城までの道は遠くはないが、明かりの消えた夜道には人の声が無く、不気味だった。
よく勘違いされる事だが、人の住まう場所に人の姿が見えないからこそ、それに不気味さを感じるのだ。
これが森であれば、動物の姿に驚き恐怖する事はあっても、得体の知れない何かが自分に戒めを与える為に現れるのではないかと思う事はない。
危険が無いからこそ、得体の知れない危険に身を竦めている状態とも言えるだろうか。
私は単身、城へと向かっていた。どうしても、国王に話さなければいけない事がある。
先ず、今日の遅刻……欠席についての問題が一点。もう一点は彼女の事について、私は確認しておかなければならなかった。
すうと風が通り抜けるような、背の高い天井。薄暗い廊下には燭台が立っていて、まだ明かりは点いていた。ならば、まだ起きているだろうか。
日中の訓練に現れなかった事について、何か懲罰が待っているかもしれない。
本当に、どうして寝過ごすような真似をしたのだろう。騎士に有るまじき失態……降格されてもおかしくはない。幽霊と話していたら夜中になってしまったので遅れましたとは、口が裂けても言えない。
……しかし、私ほどでは無いにせよ、遅刻は日常的になってしまっている。夜警担当は体調を崩しやすいし、充分な休養も確保出来ない事が多い。
帝国の仕組みを見直す良い機会では……いや、そんな事は言わない方が良いだろう。
淀んだ感情が胸の奥で渦巻く中、私は王室の扉をノックした。