*第3話 ドキドキとあたし*


そんな感じで3ヵ月はあっというまに過ぎて。明るくてカッコいいナツくんは、クラスに馴染んでるどころか、男子にも女子にもすっかり人気者になっていた。

そんなナツくんと一緒にいると楽しい。ちょっと強引なとこもあるけど、それよりもっともっとナツくんは優しいから。一緒にいるとホッとするしウキウキもする。
 

ある日の放課後、ナツくんはあたしを家まで送ってくれた。

バスケ部に入ったナツくんと、合唱部のあたし。帰る時間はいつもバラバラなので、いっしょに帰れるのはとても珍しいのだ。

ナツ

マナと毎日いっしょに帰りてーなー


夕暮れの歩道を歩きながら、ナツくんは空を見上げるように言った。

確かに、ナツくんと毎日いっしょに帰れたら楽しいだろうな。部活の事をおしゃべりしたり、コンビニでおやつを買ったり、時々寄り道して公園に行くのもいい。そしたら、野良猫のニニを紹介してあげるのに。
 

そんな風に考えてニコニコとあたしが

マナ

そうだねー。あたしももっとナツくんと一緒だといいと思うなー


返したら、突然ナツくんがピタリと足を止めてしまった。

ナツ

ホントにそう思う?


急にマジメな顔で聞かれて、あたしの心臓がビックリして飛び跳ねる。

うわ、うわ、ドキッとした。だって、急にそんな顔ズルい。ナツくんは笑ってる顔はお日様みたいで可愛いけど、マジメな顔はすっごく男らしくてカッコいいんだから。

マナ

う、ウソじゃないよ。だって、ナツくんといると楽しいから。ホントだよ

ナツ

楽しいだけ?


ナツくんはマジメな顔のまま、あたしに一歩近付いてきた。

もう夕暮れだから人があんまりいない住宅街の歩道はとっても静かで。なんだか、胸のドキドキがナツくんに聞こえちゃいそうで、あたしは焦った。なのに。なのに。


ナツくんの手があたしの顔の横を通り過ぎ、勢い良くうしろの壁に着いた。

ビックリした。すごくビックリした。胸のドキドキはさらに急加速。頭クラクラしてくる。


ナツくんはあたしの後ろの壁に両手を着いて、まるで逃がさないようにしてるみたい。おまけにお互いの顔がすっごく近くって。

自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。あたし、心臓が早くなり過ぎて死んじゃうかもしんない。ああ、パパ、ママ、さよなら。

顔から湯気が出そうなあたしに、ナツくんはさらにグッと顔を近づけると、耳の近くで言った。

ナツ

お前のこと、ドキドキさせてみてーな


息がかかるほど近くで囁かれて、あたしはもう恥ずかしくて緊張してグルグルの頭になりながら一生懸命返す。

マナ

やめてよー。もう充分ドキドキしてるよー


すると、ちょっとだけ顔を離して、今度はじっとあたしを見つめながらナツくんは言ってきた。

ナツ

それって、俺のこと意識してくれてるって事?


えっ?それって、どういう意味だろう?なんだかよく分かんなくて、見つめ合ったままの瞳をパチパチとさせてしまった。

そんな様子のあたしを見て、ナツくんは困ったように眉毛を下げて笑うと

ナツ

焦らすなよ。これだから天然は

そう言って壁から手を離した。

けれど、ホッとしたのも束の間。ナツくんはあたしの髪をゆるゆると撫でると、前髪をとめていたリボンのピンをパチンと外して取ってしまった。

マナ

何するのー返してー


困ったあたしが手を伸ばして取り返そうとするも、背の高いナツくんの手には届かない。

マナ

なんで?ナツくんはこんな意地悪する人じゃ無いのに。なんで急にこんな事するの?

泣きそうになって目がウルウルしてしまったあたしを見て、ナツくんは焦ると

ナツ

泣くなって、ちゃんと返すから。その代わり俺の質問に間違いなく答えられたらな


そんなむずかしい事を言ってきた。

質問?なんだろう。数学の質問とかだったら困るな。きっと間違えちゃう。困った困った。

リボンのヘアアクセはあたしの大切な宝物だ。いっぱい集めてるけど、29個あるけど、どれも大事で失くしたくないのに。

けれど、ナツくんの口からは想像もしなかった質問が飛び出した。

ナツ

質問。マナはリボンと俺、どっちが好き?

マナ

え?


あまりにも不思議な質問でポケーっとしてしまった。2,3回まばたきをすると、もう1度ナツくんが

ナツ

どっち?

と聞いてくる。

あたしは必死で考えた。答えを間違えちゃったら大事なリボンが返って来ない。

……そう。リボンはとっても大切。あたしの何よりの宝物。1個も失くしたくないの。でも。

マナ

ナツくんの方が好き


ハッキリと、あたしは大きな声で答えた。

だって。リボンは宝物だけど、ナツくんといっしょにいる時間はもっともっと宝物なんだもん。

ナツくんが来てから、あたしの毎日はいっぱい変わった。

平和でのんびりしてた毎日が、毎日ウキウキとドキドキだらけになった。

楽しかった学校生活がもっともっと楽しくなって、キラキラして、輝いてるみたいになった。

平和だった日も好き。ママの玉子焼きのお弁当が楽しみで、イチゴミルクが美味しくて、友達とのおしゃべりが面白くて、毎日どのリボンを着けるかウキウキ考えてた日。

でも今は。このドキドキだらけの毎日がもっと好き。

玉子焼きと交換するナツくんのウインナーが好き。一緒に飲むイチゴミルクが前よりずっと美味しい。友達と、ナツくんと、一緒のおしゃべりがもっと楽しい。

毎日ウキウキして選んでたリボンは、今はナツくんに可愛いって思われたいなってドキドキする気持ちで選んでる。

だから。

マナ

ナツくんの方が好き。リボンより、玉子焼きより、イチゴミルクより、ナツくんが1番好き


自信を持ってそう言うと、目の前のナツくんはニコーっと、お日様みたいな超笑顔になった。

ナツ

正解。よく出来ました


その言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。良かった、答え合ってた。

ナツ

そんじゃ返してやるね


そう言ってナツくんは、あたしの前髪を指で梳きながら、パチンとリボンのピンをとめてくれる。

いつものように、おでこが出た感触になんだか安心していると。

ナツ

チュッ

という軽い音と共に、おでこにキスが落とされた。

マナ

……えっ?えっ?えっ?


ワケが分かんなくてパニックになっていると、ナツくんは少しだけ頬を染めた顔でニィッとあたしに笑いかける。

ナツ

正解のごほうび。これからも俺を1番好きでいるように


そんな。そんなコト言われたって。わあああああ。ドキドキしすぎて、もう何も考えられないよー。

まっかっかになって、倒れそうになってしまったあたしをナツくんは抱きとめると

ナツ

ほんっと、マナは可愛いな


嬉しそうに笑いながらそんな事を言ってた。

桃瀬マナ、16歳。

困ってしまうくらいドキドキで、でも大好きなナツくんとの日々は、まだまだ続きそうです。


【おわり】

*第3話 ドキドキとあたし*

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