駅前にある小さくてとてつもなく古いアパートメント。
それが、私の今の家だ。


風呂や台所は共有だが、今は私のほかに住人はなく、どれも貸しきりで使っている。


設備はもちろん備え付けの冷蔵庫も自由に使い放題で、その中から冷凍していたご飯を取り出し、温める。


それを使っておにぎりを使ったところで、私は携帯のカメラアプリを取り出した。


そして買ってきた料理と、作ったばかりのおにぎりを携帯のカメラを使って撮っていく。


台所は薄暗いので写りは最悪だが、物が見えればそれでかまわないので撮影は手早く済ませた。


それから私はもう一度勇者LINKを開き、今し方撮った写真を次々アップしていく。

ナミナ

きたきたきた~

レン

おいしそう

ルース

ったく、いつまでまたせんだ

サキ

ごめん、色々お店回ってたから時間かかっちゃったの

テオ

わざわざごめんな

サキ

ううん、私もたまには豪勢な夕食にしたかったし

ルース

おっ、このチキンうまそうだな

レン

サキ、僕パスタも食べたいです

サキ

わかった、もう一回撮るからちょっと待って

言われるがまま、私はもう一度料理にカメラを向ける。


端から見れば料理をただ写真に撮って贈っているだけだが、これこそが私の携帯とつながった勇者達にとっての『食事』なのだ。

ナミナ

この部屋に押し込まれたときは腹立ったけど、つながったのがサキでホント良かったわよねぇ

ルース

こいつの周りは、うまい物ばっかりだしな

ジイジ

米うまい

テオ

俺は、出来合いの物よりサキの手料理のが好きだけど

レン

確かにサキのは美味しいです

ルース

野菜が少ないと、もっといいけど

サキ

しかたないでしょ。
最近お肉高いんだもん

ナミナ

倹約家よねぇ

にぎやかなやりとりを交わしながら、私は最後の写真を送信し終える。

テオ

ありがとう、全部届いたよ

それから少しして、今度は向こう側から写真が届く。


その写真には、ちゃぶ台を思わせる小さな食卓と、その上に並ぶ料理。


そして料理を取り囲む馴染みの顔が映っている。


さっそくおにぎりにかぶりついているジイジ。


それをみて笑っているナミナ。


どこか不機嫌そうなルース。


チキンに目を輝かせているレン。


そして指先だけ映っているのが、テオだ。


容姿も年齢も違う彼らは、私とは違いハズレではない『勇者達』


そんな彼らはとある事情で共同生活を強いられており、彼らに食や生活用品を調達したり、暇な時の話し相手になるのが私の役目だ。


役目といっても、強制されているわけではないけれど。

サキ

じゃあ、私もご飯にするね

ジイジ

おいしかった!!!!

ルース

食うのはええよ、じじい

レン

ああああああ、ジイジそれ僕のチキンです!

テオ

暴れるなおまえら!!

ナミナ

あ、サキ~、ビールないのビール?

サキ

あ、まだ残ってるかも

広い台所にいるのは私一人だけど、アプリさえそのままにしておけば、まるでそばに彼らがいるようなそんな錯覚に陥る。

サキ

ちょっとうるさすぎるくらいだけど……

サキ

でも、嫌いじゃないのよね

だからこそたぶん、誰に頼まれた訳でもないのに私は彼らの世話を焼いてしまうのだろう。


世話を焼く……と言い難い、少し不思議な関わり合い方だけど、彼らと過ごす賑やかな毎日を、私は楽しんでいた――。

pagetop