○ 自宅・台所
○ 自宅・台所
夜。
お風呂上がりの女性、美咲が髪を乾かしながら脱衣所からやってくる。
牛乳もらいまーす
はいよー
キッチンで洗い物をしている辰彦が返事をする。
美咲が冷蔵庫を開けるが、あるはずの場所に牛乳がない。
あれ?牛乳切らしてたっけ?
あ、ごめん。さっき使ったんだった。
こっちにあるよ
調理台の隅に牛乳が置いてある。
あ、ホントだ。はっけーん
牛乳を確保し、グラスに注ぎごくごくと飲み干す。
ぷはーっ
美咲、おやじくさい
クセなのよねー
照れながら返事をする美咲。
もう一杯飲もうとグラスに注いでいると台所のカレンダーの赤丸に気付く。
あれ?明日、辰彦休みだっけ?
うん。この前の休日出勤の代休
食器の泡を洗い落としながら答える。
あー明日だったっけ…
ごめんすっかり忘れてた
牛乳を冷蔵庫にしまう美咲。
別に気にしなくて大丈夫だよ〜
ただ、明日は早く帰ってきてね
どうして?
美咲が空になったグラスを辰彦に渡す。
グラスを洗う辰彦。
一緒に晩ご飯食べたいし
好きな物作っておくから楽しみにしててね
ホント?嬉しい
美咲が笑顔になる。
頑張って定時に帰れるようにします
お願いします
洗い物を終えた辰彦がエプロンを脱いで椅子にかける。
台所を出て行く2人。
部屋の電気を消す。
#02「フレンチトースト」
○ 同・寝室
朝
目覚まし時計のアラームが鳴る。
ベッドの布団から手が伸びて目覚まし時計のアラームを止め、時計を布団の中に引きずり込む。
うぅ…
布団の中から美咲のうめき声が漏れる。
朝だ…朝だよ…辰彦
返事がない。
静かな寝室。
呼吸音すらない。
あれ?
布団をはねのけ起き上がる美咲。
部屋を見渡すとパジャマ姿の美咲しかいない。
○ 同・リビング
リビングのドアをそっと開ける美咲。
ドアを開けると甘い香りが広がっていることに気づく。
???
何のにおいだろうと不思議に思いながら鼻をくんくんと鳴らしながらリビングに入る。
辰彦の姿はない。
代わりに、ダイニングテーブルにはフォークとナイフが2人分綺麗に並べられている。
台所の方からゴソゴソと音がする。
…?
○ 同・台所
辰彦がエプロン姿でガスコンロの前に立っている。
鼻歌交じりでフライ返し片手に持ちながら、フライパンを揺らしている辰彦。
美咲がそっと台所にやってくる。
おはよー
辰彦が振り向く。
おはよう
何作ってるの?
美咲がフライパンをのぞき込もうとするとガードする辰彦。
ふふふ、内緒♪
もうすぐ出来るから仕度して、リビングで待ってて
美咲の背中を押して洗面所の方に向かわせる。
はーい
美咲が台所を後にする。
○ 同・リビング
顔を洗い、化粧などを終えた美咲が戻ってくるとテーブルにはコーヒーの入ったマグカップがそれぞれの席に置いてあり、湯気が立っている。
パジャマ姿の美咲が席に着き、コーヒーに口をつける。
ふぅ
ゆっくりと背もたれにもたれかかってリラックスする。
お待たせー
両手に皿を抱えながら台所からやってくる。
美咲の前にゆっくりと皿を置く。
おぉ、これは…
美咲が驚く。
フレンチトーストじゃないですか
お皿には綺麗に盛りつけられた生クリームが添えられたフレンチトースト。
せいかーい
辰彦がエプロンを脱いで、自分の椅子の背もたれにかけ、座る。
どうしたの?これ辰彦が作ったの?
この前、テレビで見て食べたいって言ってたでしょ?
言ってたけど、せっかくの休みに早起きして作ってくれたの?嬉しい
喜んでくれて嬉しいな
さ、生クリームが溶けちゃうしのんびりしてると遅刻しちゃうから食べようか
美咲が嬉しそうに手を合わせる。
それを見て辰彦も手を合わせる。
いただきます!
いただきます
2人の声が揃う。
美咲がフォークとナイフを手に取り、フレンチトーストを口に運ぶ。
ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜美味しい!
美咲が満面の笑みを浮かべる。
辰彦も口に運ぶ。
うん、上出来だね
上出来なんてレベルじゃないよ!お店出せるよ、これ!
すごく美味しい!
大げさだなぁ
テンションの上がっている美咲を見て辰彦が笑う。
これ、どうやって作ったの?手間かかったんじゃない?
実はすごく簡単
ホントに?
うん
×××
回想始まり
○ 同・台所
夜。
辰彦がエプロン姿で台所に立っている。
調理台には材料と計量カップ、密閉できるファスナー付のビニール袋が並べられている。
材料は4枚切り食パンと卵2個、牛乳と計量カップ、グラニュー糖。
食パンは耳が柔らかいパンの方が良いかも、今日のは近所のパン屋さんのちょっと良いやつ
卵をボウルに入れて泡立て器で混ぜ始める。
このときの注意はきちんと卵白を切るように混ぜること。泡立て器を使うのはそれが簡単にできるから。あんまり激しく混ぜて泡立てる必要は無いよ
卵液が出来たらグラニュー糖を大さじ1ぐらい入れて軽く混ぜる。最後に牛乳300ccを加えて混ぜる。ひたすら混ぜるだけ。
今回はグラニュー糖を使ったけど三温糖だとまた違う感じで美味しいかも。次に食パンだけど…
まな板に食パンを並べて、食パンを半分に切っていく。
食パンを並べたら、それぞれ半分に切る。それを袋に入れてさっき混ぜた卵液を流し込んで密閉。このときちゃんと全体が浸るようにしないとダメ。
で、それを冷蔵庫で一晩寝かせる。あとは翌朝、焼くだけ。
ついでに生クリームも作って冷蔵庫に入れておく
袋と生クリームの入ったボウルを冷蔵庫に入れて扉を閉める。
×××
回想終わり
○ 同・リビング
美咲がもぐもぐと食べながら聞いている。
ホントに手間かかってないね
美咲が冷蔵庫覗いたり牛乳しまったときにバレたと思ったけどバレてなかったのね
全然気づかなかった
2人して笑う。
焼くときは何かコツがいるの?
えっとね
×××
回想始まり
○ 同・台所
朝。
再び、エプロン姿の辰彦。
フライパンを熱している。
フライパンを温めてから、たっぷりめのバターを投入。バターは焦げやすいから弱火でね。バターが溶けたら一晩寝かせた“ひたひた”の食パンを並べてじっくり焼きます
ちょっと焦げ目が付くぐらいかなぁ。
両面に火を通すんだけど強火でやっちゃうと焦げやすいし水分が飛んでパサパサになっちゃうから中火から弱火ぐらいでさっと焼いちゃう
いい感じに焦げ目の付いたフレンチトーストをひっくり返す。
焼けたら、あとはお皿に盛りつけて粉糖をかけて、昨日の夜に一緒に作っておいた生クリームを添えて、更にメープルシロップをかけて完成!
お皿に綺麗に盛りつけられたフレンチトースト。
×××
回想終わり
○ 同・リビング
美咲がオレンジを食べながら聞いている。
ね、簡単でしょ
簡単だけど、辰彦さすがだねぇ。
ちなみにこのオレンジは?
彩り
何かコツは?
ないよ
切るだけ
切るだけかー
美咲のスマホのアラームが鳴る。
あ、いけない。のんびりしてたらもうこんな時間
いつもよりゆっくりしすぎたね
着替えなきゃ
美咲が手を合わせる。
丁度、食べ終えた辰彦も手を合わせる。
ごちそうさま
お粗末様でした
美味しかった!ありがとう!私、今日午前中頑張れそうな気がする
午後は?
今日の一緒に食べる晩ご飯を楽しみに頑張る
えへへと美咲が笑う。
じゃ、晩ご飯頑張っちゃおうかな
期待してます
ぺこりとお辞儀をする。
じゃ、片付けちゃうから美咲は着替えちゃって
ごめんね、ありがとう
いいよー。さ、早くしないと
うん
立ち上がり、それぞれが支度をしていく。
○ 同・玄関
美咲が着替えて玄関に来ると辰彦が既に靴を履いて待っている。
あれ?出かけるの?
駅までお見送り
せっかくの休みなんだから寝てて良いのに
いいからいいから
美咲が靴を履く。
玄関の扉を開けて2人が出て行く。
○ 駅前
通勤や通学のため駅に人が吸い込まれている。
じゃあ、行ってくるね
うん、気をつけて
仕事終わったらメールするね
はーい
行ってきます!
ビシと敬礼の真似をする美咲。
いってらっしゃい
手を小さくヒラヒラと振る辰彦。
ふふっ
ふふっ
2人が笑う。
美咲が駅に向かっていく。
後ろ姿を見ている辰彦。
…
改札を通る直前、美咲が振り向き手を振っている。
再び、辰彦が手を振る。
改札を通り姿が見えなくなる美咲。
……
………
………ふぁ
気が抜けたのか、あくびが出る。
…やっぱり、一旦寝よう
頭をくしゃくしゃとかきながら呟き、くるりと踵を返し帰路につく辰彦。
第2話 おわり
・*°☆今回の材料一覧☆°*・
*フレンチトースト(2人前)
食パン…2切
卵…2個
牛乳…250cc
砂糖…小さじ1杯
バター…適量
メープルシロップ・ジャム・はちみつ…お好みで
*ホイップクリーム
生クリーム…100㎖
牛乳…大さじ1
粉砂糖…大さじ1
オレンジ…お好みで