大量のエメラルドを手に入れた我々は、まずは証拠を隠滅することにしたのです。
この情報が外に漏れるとドラゴン狩りとかをしに来て、アッサリのたれ死にするバカどもが続出してしまいますので。

まずはウロコとか骨は加工用に確保っと。
ドラゴンアーマーとかドラゴンシールドとか。
問題はお肉です。
でも問題はすぐに解決します。
ほら、要するにドラゴンって野生肉《ジビエ》じゃないですか?

魔王ちゃん

食べちゃえばいいのですよ。
食べちゃえば。

ということで皆さんにお配りすることにしましたー!

おそらく食べきれないので、余った部分は保存用の干し肉にして領民の皆さんに配ろうと思います。

うけけ。

若い兵士

アレックス様。これなんの肉ですか? やたら上手いんですけど

守備兵団の若い隊員が私に聞きました。

うにゃり。
私はほくそ笑みます。

農民

ドラゴンですよ♪
脂のってて美味しいですよねえ。

若い兵士

げふッ!!!

そう言うと兵士の人がドラゴン肉を吐き出しました。

魔王ちゃん

あー勿体ない。
なにしてるんですか。

若い兵士

な、な、なんつうものを食わせやがるんですか!!!

魔王ちゃん

だって勿体ないですよー。
すっごく栄養豊富なんですから!

若い兵士

そういう問題じゃねえ!!!

魔王ちゃん

子どもの頃オカンにも言われたでしょ!
出されたもんにケチつけるなって!

若い兵士

食えるもんと食えないもんの区別くらいしやがってください!!!

魔王ちゃん

食ーえーまーすー!!!
味と栄養価は保証します!
ちゃんと分析したんですから!!!

若い兵士

だから問題はそこじゃねえ!!!

醜い内容の言い争いをしている私たち。
そしてそれは突然起こりました。

若い兵士さんが突如として光に包まれました。
同時に

電子音っぽい音もしました。
なんかバカにされた気分です。(被害妄想)

なにがあった?!

魔王ちゃん

え? っちょ! 今のなんですか?

若い兵士

俺にもわかりません!!!

なんだか嫌な予感がしました。
よく見ると若い兵士さんの体が数秒前よりガタイがよくなっているような……
僧帽筋とかモリモリになっています。

若い兵士

っちょ!
うわああああああああああ!

魔王ちゃん

はい?

ブチブチブチ!

兵士さんの皮鎧が弾け飛びました。
服の下からはビルドアップされた肉体が出現しました。

魔王ちゃん

えええええええええ!

シルヴィア

潜在能力の解放だな。
こやつは肉体の悪魔だったということだな。

ドラゴン肉を両手に持ったシルヴィアが人ごとのように言いやがりました。
つか音もなく移動して背後をとるな!
怖いでしょが!!!

魔王ちゃん

どういう意味?
つーか文学的に言っても誰にも伝わりませんからね!!!

私は一応聞きました。
なんか嫌な予感がします。

シルヴィア

簡単に言うとだな、『潜在能力、憧れの人間越え』。

なんとなく意味わかったけど理解したくありません。
その表現。

魔王ちゃん

酷え表現……なんでそんなことが……あ! ……召喚魔法のせい……?

シルヴィア

いいや。
お前だったら食べさせていいものかどうかは魔法で分析すればわかるだろ?

魔王ちゃん

まあそうですけど……

シルヴィア

と、いうことは考えられるのは別の原因だろう。
この世界に起因することかもな。
少なくとも毒ではないな。

魔王ちゃん

なるほど、ん?

今度は別の疑問が湧きます。

魔王ちゃん

……なんで貴女や私には効果がないので?

シルヴィア

まだ普通の人間のつもりだったのか……

シルヴィアが心底呆れたという声を出しました。
え? っちょ!

魔王ちゃん

……私に何をしやがったんですか?!
ねえ、っちょっと!

シルヴィア

くくく……訓練の中で全身の秘孔という秘孔を打ち抜いて全てのチャクラを解放してくれたわ!!!
ぬわーはっはっは!!!

魔王ちゃん

ぬおおおお!
なんつーことをしてくれやがったんですか!!!

私はシルヴィアの頬を両手で引っ張りました。
シルヴィアは両手に持ったドラゴン肉を私の顔にグリグリと押しつけてきます。

シルヴィア

しみょにょい!
おひゃもひょあもおもひょいのにゃー!!!

(知ってるぞ! お前も我を魔力増強剤の人体実験にしたのだ!!!)

魔王ちゃん

にゃ、にゃほほれほ(な、なぜそれを?!)

バレてた!!!

面白半分で最強の魔法使いを作ろうと思った私。
普通だったら三回くらい死んでる量の劇薬を希釈して少しずつ飲ませたのです。
なんとバレてるー!!!
しかたなく、私はシルヴィアを解放しました。
するとシルヴィアは勝ち誇ったツラで言いました。

シルヴィア

くくく。
なあに我も面白半分で最強の剣士を作ったわけだ。
どうだ?
今回は痛み分けということで?

魔王ちゃん

くッ!
この外道が!!!

私は自分のやったことを完全に棚に上げて心の中だけで抗議します。

シルヴィア

アレックス。
ところで……だ。ここには約300人の実験どうぶ……
被験者……
大事な部下がいる。
面白半分に最強の軍隊を作ってみたいとは思わぬか?

魔王ちゃん

今、すんげえクズ発言が出たようですが?

シルヴィア

くくく。
我々は領民とエメラルドを守らなくてはならない。
……あとはわかるな?

魔王ちゃん

ぬはははは!
お代官様も悪でございますのう!

シルヴィア

にゃはははは!
越後屋ぁッ!
そちも悪よのう!

二人とも代官よりもうちょっと偉いような気がしますがここはお約束です。
細かいことは気にしないでいいのです。
そして私はにっこり笑うと、守備兵団の皆さんの方を向きました。

魔王ちゃん

皆さーん!
訓練のプランが固まりましたー♪

このあと全員に無理矢理ドラゴン肉食べさせましたとさ。

 数日後

魔王ちゃん

さて、皆さんにはオン・ザ・ジョブ・トレーニングで最強兵団という坂をマッハで落下してもらいます。
胃薬の用意はいいですか?

まるでブラック企業の新人研修のようなことを私は言いました。
守備兵団の若い団員たちがザワザワと騒いでいます。
私は空気など読まずに言います。

魔王ちゃん

皆さんには、これから突撃してもらいます。

若い兵士

と、突撃?
どこに?

兵士A

どういうことだ?

ザワザワが大きくなります。

魔王ちゃん

ここから、10キロ先に巨大怪獣を見つけました。
エンジョイファイティング♪

私は笑顔で言い放ちました。
試しに魔法でサーチしてみたらいるわいるわ。
この街って巨大怪獣に囲まれてやんの!
今までよく全滅しなかったなあ。

若い兵士

っちょ! 死にますって!

兵士A

ふざけんな!

兵士B

やってられるか!

ブーイングがあちこちから聞こえてきました。

魔王ちゃん

いいんですか?

私は静かに、かつ全員に聞こえるように言いました。

若い兵士

なにがです?

魔王ちゃん

巨大怪獣はこの街へ真っ直ぐ向かってます。このままだとみんな死にますよ

巨大と言ってもこないだのドラゴンよりは小さいです。大きさを見る限り、まあなんとかなる程度の相手でしょう。
空も飛んでいないようですし、こないだのドラゴンよりは弱いはずです。

若い兵士

んな!!!
もうダメだー!!!

ところが、若い団員たちが未だに泣き言をほざいてます。
潜在能力を解放しても負け癖は直らないのです。
とりあえず殴って大人しくさせようかな。
と、考えたその時でした。

ゼス

この馬鹿者どもが!!!

 ゼスさんの怒鳴り声が聞こえました。

ゼス

貴様ら!
逃げたものはこのゼスがこの場で斬る!!!

若い兵士

で、でもだんちょう……

ゼス

アレックス様の命令だ!
それ以上の理由はいらん!!!

ゼスさんは完全に言い切りました。
意訳すると、

ゼス

組長が言うからには白でも黒なんじゃあ!

という意味です。
体育会系組織《ブラック企業》は楽でいいですねえ。
もちろんここで白だったら信用失いますので、諸刃の剣なんですけどね。

だもんで論破する原稿も用意してたんですけど……
 

魔王ちゃん

エメラルドの一割をみんなで分けちゃうぞー!

とか。

まあいいです。
私はキリッと真面目な顔になりました。

魔王ちゃん

ゼスさん。
念のために住民の避難してください。残りは馬止《まど》め並べてください。
住民の避難が完了したら討って出ます。

ゼス

御意!

こうして私と人間さんの共同ミッションが開始されたのです。

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