私はわざと『殿』をつけなるべく下出に出るようにします。
私は領主なので職務上の格は上ですが、年齢が遥かに下なので偉そうな呼び捨ては相手もいい気分にはならないと思ったのです。
それで私より格上だと勘違いするバカならいいように利用して切り捨てる予定です。
後ろの男は驚いた顔をした後、あわてて一礼しました。するといきなり疑問を口にします。

ゼス

なぜ、私の方がゼスだとお分かりになったので?

ゴリラが言いました。

魔王ちゃん

色々ですが、まずは耳。潰れて腫れています。組み技系体術の熟練者に多く見られる特徴ですね。

魔王ちゃん

次に服装。ズボンは王都の流行のものではないですね。儀礼上、職務上格下である従者はわざと流行遅れの服を着てくることになっています。

魔王ちゃん

そうやって格の上下を表すのですが、ゼス殿は騎士です。いつでも動けるように関節部分に余裕があるデザインにしてるのでしょうね

魔王ちゃん

さすが騎士の中の騎士です。お隣の方はどなたでしょうか?

はい全部嘘です。
今テキトーに考えました。

どちらも根拠にはなりません。
適当なこと言いました。
本当は常識的にゼスだという方の反対を選択しただけです。
だって試してますよって態度が露骨に顔に出てるんですもん。

魔王ちゃん

ばーかばーか!!!

突っ込まれるとやっかいなので念のために話を従者の話題に変えました。
へっへーい♪

それにもう一人も只者じゃないですね。
カンですけど。
そんなことを考えていると領主と従者が直接話すのはまずいと思ったのか、ゼスさんが私に紹介をします。

そういうのめんどいからやめて欲しいっす。

ゼス

彼はギルです。守備兵団の主計長を務めております。

なるほど裏方さんでしたか。
私はゼスさんと握手をしようと手を差し出します。
ゼスさんも手を差し出してきて、二人の手が握られます。
するとゼスさんの顔色が変わりました、何かを調べるように私の身体をパンパンと軽く叩くゼスさん。
次の瞬間、ヒザと拳を地面につけて頭をたれながら伏せました。

ゼス

我ら、アイゼンハワー閣下のご子息であるアレックス様に忠誠を誓います。

ゼス

ほう。
凄まじいまでに鍛えられた身体だ。
ただ者ではないな。

※サムライ魔王シルヴィアのスパルタ教育で各種武術を死ぬほど叩き込まれただけです。

あれま好印象。
まだ小細工なんもしてないんですけど……
なぜだ?
まあいいや。
ラッキー。

その後、私はゼスさんたちに預かっていた親父からの手紙を渡しました。
ゼスさんはシルヴィアには自分たちの身分が低いことを理由に挨拶をしないで帰っていきました。
ガキに会うのにそんな律儀にしなくても。
やっぱ騎士って苦手です。

野菜マシマシ

ゼスさんと謁見した後、私はデブやデブやデブと謁見しました。
ゼンブマシマシチョモランマ。

魔王ちゃん

いえ、私はデブ嫌いじゃないですよ。

サラリーマンや宮仕え、あと政治家などをやっていると飲ミュニケーションをとらねばならないことがとても多いです。
アルコールとつまみを食べたら炭水化物が欲しくなってシメにラーメンを。
ズボンが入らなくなりシャツも入らなくなり、ふと気づいたら体重が90キロオーバー。
ここまで太ると絶望の三桁台もすぐそこです。

選挙ポスターは「これ魔族ですらないよね?」とネットで囁かれる始末。
肝臓は脂肪で肥大し、尿酸値はうなぎのぼり。
結晶化した尿酸が足の指の関節で大暴れです。
(正確には暴れるのは白血球らしいです)
……決して私の事ではありませんからね!
一般論ですからね!

魔王ちゃん

通風超痛えええええぇ!!!

そして気がついたら血糖値が手のつけられない数値に。
調子こいていた人生のツケが襲いかかってくるのです。
……もう二度とビールとラーメンがある世界には転生しません。
と、いうわけで私は別にデブが嫌いなわけではありません。
誰よりもその苦悩がわかる自信があります。

魔王ちゃん

腹と尻の脂肪には愛が詰まってるの!
あと二の腕。

少し話が脱線しました。
遊牧民の襲撃で食料が奪われまくっているこの男爵領。
本来ならお貴族様も痩せているはずです。
なにが問題なのか?
個人の自由でしょ?

魔王ちゃん

いいえ。

土地持ちの農民にまで餓死者が出ているにもかかわらず、空気も読まずに見せびらかすように食料を無駄に消費して暴動を誘発する、官吏としてのその政治的なバランス感覚の無さはたいへん問題なのです。

もっと食料が厳しくなる冬になって、扇動する人間が現れたら一気に暴動が起こることでしょう。
なので私は自分自身の命のために

『裏で飯食っても酒飲んでもいいから、パフォーマンスで少し痩せろ』

と声を大にして言いたいのです。
演出って超大切ですよ。

魔王ちゃん

アホの集団かお前ら!!!

まあこの時点で少なくとも民の方を向いて行政を運営していないのが良くわかります。

魔王ちゃん

領主である私のほうすら向いていないようですけどね。

この時点でかなりの減点になった彼らを私はさらに採点します。
例えば今目の前にいる徴税官。
非常に仕立てのよい服。王都で最先端のファッションです。
……のはずなのに、なぜかそこに金とか銀とかの糸を入れたり宝石着けたりしてキラキラに飾り付けています。

げへへ。
領主様。
今後ともよろしくお願いします。

魔王ちゃん

なんでパンチパーマ?

なぜか髪型はパンチパーマ。
どこに出しても恥ずかしい清清しいまでのヤクザ系成金スタイル。
騎士の方々とは違い、やりすぎて悪趣味の極みですね。
宝石を私に見せ付けるつもりなのか、それが礼装だとでも思っているか、全く意図がわかりません。
単に悪趣味なだけかもしれません。

私は仕立てや生地や宝石から大体の金額を計算します。
それは徴税官の年収ではローンでもそうとう厳しいと思われる金額です。
もちろんこれだけの事をもって地下経済として無駄になる、横領をしてるとか、賄賂を貰ってるとかとは言いません。

もしかすると礼装のために苦しい家計を切り詰めて無理して買ったかもしれません。
ええ。ちょっと監査するだけです。
彼の出した徴税記録をね。
彼の資産とともにね。
コレをネタに永遠に子分としてこき使う予定です。
死んだ方がマシだったかなあってレベルで。
私は心の中だけで悪い笑みを浮かべるのでした。

魔王ちゃん

はい次のデブのかたどうぞ!

お外で視察です

さて、デブに謁見したあとは視察です。
私たちは馬車で揺られながら領地を見回ってました。
と言っても畑を見るだけですのでちょっとしたピクニック気分です。

ピクニック気分でしたとも。

いやあ、のどかな風景って心が安らぎますね。
畑に。
あぜ道に。
野に咲く花に。
牛さんに。

 空飛ぶ巨大怪獣に……

あんぎゃああああああッ!!!

魔王ちゃん

はい?

それは巨大なトカゲでした。
羽が生えてて。
火を噴くヤツ。
それはまさしくドラゴンでした。

農民

に、にげろおおおおおお!!!


農民の声が聞こえました。
にゃ!
にゃんですと!!!

シルヴィア

ドラゴンだな

魔王ちゃん

冷静に言うな!!!

アカンです!
いきなり命が大ピンチです。
聞いてねえぞコラァ!!!

そう……まったく資料に書かれてなかったのです。
そうこの土地は……

巨大怪獣の発生地だったのです!!!

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