大きくきたな……神様か何かになれって?

そんなところです。昔話はご存知ですね?

昔話? 桃太郎とか白雪姫とか?

 それですそれですと、サンザシは両親指をつきあげ、白い歯をきらりと光らせる。

今から昔話の世界にとんでもらいます。まずは、その世界であなたは推理をするのです。この物語は、はたして何なのか!

そんなのすぐに分かるんじゃないの? 桃が流れてきたら桃太郎で、竹が光ってたらかぐや姫だろ

そこは難易度をあげてますから大丈夫ですよ

難易度……桃が流れてくるのの難易度をあげたらどうなるんだ……

速すぎて見えない

まじかよ

 うそですよお、とサンザシが手を叩いて笑う。俺もだんだんと楽しくなってきていた。

 俺が納得できれば、目の前が楽しければいいと割り切ってしまえる。確かにその通りなのかもしれない。

見事物語を当てることができましたら、私がその世界のクリア条件を発表します。ご主人様は、そのクリア条件に向かって悪戦苦闘してください!

例えば鬼を倒すとか、そういうのが出てくるんだな

そうです! なお、ご主人様の立場は世界によって異なりますのでお楽しみに。あとはもうよく分からないんで、その場その場で柔軟に対応させていただきますね

ナビがよく分からないって言ったぞ、おい

さあ、あとは名前を決めるだけです!

おーい無視か、おーい

名前をどうぞ!

 おふざけもやめて、名前か、と俺は腕を組む。すぐに思いつくものではない。自分の名前。ゲームで主人公に名前をつけるようなものか。

候補無い?

候補? ご主人様は、出身地を覚えていますか?

日本

 言って、それは覚えているのかと認識する。

 日本の……どこかまでは思い出せないようだった。そういえばさっき、俺の部屋は思い出せていた。

 なんだこのちぐはぐな記憶は。

日本の男性の名前ですね。んー、好みや希望はありますか?

特にない、覚えやすければ

では、タカシなどどうでしょう。崇拝のスウ、一文字で崇!

いいよ、タカシね。ちなみに、なぜタカシ?

さっきまで見ていたドラマに出てきたキャラクターの名前です

俺が起きるまでドラマ見てたんですか

 なんだこのナビ、自由すぎる。

ではタカシ様、あの扉を開けてください。そこからあなたの旅がはじまります

 俺は立ち上がり、扉に手を伸ばした。ひやりと冷たいノブを回し、ゆっくりと押す。

 その先に広がっている風景を見て、うんとうなずき、とりあえず一旦扉を閉めた。

ねえ、学校だったんだけど。昔話じゃなかったのかよ

難易度が高いってそう言うことです。そして実はずっと、学生服着ていたって知っていましたか?

 えっ、と俺は自分の服を確認する。

 黒色のブレザーに、ネクタイ。本当だ、気がつかなかった。というか、よく考えると自分の容姿もわかっていない。

鏡ある? 自分の姿がよく分からない

 頭がきり、と痛む。そういえば、俺の記憶の中に、名前と同様ないものが存在した。

 俺の、姿。

 それもまた、記憶で消されているのだろうか。サンザシに問うと、そうですねーと適当な返事が返ってきた。

鏡、鏡ですね

 おいしょ、とサンザシが右手を広げ、上にたかだかとかざす。挙手をしているようだ。

 何が始まるのかと眺めていると、彼女の右手が白く光った。

 その光の中から、長四角の鏡の端が現れる。するするとその鏡はおりてきて、あっという間に俺の目の前に大きな姿見が現れた。

魔法だ

 すげえ、角があるだけのコスプレナビゲーターだと思っていたのに。

世界によっては、魔法が一般的なところもあります。タカシ様も、使えるときがやってきますよ

まじか、すげえ楽しみ

 ふ、とサンザシは、妙に大人びた笑みを浮かべた。俺が子どもっぽかったのかもしれない。ふんとサンザシから目をそらし、目の前の鏡に目をやった。

 紫がかった茶髪のティーンエイジャーが、そこにいた。

ちゃらいなー

 俺の反応が面白かったのか、サンザシはきゃらきゃらと笑っていた。今度は、子どもみたいだ。

 なんというか、かわいいい人だと思った。

 いや、角がついているから人という表現はあっていないのかもしれないが、いいや、それはまた今度きこう。

んじゃ、行きますか

 はいと答えたサンザシが手を軽く降ると、鏡はあっという間にどこかに消えた。すげえ、すげえ。

 深呼吸を三回したあと、再度扉を開けた。廊下の向こうにいた男子生徒と目が合う。こっち見てるこっち見てる。

ゲームスタートです。あ、ちなみに私は他の人には見えませんので、ご安心を

 今さらですよサンザシさん! とも思ったが、いい、問題ない。

 楽しんだもん勝ちだ。不安なんてどっかにいけ。

0 記憶がないまま君との再開(2)

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