クラスに戻ると、隣の席のやつが話しかけてきた。

春日野爽子

高橋さんどこ行ってたの? 教頭先生が探してたよ。教頭室に来てほしいんだって

高橋流星

あ、その用事なら済んだ。いま教頭室から帰ってきたところ

春日野爽子

そうなの? いったいなにをやらかしたの?

高橋流星

別にやらかしてねーよ

春日野爽子

ホントに? こないだテストの時、ペンケースに公式書いてカンニングしてたから、呼び出されたのかと思った

高橋流星

よく見てるな・・。そのことは秘密にしておいてくれるよね?

春日野爽子

どうしようかなー

高橋流星

すいません、マジでお願いします

春日野爽子

あははっ、もうカンニングしちゃだめだよ。見つかったら高橋さん、また留年しちゃうからね

高橋流星

ははは・・

高橋流星

春日野爽子(かすがのさわこ)か・・。こいつはいいやつだな・・。
名前のとおり、春の野原みたいな爽やかさがある子だ。
留年生でぼっち気味のオレにも屈託なく話しかけてくれる。
まあ、『さん付け』なのは残念だけど。
ひょっとしておれのこと好きなのってくらい話しかけてくれるからな。
いや、ほんとに好きなのかもしれねーなー・・

春日野爽子

どうしたの、じーっと見て。何か怖い

高橋流星

いや、えーっとえっと、ちょっと聞きたいことがあって

春日野爽子

高橋流星

このクラスにさ、『アボ』っていうあだ名のやついる?

春日野爽子

え?

高橋流星

そういうあだ名の人を探してるんだ

春日野爽子

し、知らないよ。そんな人いないんじゃないのかな?

高橋流星

そうだよな、聞いたことないよな・・


そう、これが教頭先生に頼まれたミッションだ。

うちのクラスの3年1組にいる『アボ』という呼び名の人を探すこと。

なんでも昨日、教頭先生は、大事なデータの入ったUSBメモリを廊下に落としてしまったらしい。
USBには、公になったら死人が出るようなやばいデータが入ってるそうだ。
まあ、どんなデータかは怖いから聞かなかったけど・・。
たぶん、経理のごまかしとか、学校のお金関係のやばい何かだろう。
で、落としたことに気づいて、あわてて拾いに戻ったら、廊下の向こうから声が聞こえたそうだ。

『どうしたのアボちゃん』
『ちょっと落とし物拾った。というか、その呼び方はやめて』
『あ、ごめん、ついうっかり』
『もー』

そんな会話が聞こえた。
教頭先生もその場でUSBメモリを取り返せばよかったのだが、そういう冷静さがなかった。
危険なデータが人手に渡ったことで、教頭先生はパニックになり、あわてて逃げ出したそうだ。
もう人生終わりだと思って、飛び込む電車を探して駅をさまよったそうだ。

でも、一夜明けて冷静になる。
中身を見られる前に取り戻せばいいのだと。
中身が公にならなければ、何の問題もない。
もし見られてしまった場合でも、うまいこと取引して口止めをすればいい。

そこで拾い主を探そうと思った。

拾い主の手がかりは3つ。

(1)アボという呼び名
(2)声が女子だった
(3)そのとき廊下にいたのが、教室移動の最中の、3年1組だったということ。

3年1組に在籍する女子生徒『アボ』を探せ・・!

高橋流星

どれどれ、一応出席簿でも見てみるか・・

高橋流星

うーん、やっぱりアボっていう生徒はいないよな。似たような姓もないし・・

高橋流星

だいたいうちのクラスはア行の生徒がいなくて、出席番号一番が伊藤だもんな。~ボっぽい姓もないし、下の名前もそれっぽい生徒がいない

高橋流星

教頭先生もこの出席簿見て、自力で探すのあきらめたって言ってたからな・・

高橋流星

やっぱりアボっていうのはあだ名だな。
あだ名となったらやっぱりクラスの内側の人間じゃないと分からないよな~。
って言っても、おれは内側じゃなくて微妙に外側なんだけど。
留年生だから、友達いないからな、ブツブツ・・

春日野爽子

高橋さん何してるの? 怖い顔して出席簿にらんで

高橋流星

あ、うん。アボっぽい名前の人を探してるんだ

春日野爽子

なんでそんなことするの?

高橋流星

事情は話せないからごまかすしかないな

高橋流星

えーっと、その~。興味本位で。そういう呼び名の人がいるらしいって聞いたから、なんとなく

四ッ谷夏央

そんな人いねーから! くだんねー捜し物してんじゃねーよ

高橋流星

四ッ谷夏央(よつやなお)か。
春日野さんと仲いいんだよな。おれは春日野さんと仲良くしたいんだけど、いつもじゃましてくる。
おれこいつ苦手なんだ

四ッ谷夏央

よっぽど暇なんだな。出席簿で遊んでる暇あったら、勉強とかすれば? また留年すんじゃねーの?

高橋流星

ま、まあね。そだね。勉強でもするかー、はははは。
ところで四ッ谷さん、一応聞くけど、アボっぽいあだ名の人ってうちのクラスにいるかな?

四ッ谷夏央

しらねーよ、っていうか、いねーそんなの!

四ッ谷夏央

くだんねー捜し物してねーで、勉強しろ、勉強!

高橋流星

いてっ! 蹴られた!

高橋流星

いて! いて!

四ッ谷夏央

ほら、勉強勉強!

高橋流星

く、くそっ・・怖い奴だ


おれは留年のせいで友達がほとんどいないので、気軽に話を聞ける相手もいなかった。
それでもがんばってクラスの何人かに話を聞いてみた。
5人くらいに聞いたかもしれない。

しかし誰も『アボ』には心当たりがないということだった。


そして昼休み・・。

おれは経過報告のために教頭室に向かった。

キラキラネーム少年、教室で謎の人物を探す

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