俺の名前はビリー。元日本人のオークだ。
前世の記憶は五歳の時に思い出した。
トラックに轢かれて死んだと思ったらオークになってたんだ。
そりゃあうろたえたね。だってオークだよ、オーク。醜い豚のような顔にでっぶり太ったお腹。五歳にしてメタボ体型だ。
絶望したね。しばらくはご飯もろくに喉を通らなかった。
幸いにしてオーク達はそこそこ文化的な生活を営んでいた。食料は豊富だし、とても平和だった。五歳までの記憶もあって、言葉にも困らなかった。そしてのんびりと暮らしているオーク達をみて、次第に落ち着きを取り戻した俺は、ここで暮らしていく覚悟を決めた。これは夢じゃない、100%現実であると。
そうなってくると気になるのはこのメタボ体型だ。顔はまあいい。日本にいた時も酷い面相だった。俺の顔を見て子供が泣いて逃げるのだ。そもそも俺が死んだのもそのせいだった。
日本では顔のせいでコミュ障で引きこもりだったのだが、体を鍛えるのが趣味だった。つまりボディビルだ。お金は最初は親の援助もあったが、ネットを使った商売で稼げるようになり、投資も順調だったので将来の不安はなかった。家が広かったので、一室をトレーニングルームにして、余暇は全て肉体改造にあてた。器具やプロテインは通販でよかったし、食事は母に作ってもらえた。一歩も外へ出かけないで済む、理想的な環境だった。
だがどうしても出かけないといけない時がある。
大会だ。
この鍛え上げた肉体を見て貰いたい。評価して貰いたい。コミュ障ではあったが、大会では言葉がいらない。この厳つい顔も仲間たちなら受け入れてくれるだろう。大事なのは肉体であり、美しい筋肉なのだ。
そして大会へ向かう道の途中で、やはり子供がおれの顔を見て泣いた。そして道路への方へと逃げ出したのだ。そこは国道でトラックが猛スピードで走っていて、子供は突っ込んでくるトラックを見て道路のど真ん中で立ちすくんだ。俺は子供を追いかけて道路へと飛び出し、子供を生垣へ放るとトラックに轢かれ、そして死んだんだと思う。