数日後、闘技場。
今度は中に通される。
待ち伏せして入った瞬間に攻撃というのはないらしい。
ずいぶんと待遇がいい。
それとも剣闘士なんて楽に倒せるという意味だろうか?
少しむっとしたぞ。
でも……なんか俺の方が間違ってるかも。
まあいいや。
俺がどうでもいいことを考えていると、司会者がアナウンスを開始する。

アナウンサー

みなさん!
とうとう我らが嫌われ者、黒騎士最後の日がやって来ました!!!
ライオン像の前にいるのは領主軍のエース。
最強の騎士、赤騎士いぃッ!!!


大きな歓声が上がる。
大きな盾を持った赤騎士が手を振りながら一歩前に出た。

アナウンサー

もう一人、ドラゴン像の前にいるのは、この闘技場最悪の嫌われ者。
チンピラの如き美しくない戦いとセコイ立ち回り、今日こそ断罪されるのか?!
黒騎士いぃッ!!!


ブーイングと罵声が俺に浴びせられる。
あまりの理不尽にムカついた俺は両手の中指を突き出しながら抗議する。

あとで動画配信されたときにはモザイクがかかっていることだろう。
ざまあみろ!!!
放送事故起こしてやる!!!

ついでに首切りポーズと。
もうヤケだ。

俺が調子に乗って踊っているとボイスチャットの要請が来ていた。
誰だ?
俺は回線を開き通話する。

アゼル

ずいぶんな嫌われようだな。黒騎士殿

赤騎士が話しかけてきやがった。

タカムラ

ああ。
なんか知らんが嫌われてるみたいだな。

放送事故の件で恨まれまくってるのは知っているが、ここはとぼけておこう。

アゼル

黒騎士殿は嘘つきであられるようだ

タカムラ

ああっ?


チンピラみたいな態度で俺は聞いた。
あー……いつの間にか態度までチンピラちっくに……

アゼル

貴公の技、ごろつきの喧嘩殺法にしては体系立ちすぎている。
おそらく我々の知らない武術だろう


うわ、当たり。
この世界でもわかるヤツいるのか……
とりあえず誤魔化そう。

タカムラ

俺は自分から喧嘩殺法と言ったことはない

アゼル

でしょうな。
では闘(や)りましょうか

アゼル

ああ。かかってこい


内心ドキドキしながら俺は片方の剣を抜いた。
同時に赤騎士も剣を抜く。
この間の斧野郎よりも上位の装備だ。
超震動刃、ソニックブレイド。
官製だけあって金がかかっている。
普通の剣なら剣ごと真っ二つにされるほどの威力だ。
そして俺はもう一本の剣を抜く。
司会が驚きの声を漏らした。

アナウンサー

な、なんと!
黒騎士の短剣はビームブレイドです!!!


なんでサイガと俺が金を貯めていたのか?
装備を買うためだ。
ビームブレイド。
超高級品にして恐ろしく評判の悪い武器だ。

軽すぎるし刃に質量がないから重心もおかしい。
どうにも刃を意識するのが難しい。
その他物理的な刃物にはない弱点が多い。
だから人気がなく誰も使いたがらない。
だが切れ味は最高だ。

俺は短剣の二刀流で挑む。
逆手、アイスピックグリップで短剣を持つ。
体を少し斜め、半身にし短剣を持った両手を胸の前に置く。
いつもより真面目に構える。

アナウンサー

黒騎士がまともに……構えた……だと……
今日の黒騎士はおかしいです。

タカムラ

うるせえ!!!
俺が構えただけでそれかよ!!!
クッソ~!
全員後で泣かせてやる!

アゼル

行くぞ!

アゼル

行くぜ!


それは同時だった。
横なぎの長剣が俺の胴に向かう。
俺は無理矢理、身を屈めて剣の下に潜り込む。
そして、そのまま身を低くしたまま、足を斬りつける。

タカムラ

でりゃああああッ!


だが俺の剣は空を斬った。
赤騎士は一歩だけステップバックしてやがったのだ。
俺は瞬時に身の危険を感じ横に転がる。
俺のいた場所に長剣が振り下ろされる。

タカムラ

ぬおッ!!!


俺は転がった勢いを使って立ち上がる。
そのまま後ろへ飛ぶ。
思ったより相手が速い。
距離を取って、飛び蹴りとかで意表を突こう。

アゼル

かかったな!

アースシェイカー!!!


その声が聞こえた時、俺は横に飛んでいた。
空中で俺の体をなにかが掠めた。

タカムラ

痛えええええええ!!!


フィードバックで痛みが走る。
受け身こそ取ったが地面に激突し、更に痛みが走る。
地に這いつくばった俺が見たもの。
それは片手から射出されたもの。
杭が赤騎士の手から伸びていた。

タカムラ

くい打ち機(パイルバンカー)か!!!

クソ!
うすうす気づいてはいたけど相手は俺を侮ってなんかいない。
あの野郎……俺を研究して倒す方法を考えてきやがった!
だが俺は負けねえ!!!
俺はてめえを倒して自由を手に入れる!!!
俺はこんなところで死ねねえんだよ!!!
俺は全身を支配する痛みを食いしばり、相手に向かって飛びかかる。

タカムラ

オラァッ!!!

アゼル

愚かな!!!


飛んできた俺をホームラン。
よくわかるぜ。

だから俺は空中で震動刃の短剣を投げた。

アゼル

小細工は効かぬ!


赤騎士はそれを体をひねるだけで避けた。
それでいい。
俺は自分の間合いに侵入できたのだ。
そして大急ぎで足から三本目の短剣を抜いた。
いつもの切れ味の悪い短剣だ。
俺が剣を抜く間に、赤騎士は自分の剣を頭の上で振りかぶり縦切りに変化させる。
俺は半歩だけ斜めに進み間合いを盗んだ。
狙いは相手の手だ。
俺は逆手に持った短剣で下から相手の手首を斬りつける。
同時に、赤騎士の首目がけてビームブレード振るう。

アゼル

甘いわ!!!


がつんと剣の柄が顔面にぶち当たった。
カウンターで喰らっちまった!
フィードバックでくらっとする。
脳震盪を起こしたのかもしれない。

だが俺は猛獣のように突撃する。
まだだ。
まだ俺は闘える。
俺の背中には仲間の命がかかっているんだ。

タカムラ

うらあああああああああッ!

アゼル

来い!!!


俺は獣のような咆吼を挙げた。
手首を切ったときは手応えがあった。
相手も手負いのはずだ。
まだ圧倒的に不利ではないはずだ!

俺は両手に持った短剣で襲いかかる。
右左右、左右左とラッシュを浴びせる。
途中で変則的に蹴りや肘打ちを混ぜて、動きを予測させないようにしていく。
超高速の連続技が赤騎士を斬りつけていく。
速さに関しては俺の方が上だ。
赤騎士は両手、それに剣を使いそれを凌ごうとするが、間に合わない。

アナウンサー

黒騎士!!!
凄まじいラッシュです!!!
なぜ普段からこうしなかった!!!

隙を見て手首に切りつける。
少しずつだ。
すこしずつ動けなくすればいい。
気がつくとビームブレードが斬った焦げ臭いニオイが立ちこめていた。

まだだ!

もっと速く!!!
もっと凶暴に!!!

俺は更にスピードを上げていく。
だがそこまでだった。

目の前が真っ暗になった。
拳がめり込んでいた。
殴られたのだ。

アナウンサー

おおっと!!!
赤騎士が殴った!
まるで黒騎士のような闘い方です!
どうした赤騎士!?

アゼル

うおおおおおおッ!


赤騎士が咆吼し、額の上で剣を構える。
そう。
俺の予想通り、赤騎士もまた満身創痍だった。
この一撃に賭ける気だろう。
俺はフラフラとしていた。
完全に脱力をしてた。
赤騎士は剣を振り下ろす。
その時だった。
ビームブレイドで斬りつけた腕が異音を上げながらひしゃげる。

ああ、こういうときは……

吉田

タカムラ。脇差しで鎧武者を倒す方法を知ってるか?


吉田の声が聞こえたような気がした。
俺は、一歩前に出た。
そのまま体を、足を転換させる。

そのとき俺のいた場所に赤騎士が渾身の縦切りを振り下ろしていた。
片腕がちぎれ、痛々しい姿をさらしていた。

いつの間にか俺は赤騎士の横に回り込んでいた。
いつも使っている斬れない方の短剣はどこかになくなっていた。

しかたないなと思った俺は、ごく自然な動きで体勢の崩れた赤騎士の首を掴んだ。
そのまま引きずり回す。

そして俺はしゃがみ、赤騎士の頭を前に出したヒザへぶつけた。

赤騎士の頭ががバウンドする。
脳震盪を起こしたのか抵抗はなかった。

そして俺は持っていたビームブレードを赤騎士の首に刺した。

アナウンサー

な、な、な……今の一瞬の間に何があったのでしょう?
黒騎士が赤騎士の首に剣を突き刺しました……

タカムラ

ぜえ、ぜえ、ぜえ……


俺は肩で息をしていた。

アナウンサー

と、とにかく黒騎士の勝利です!!!
純粋な剣技ではありませんが……
いえ今回のは凄かった……認めましょう!!!
新チャンピオンの誕生です!!!


歓声が上がった。
現金な野郎どもだぜ。

アナウンサー

新チャンピオンには領主山岸様より、お言葉が賜われます。

司会がそう言うと、貴賓席の男が闘技場のスクリーンに映し出される。
懐かしい顔だ。
同じ年とは思えないヤクザ顔。
品性のない嫌らしいツラがスクリーンにドアップになる。
俺たちを奴隷として売ったクソ野郎の一人。
これがセクション47の領主、山岸だ。

山岸

よくやった黒騎士、いやタカムラよ!
貴様の望みを叶えてやろう!!!
貴族の地位も騎士団への入団も許してやる!
俺の下につけ。
俺と一緒に菊池の野郎を殺しに行こうぜ!!!

復讐の時が来た。
サイガとの約束を果たすときもだ。

タカムラ

俺の望みは……

お前との決闘だ!!!

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