*第2話 ナツくんとあたし*
*第2話 ナツくんとあたし*
それからもナツくんはやたらとあたしに話しかけてきた。
移動教室のときは
マナ、俺場所わかんないから連れてって
って必ず頼まれるし。
お弁当を食べるときもあたし達のグループに堂々と入ってきたうえ、
マナの弁当うまそー
なんて言って、大好物の玉子焼きを勝手につまみ食いされてしまった。
そのあと泣きそうな顔をしてるあたしを見て
うわ、泣くなよ。ほら、俺のウインナーやるから、あーんして
なんて言いながら、ナツくんは自分のお弁当箱からウインナーをいっこくれた。
素直におっきい口をあけて食べさせてもらったら、まわりのクラスメイトに突然ヒューヒュー言われてしまって、驚いたあたしはウインナーをのどに詰まらせたのだ。死ぬかと思ったよ。
そうじでゴミ捨て担当になった時なんかは
マナ、ゴミ箱重いからお前も手伝って
そう言ってあたしに手伝わせたくせに。結局ゴミ箱はナツくんひとりで持ったまんまで、あたしはただ隣を歩いてただけだった。
ふたりで掃除中の校内をテクテク歩きながら呑気なお喋りをする。
マナっていっつもリボンつけてるよな
うん。好きで集めてるの。リボンのヘアアクセいっぱい持ってるよ。んーと……15個か32個ぐらい
どっちだよ
あたしの言葉に、ナツくんがゴミ箱を落としそうになって笑う。そんな変なコト言ったかな?
じゃあ家帰ったらちゃんと数えて。そんで俺にラインで教えて。写真付きでな
分かった
これがきっかけで、あたしはナツくんとラインもするようになり、家に帰ってからもいっぱいお喋りするようになったのだ。
ナツくんは運動も出来るのに頭も良くって、どっちも苦手なあたしから見たらスーパーヒーローみたいだと思う。
お勉強がちょっと……ううん、かなり苦手なあたしは、数学の小テストで赤点を取ってしまったんだけど、ナツくんは追試になったあたしのお勉強にずーっとつきあってくれたりもした。
昼休みの図書室で、ちんぷんかんぷんな参考書を見ながら目をグルグルさせているあたしに呆れもせず
焦んなくていいから。ほら、いっこずつ解いていこ
なんて優しい声をかけてくれて。
それで、1問解けるたびに
エライ、エライ。やれば出来るじゃん。さすが俺のマナ
なんて笑ってグリグリと頭をなでてくれた。嬉しかったけど、なんで『俺のマナ』なんだろ?知らなかったけど、あたしってナツくんのものなのかな。
おかげでいつもなら3回は掛かる追試も、今回はナツくんが一生懸命教えてくれたおかげで1回で合格。
すごく喜んだあたしは、ナツくんへのお礼に購買のイチゴミルクをご馳走した。
どうもありがとうナツくん。これはささやかなお礼です
なんだよ、お礼なんかいいのに。でもマナがくれるなら貰っとくな、サンキュー
そう言って紙パックにストローを刺して1口飲んでからナツくんは
でもなんでイチゴミルク?
と、ちょっと不思議そうに尋ねてきた。
だって、イチゴミルクはすごく美味しいから。あたし、世界で1番好きな食べ物が玉子焼きで、次が湯豆腐で、次がイチゴミルクだと思うの
なんだよ、マナの好物かよ。しかも3番目ってビミョー
あたしの答えを聞いて、ナツくんは可笑しそうに目を細めて笑った。その隣であたしも自分の分のイチゴミルクにストローを刺しいっしょに飲む。
うーん、おいしい
うん、マナと一緒なら何でも美味い
あたし毎日イチゴミルク飲んでるよ。もしかしたら、カラダ半分くらいイチゴミルクで出来てるかもしんない
あはは!すげーな!じゃあマナとチューしたら絶対イチゴミルクの味がしそう
え?ツーがなに?
出たよ天然。なんでもねーよ
ナツくんは一足先に飲み終わると紙パックを器用にゴミ箱に投げ入れた。そして
わー上手
と感心してるあたしの隙をついて、手に持っていたイチゴミルクのストローをパクっと咥え1口飲んでしまった。
あー取られたー
さっきボケたバツ。間接チューいただき
えっ
今度はちゃんと聞こえた『チュー』に、あたしの顔がみるみる赤くなる。恥ずかしくなってアワアワしていると、ナツくんは
あーほんと、マナって可愛いよな
なんて言い残して、あたしのほっぺをフニフニと突っついてから何処かへ行ってしまった。
なんでも出来るのに、ナツくんはすごく優しくって。ドンくさいあたしの事も決してバカにしたりしない。
ある日、体育のマラソンでひとりだけすごーく遅れてたあたしを、男子たちが笑ってからかってたんだけど。それを見たナツくんは
笑ってんじゃねーよ。マジメにやってるマナのこと笑ったら俺が許さねーぞ
って、すごく真剣に怒ってくれて。そんなナツくんの正義感に他の子も
そーだそーだ
って賛同してくれたりして。
おかげでそれから、あたしがマラソンでビリになっても笑う人はいなくなっちゃった。
だから、あんなに嫌いだった体育も今ではわりと好き。
それに、頑張ってると遠くからナツくんがコッソリ手を振って応援してくれるんだもん。
あたしは前よりいっぱい頑張れるようになったんだよ。
つづく。