金貸しが彼女を殴った。
瞬間、ぷつりと胸の奥で糸が切れた。
奴を許せない。報いを受けさせてやりたい。
もしも、許されるのであれば、殺してしまいたい。
そう『願った』とき、あいつは現れた。
どこか嫌味な笑みを浮かべて、まるで俺を値踏みするように見ながら、あいつは言った。
『その願い、叶えて欲しいかい?』
俺は頷く。どうして子供の戯言を、俺が間に受けたのかは今でも分からない。
ただ、あいつは、見た目こそ幼い子供だったが、何か信じるに値する奇妙な雰囲気を持っていた。
『君はその願いのために何かを支払う覚悟はあるかい?』
俺は頷く。
彼女の為ならば何も惜しくはない。彼女の笑顔をもう一度見るためならば、彼女を泣かせる奴らを消せるのならば、何を失っても構わない。はっきりと言い切る自信があった。
『君に赦しを与えよう。何をしても咎められない、赦しをだ。これから君は何を盗もうと、何を壊そうと……誰かを殺そうと、決して罪には問われない。裁かれる事もない』
ただし、とあいつは続ける。
『対価は支払って貰う。それは君の存在だ。君はこれから何をしても赦される代わりに、誰からも認識されなくなる。まるで透明な人間であるかのように、道端に転がる石ころのように、誰からも気に留められず、忘れられていく』
にやりと笑ってあいつは再度尋ねた。
『それでも、君は願いを欲するか?』
俺は頷いた。
俺がどうなろうと構わない。彼女を守れるのであれば。
その答えを聞いたあいつは、より一層楽しげに笑い、小指を差し出した。
『契約しよう。ゆびきりしたら成立だ。その時から、君は特別な人間だ』
小指を差し出し、俺は『かみさま』と契約を結んだ。