『失格だ』
『失格だ』
ことの発端は、1年ほど前にそう断言された時の事だ。
私はそもそも『地球』と呼ばれる惑星の、『日本』と呼ばれる国にすむしがないOLだった。
あの頃はまだ27で、恋人はいないが、日々も仕事もそれなりに充実し、そんな毎日が続くことを疑いもしなかった。
なのに、何の前触れもなく私は巻き込まれたのだ。
ある朝目が覚めたとき、私は自分の部屋にいなかった。
そこは酷く狭い、井戸の底のような場所で、わたしは一人ぽつんと立っていた。
失格だ
そして突然、頭上から降ってきたのがその言葉だ。
これは力なしだ、勇者にはなれない……
女神の失敗作か
つぎだ、次を呼ぼう
声のしたほうを仰ぎ見ると、井戸の底に立つ私を数人の男達が見下ろしていた。
とはいえその顔はよく見えず、それきり彼らと会うことはなかったので今なお彼らが誰かはわからない。
ただ、彼らが『召還士』という存在であることは、後々聞いた話で知った。
『召還士』
彼らは自国のため、そして世界のために『勇者』と呼ばれる救世主を別の世界から呼び出す者達のこと。
そして私は彼らによって、『エンダージア』と呼ばれる世界に呼ばれた『勇者候補』だった。
もちろん、あの井戸の底に呼ばれた当時はそんなことは知らないし、突然の事にとまどい恐怖した。
井戸から引き上げられ、そして自分のほかに召還された300名ほどの『勇者候補』達と共に、突然異世界に召還された経緯を聞いてようやく、自分の身に起きたことを理解した。
理解したが、もちろんすぐに受け入れられたわけではない。
だが受け入れるほか無かった。
召還されたが最後、運良く「帰還の儀式」の候補になければ元の世界には帰れないと言われたし、どうやら私には私を召還した人たちが望む『力』は無かったらしいのだ。
『力』を持たぬ物は『ハズレ』と呼ばれ、この地で自分の力で生きていくしかない。
そういう理不尽な場所に、私は呼び出されたのだ。
ただ唯一救いだったのは、私のような『ハズレ』が珍しくなかったことだろう。
その世界では召還は日常的に行われており、一月で約500名ほどの勇者候補がやってくる。
そしてそのほとんどは力を持たない『ハズレ』と呼ばれる人々で、その増えすぎた『ハズレ』はエンダージアではちょっとした問題になっていた。
ある日突然呼び出されて、『ハズレ』だったというだけで世界に放り出されてはたまった物ではない。
文句を言い暴動を起こす者も多かったし、ハズレ故に職を得られず死んでいく者達が多かったのだ。
それを重く見たエンダージアでは、ハズレ達をこの世界になじませ、この世界で生活していけるまで保護する施設を私が来る数年前に作っていた。
運良く、私はそこでこの世界のことを学び、そして生きていくための訓練を受けることができたのである。
学ぶことは多すぎたし正直とまどいばかりで楽しいと思えたことはない。
だが異世界から召還されたのは私一人ではなかったので、私たちはお互い励まし合いながらエンダージアのことを学び、そして生きるすべを学んだのだ。
それからしばらく、私はエンダージアの首都で暮らした。
その後紆余曲折あり、どうにかこうにか私はOLに戻ることもできた。
あのころはつらいことばかりだったけれど、今思えば自分は幸運な方だったのだとも思う。
けれど、一度崩れてしまった平穏はなかなか戻らない。
召還されたことも、『失格』だと言われたあのときのことも忘れたいのに、いつの間にか携帯に入り込んでいた5人の勇者達によって、私の日々はどこかいびつなままだった。