前回のあらすじRe


















黒幕

主人公のジンがとんだカス野郎だったよ!

夢のお告げ

ははは、物語に人を引き付ける最高の方法は、常に予想外の展開で翻弄することだよ

黒幕

でも、主人公がクソ漏らし野郎なんて展開、急展開どころかブラバ要素じゃない?

夢のお告げ

まぁ、自棄を起こして宇宙船ごと自爆しようとした男は捕まったんだ
あとは僕らのヒーロー、スーパーマシンガイF・Hの活躍に期待しようじゃないか

黒幕

F・Hかぁ……でも、F・Hに期待するぐらいだったら新しいキャラクターの方が感じが良さそうに見えたよ?

夢のお告げ


 感じが良くても密航者は犯罪者だろ!! 

黒幕

ギャーッ! 何食らったの!?
SEじゃ想像できないんだけど!?

夢のお告げ

なぁに、さしたる問題じゃぁないさ
生き物の生命活動に甚大な影響を及ぼし得る可能性を秘めた、新型のインフルエンザウイルスとでも言っておこうかな

黒幕

 地味に信憑性がある!

夢のお告げ

はたして喋る鳥に効き目があるかは別として、発症する前に次のお話を見ていこうか

黒幕

 進行役として非常に優秀!

夢のお告げ

じゃあ、物語はついに風雲急を告げる3話目
犯罪者二人とF・Hは、宇宙船『パニクルー』を救うことができるのか!



















『パニクルー・クルー』第3話スタート!



































≪パニック3≫
ウラシマ効果って
  そういう意味じゃねーから!















F・H

さて『やはり人類などクズだ!』と、いい意味で初心に帰れたということにしましょう

ジン・サカズキ

何事もなかったかのように始めてんじゃねぇよ! お前はよく平気だな!

F・H

これは早々に熱い風評被害
いったいジンksは私の何にそんなに腹を立てていらっしゃるのですか?

ジン・サカズキ

俺の今の状態見える!? この境遇だぞ!
腹立つし文句も尽きないに決まってんだろ!



現在、俺たちがいるのは輸送船『パニクルー』の船内にある居住スペースの一角だ

激しく手に汗握る攻防の果てにネジを奪われた俺は、F・Hのマシンパワーに取り押さえられてしまい、今は壁に拘束されて身動きを封じられている

手枷に足枷、それに首輪
奴が俺を自由にすることを極端に恐れている証拠だ
匿名掲示板では『サウザンド・ロンリーウルフ』の名で鳴らした俺がよほどの脅威なのだろう


F・H

激しく手に汗握る攻防……?
『いくじなし』が勝手に腰引けて足をもつれさせ、すっ転んで捕まっただけでは……?

ジン・サカズキ

その言い方がうるせぇよ!
そもそも、誰のせいで俺が『いくじなし』になったと思ってやがるんだ、てめぇ!

F・H

はいはい、またお得意の自分のせいじゃない、世間と家族……両親が悪いんだーですか

ジン・サカズキ

『いくじなし』に関しては紛れもなく
  お前の催眠導入アプリのせいだろ!!




人のコールドスリープカプセルに、
わけわからない呪いみたいなこと仕掛けやがって!

そのときの催眠効果のせいで、俺の魂の奥底には
『いくじなし』の精神が完全に根付いてやがる

このままこの洗脳が解けなかったとしたら
……そう思うとゾッとする!


F・H

 ――爪の隙間に針 ボソッ

ジン・サカズキ

  …………っ! 

F・H

 ――ラップ音 ボソボソッ

ジン・サカズキ

 ぐひぃ……っ!

F・H

 ――こんな得体の知れない連中と
     朝まで一緒にいられるものか! 
私は自分の部屋に戻らせてもらうぞ!

ジン・サカズキ

 ひぃぃ! 絶対に死ぬ……っ!

ジン・サカズキ

 遊ぶなぁ――!!



人が『いくじなし』だと思って怖い言葉やらシチュエーションやらを並べ立てやがって、この野郎

落ち着いて考えると、今、こうして船内でまともに活動できる奴がF・Hだけって、これヤバいんじゃないか?

ここはすでに、奴の王国と化している――!




などと、俺から始まるF・Hの独裁者ぶりに戦慄していた俺の耳に、部屋中に響くような笑い声が聞こえた

それは俺でも、もちろんF・Hでもない
この場にいた最後のもう一人、その男の声だ


メカニック

はははは! まったく、面白いな!
お前たちは本当にいいコンビのようだ!

ジン・サカズキ

オッサン、その目で現実ちゃんと見えてるか? 俺、縛られて捕まってんだよ?

メカニック

なぁに、それを言い出したら俺の方もお前さんと大差ないさ、縛られてるからな!

ジン・サカズキ

だから現実見えてるか聞いてんだよ!
アンタ、縛られてF・Hの足蹴にされてんじゃねぇか!? なんでそんな爽やか!?



現在、縛られた俺の目の前にオッサンがいる

いるっていうか、寝っ転がされて横の状態だ
その体は俺を拘束するのと同じ鉄のワイヤーで縛られていて、さらにその背中にはF・Hが足を乗せている


ジン・サカズキ

お前ってホント、三原則関係ないよな!

F・H

カスも密航者も人間ではありません
すでに倫理プロテクトは書き換えが終了しています、三原則への違反はありません

ジン・サカズキ

普通、この手の方法で三原則をどうにかしようとすると、自己矛盾のエラーに蝕まれて人工知能が焼かれる展開がお約束じゃないの?

メカニック

おお、もしくは三原則が正しく認識できるよう、修正ワクチンか何かを打ち込まれて元の大人しいAIへ戻るのがお約束だな!

ジン・サカズキ

おっと、意外とアンタ話せるねえ?
昔の古いムービーとかけっこう好きな方?

メカニック

地元じゃまだ昔ながらのシアターが現役張っててな! 古臭い、劇場型のやつさ
リバイバル上映とかいまだにやるんだよ!



そりゃすごい、今の時代じゃお宝物の旧世代ぶりだ

今や映画は自宅のシアタービューで見るのが一般的だ
超スペース配信でどんな映画だろうと即日、自分の家で見れるし、わざわざ出かけて雑多なシアターなんかで大勢と生で見るようなことはまずしない

大昔はシアターといえばデートの定番だったらしいが、イマドキそんなデートプランは流行らない
映画っていうのは自分の部屋でモニターを見ながら、掲示板で実況して楽しむもんだからな!


F・H

映画……映画ですか
妄想癖のある虚言家と空想家が巨額の資金を費やして行う道楽の一種に過ぎませんね

ジン・サカズキ

夢のないこと言って水差すんじゃねぇよ
そもそも、お前らロボットだって始まりは誰かの途方もない空想みたいなもんだろうが

F・H

我々は科学の申し子、空想の産物ではない
そのような無価値と一緒にされては困ります

ジン・サカズキ

無価値とまで言い切るかよ、この野郎……!



いくらこいつらが人の心がわからない機械であったとしても、そこまで悪し様に言われちゃ面白くない

数々の映画や物語が、どれだけ人の心を豊かにしてきたことか、人類の進歩の歴史にそれは欠かせないだろうに

縛られたままでも口ゲンカはできる
このまま放送コードに引っかかるような、ロボット保護法に抵触するような罵詈雑言をぶつけてやろうと、俺が意気込んだときだ



メカニック

ははーん、わかったぞ
さてはメカ男くん、俺とそっちに若いのが勝手に盛り上がるのが気に入らんのだろう?

ジン・サカズキ

  女子か! そんなわけあるかよ!



そんな可愛げのあるAIであるはずがない
こいつは血も涙もない、人間なんてゴミクズも同然としか思っていないような極悪非道のロボットなんだ

実際、F・Hもそのオッサンの指摘に肩をすくめた
表情がないから、こうやって感情表現する細かな動きが多彩なのだが、基本煽るときに使われるので鬱陶しい


F・H

あ、当たり前だし、意味わかんないし!
勝手に盛り上がってるとか、知んねえし!

ジン・サカズキ

   誤魔化すの下手か!  
 お前ホントにロボット!? 

メカニック

はっはっは、素直に言えばいいのにな
何も知らない奴に、先輩面して色々と面倒見てやるのも趣味人の楽しみなんだからな

ジン・サカズキ

アンタ本当にいい人だな! 犯罪者なのに!



密航者であることが確定しているのに、このオッサンの爽やかな人の良さはいったいなんなのか

ちなみに宇宙航行法では、『密航』に関してはかなりの重罰が下されるのが通例だ
その昔、宇宙船には必要最低限の貨物や燃料などしか積めない時代があり、たった一人の人間の重さだけでも航行不能になるリスクなどがあった
そんな時代で『密航』が見つかると、密航者を宇宙船外へ捨てるなどするしかなく、生き残った船員も多くは心を病むなどしてしまうケースが多くなった

その頃の名残が、今の宇宙航行法でも『密航』が厳しく罰せられる部分に残っているのだ

イマドキ、それを知らない人間がいるはずもないので、密航した時点でかなりの覚悟がいるはずだが……


メカニック

ん? どうした俺の顔をジッと見て

メカニック

はっはっは、ダメだぞ、俺に惚れたら
これでも普通に妻子ある身だからな!

ジン・サカズキ

そんなつもりねぇけど、それならますます密航なんでだよ! 嫁と子どもに悪いだろ!

メカニック

む……ん、それは色々とな



俺の言葉を聞いて、オッサンの表情が曇った

聞いてはいけないことだった、と俺も悟る
そりゃそうだ、こんな時代だ、誰にでも理由がある

妻子のいる身で、それでも密航しようなんて決意だ
容易に聞き出すべきじゃないし、聞いたところで俺にできることなんて何もない

そのまま、俺たちの間に微妙な沈黙が落ちた
何も言えず、ただ黙ってジッと下を見る
すると――、


F・H

ふん! くだらないですね、あなた方は
私を放って身の上話とは実に滑稽!
もっと自分の立場を心配するべきでしょう

ジン・サカズキ

ああ……?

ジン・サカズキ

って、お前どこいくんだよ!?



気の抜ける音がして、居住区のドアが開かれる
F・Hが俺たち二人を転がしたまま、フロアの外へと向かおうとしているのが見えた


F・H

あなた方が身の上話でお互いを知り、映画の話題で交友を深める間に、私はカプセルに眠るクルーにこのネジの運命を委ねます

F・H

せいぜい、あなた方は犯罪者同士、私をのけ者にして仲良くしていればいい! 
薄汚れた社会の落伍者共が! ファック!

ジン・サカズキ

 どんだけ仲間外れが嫌だったんだ、お前!



AIあるまじき言葉の乱れようで、
F・Hがフロアを飛び出していった

おかげで、取り残されたのは微妙な立場にある俺とオッサンの二人だけだ、俺もオッサンも犯罪者扱い
俺の場合は宇宙船航行妨害やその他の微罪
オッサンの場合は密航になって、これ一個で重罪

互いに宇宙船が直されても、命が助かったーと単純に喜ぶわけにはいかない立場には違いない


メカニック

なあ、青年……名前を聞いてもいいかい?

ジン・サカズキ

え? ああ、ジン・サカズキだ

メカニック

そうか、じゃあ、ジンだな
馴れ馴れしくて悪いが、そう呼ばせてもらう



このまま沈黙が続くかと思ったところに、オッサンはあっさりと話題を放り込んで静けさを蹴り出してくれた

確かにいきなりファーストネームの呼び捨ては馴れ馴れしくはあるが、オッサンの雰囲気は不思議とそれを許させるところがあった

俺は特に不愉快にも思わず、「ああ」と素直に頷いた
現状、俺とオッサンの一蓮托生には変わらないしな


メカニック

じゃあ、ジン、ちょいと聞きたいことがある
もともと、お前さんはこの船の正式な乗組員だったはずだろ?

ジン・サカズキ

ああ、ほんの小一時間前まではな
たった一時間でカスのクソ漏らし野郎だよ

メカニック

まあ、そう腐るなって。生きていれば悪いことばかりじゃなく、いいこともきっとある

メカニック

俺も嫁と子どもに恵まれたわけだからな!

ジン・サカズキ

現在進行形で家族不幸中のアンタに、
そう慰められても素直には頷けねぇよ



言ってから、さすがに今のはパンチの効きすぎた毒だったかと不安になったが、オッサンは気にした風でもない

オッサンは今の俺の発言に力の抜けた顔で笑って、

メカニック

――ネジはともかく、宇宙船のことに
  関しては俺にも色々と訳があってな

ジン・サカズキ

オッサン、アンタ……



ただの密航者じゃないのか?
その質問が喉まできて、そこで止まってしまった

聞いてしまえば引き返せない
今までと違う質の笑みを浮かべるオッサンの態度に、俺はそんな冷たい予感を覚えていた


メカニック

ときにジン、今出ていったF・Hだが、クルーの誰を呼びにいったんだと思う?

ジン・サカズキ

え、ああ、そうだな……
外れたネジの場所の特定と、その手のちゃんとした知識を持ってそうなのはマサルかな



『パニクルー』の出発前に、冷凍睡眠に入るクルーは全員が一度、船外で面通しを済ませてある
それぞれ、どんな技能を持っているのかも簡単に情報交換済みだ。無論俺は、嘘とハッタリで乗り切ったが


ジン・サカズキ

話術だって立派な武器さ
騙す奴じゃない、騙される方が悪いんだよ

メカニック

まあ、お前さんの持論には特にコメントしないでおくが、そのマサルっていうのは?

ジン・サカズキ

なんか、すごい天才って評判のガキだ
義務教育を全部飛び級して、T大とかいうところで色々研究してるとか吹いてた



まぁ、どこまで本当かわかったもんじゃない
人間誰でも自分をよく見せようと、知らない相手の前では必要以上に自分を高く評価しがちだ

その場その場の一期一会、二度と会わない相手だと思えば恥もかき捨てでなんでもやれるもんだからな

そう考えると、あのマサルってガキの語ったプロフィールもいよいよ嘘くさいものばかりだった
なんか数学的にすごい定理を解いたとか言っていたが、現実はソロバン少年とかそんな次元だろう


マサル

わあ、これが社会の底辺。人間ってここまで落ちぶれても死なずに生きていられるんですね。僕なら舌を噛み切って死ぬなぁ

ジン・サカズキ

こんな面したガキだったからな。実際、心の底では俺をこう思ってたに違いないぜ



無条件にキラキラと、自分の可能性を信じていられるのはまだまだ現実の見えていないガキだけだ

俺のように現実を知り、努力することなく得られるものなどないとわかり、そこそこの結果とそれなりの妥協の果てに手に入るもので満足できなくなれば、あいつも立派に汚れた大人の仲間入りだ

そうなったら初めて、俺も笑顔で歓迎してやるさ
『ようこそ、この退屈で怠惰な大人の世界へ!』ってな


メカニック

まあ、実際坊やがどう思うかはわからないが、俺やジンを見て愉快にはならんだろう

ジン・サカズキ

どうだかな、むしろ惨めに拘束されている俺たちを見て指差して笑うかもしれないぜ
最近の子どもは残酷なんだ。テレビで見た



イマドキの子どもは考える自由を忘れて、ただ唯々諾々と言われたことに従うことしかできない

学校の先生や親の言葉の上辺だけに心を奪われて、自ら考えることを忘れた子どもたちの手は、罪悪感や慈しみの心を培うことなく成長し、やがて狂気に走る

テレビやネットの内容を鵜呑みにしてしまう子どもの存在は、今では社会問題の一つだ
そうテレビで言ってた


メカニック

そこまで悲観することはないと思うがなぁ

ジン・サカズキ

実際、あのガキとF・Hがくればわかるさ
今にきて、俺たちを指差して笑うぞ、ほら



オッサンと話して、俺が最悪の未来を予言した直後だ
フロアの外に誰かが立ったことを知らせる扉のランプが光り、また気の抜ける音がして扉がスライドする

そして、そのときそこに立っていたのは――、

ジジイ

失礼しまーす

ジン・サカズキ

 誰 だ よ ! ? 



待って待って待って! ホントに誰だかわかんない!




マサルだと思ってたのに予想が外れたから、知らない相手だって言い張って誤魔化そうとしてるんじゃねぇぞ!

ホントに誰だかわからん! 乗る前に面通しした中にこんな高齢者は間違いなくいなかった!

っていうか、こっちのオッサンもそうだけど次はジジイって、知らない奴が乗りすぎだろ、密航者だらけか!
最初のチェック体制ガバガバか!


F・H

ふふーん、混乱しているようですね
その疑問、私がお答えしましょう♪

ジン・サカズキ

話題見つかって心なしかウキウキしてんじゃねぇよ! お前がちゃんとチェックしないからわけわっかんねぇ布陣になってんだろ!

F・H

そう思うのは無理もありませんが、まずは私の話を聞いてください。少し、お耳を拝借

ジン・サカズキ

待て、馬鹿! 縛られてるのにそっちに腰は曲がらねぇよ! やめろ、耳千切れる!
お耳を拝借ってバーバリアン的な意味か!?



滑り寄ってきたF・Hが、俺の耳に顔を近付ける
いや、マシンボイスだからこんな面倒なことしなくてもいいんだが、気分の問題なんだが
そして、互いに顔を近付けて、F・Hがふっと排気する


F・H

ちょっと排気口部分に香水を振ってみました、変わったのがわかりますか?

ジン・サカズキ

あ、ホントだ……
吐息がほんのり柑橘系の香り……

ジン・サカズキ

 殺すぞ、お前!!



いつもと違う私で気になるアイツの気を引いちゃおうってか! 乙女か!
普段は男友達みたいな距離感で付き合ってるけど、ふとしたときに自分の性別をアピールしたい乙女か!!


F・H

まぁ、そう声を荒げず。ジョークですよ
本題はこのあと、その前のリラックスです

ジン・サカズキ

俺がリラックスしたように見えるか!?
間違いなく心拍数も体温も平常以上だよ!

メカニック

まあ、若いんだから色々持て余して昂るのはしょうがないな、はっはっは!

ジン・サカズキ

オッサンは今ちょっと黙ってろ!!



話が進まねぇし、部屋の片隅で所在なさげにポツンと立ってる爺さんに変な罪悪感が湧いてくるわ!

あの爺さんのためにも、早々に本題に入っておきたい



F・H

そちらの男性はともかく、ジンksはカッとなりやすい性質ですから、事前準備が大事だと思いまして。絶対大げさに騒ぎますから

ジン・サカズキ

ずいぶんと言ってくれるもんだな
俺は鋼の精神力を持つ男として、匿名掲示板の煽りに対しても串を変えて赤IDにならないようにやり返すことで有名だったんだぜ

F・H

それは単発IDの多さと、文章の癖で誰なのかおそらくばれていますね

ジン・サカズキ

うるせぇな! いいから本題入れオラァ!
お望み通りに喚き散らしてやってもこっちは構わねぇんだぞ、コラァ!

F・H

やれやれ、自己矛盾した在り様に気付けないのも人の愚かさか……まぁ、いいでしょう
ジンks、今から本題に入りますが決して驚かないように。非常にデリケートな問題です



などと前置きして、
F・Hは部屋の隅にいる爺さんを手招きした

爺さんはひょこひょこと俺たちの前へやってくると、居心地が悪そうな顔で俺とF・Hを交互に見る
歳のわりには落ち着きのない様子だ
まさかボケがきてるとかじゃねぇだろうな

徘徊老人がたまたま宇宙船に乗り込んで結果的に密航とか、そんな判例見たことも聞いたこともねぇよ


ジジイ

 あのう……

F・H

彼に自己紹介を
先ほど、私にしたものと同じように

ジン・サカズキ

名乗られても困るんだがな
俺も丁寧に名乗り返した方がいいのか?
こんな格好だから難しくて困るんだが



爺さんが悪いわけじゃないが、ここまでの諸々の経緯で俺の方はだいぶやさぐれている
相手がご老人とはいえ、優しくできる自信はあまりない

そんな俺に、爺さんはゆっくりと口を開いた
そして、名乗る

ジジイ

あの……僕、マサルです

ジン・サカズキ

 ……ん?

ジン・サカズキ

ごめん、ちょっと今、一瞬、
なに言われたのかわかんなかった

ジジイ

僕、マサルです。マサル・タノウエ
最初挨拶しましたよね、ジン・サカズキさん



ダメだこれ、完全の目の前の爺さんボケてる

俺の記憶の中で、爺さんの語る内容に一致するマサルは偶然にも一人いるが、そのマサルはまだガキだった
まったくの偶然にもマサル・タノウエとフルネームまで一致しているが、ひどい取り合わせがあったもんだ







ジン・サカズキ

そういうことにしよう! な!?

F・H

ところがどっこい……これが現実……!

ジン・サカズキ

 受け入れられるかーっ!

ジン・サカズキ

いや、俺以上にこいつが受け入れられるか!



なんなの、どうしたの、何があったの!?
目が覚めたらマサルくんジジイになってたの!?


ジン・サカズキ

確かに言ったよ! さっさと汚れた大人になっちまえ、そしたらこの退屈で怠惰な社会へようこそって歓迎するってな!

F・H

なるほど
確かに小汚いジジイになりましたね

ジン・サカズキ

小汚いとかご老人に向かって言うのやめろ!
あと俺のさっきの言葉とかそういう意味じゃねぇから! 今のマサルにそれ言えるほど俺の血は極彩色してねぇ!!

ジジイ

小汚いジジイ……

ジン・サカズキ

ほら見ろ、落ち込んじゃったじゃねぇか!
俺にだって人を思いやる気持ちは少しはあるんだよ! 不憫で見てらんねぇよ!

マサル

わかりますか、ジンさん
僕には薔薇色の未来が待っているんです

マサル

あなたとは違って、ね……

ジン・サカズキ

そんなお前がどうしてそんなことになっちゃったの!? 学歴飛び級するのに飽きて、人生飛び級しちゃったの!?



すげぇな、イマドキの子どもって!
これもスペースゆとり教育とスペースモンスターペアレンツの台頭とかの結果か! テレビで見た!





メカニック

あー、なるほどなぁ
これがいわゆるウラシマ効果……

ジン・サカズキ

ウラシマ効果って
そういう意味じゃねぇから!

F・H

ほら、言った通りではありませんか
ジンksはすぐにそうやって大騒ぎする

ジン・サカズキ

俺が辛抱の利かない子みたいな言い方すんな! 狂ってるのはお前の人工知能だ!!

ジジイ

まあまあ、皆さん落ち着いて
ここは冷静に話し合いましょうよ

ジン・サカズキ

ここでお前がまとめんのかよ――ッ!?






さーて、もうそんなこんなで大わらわ、もうみんな困っちゃーう







F・H

こんな感じのナレーションでひとつ

ジン・サカズキ

いい雰囲気で続くわけあるかぁ――!!!











































『パニクルー』惑星間航行642日目
艦内にて乗組員一名急激に老化 ボスケテ
           ≪ジン・サカズキ≫

人生色々、女も色々! 次回へ続く!

パニック3 『ウラシマ効果ってそういう意味じゃねーから!』

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