初めて人を好きになった時から、みのりが好きになるのは彼女と同じ、女の子ばかりだった。
他にそんな人間は見あたらない。
まわりの友達が言う「レズ」という言葉からは、「変態だ」という響きだけが伝わってきた。
だから誰にも打ち明けられないし、相手の気持ちも確かめようがない。

みのり

私、おかしいんだ。変態なんだ。こんなの嫌。治さなきゃ…!

そう思って自分を責めてきたし、今も責めている。
…でも、責めたからといって異性が好きになるわけでもなく、一番の友達である桃乃にみのりは恋している。
ストラップは、桃乃と金沢まで出かけた時に、土産物屋にあったお揃いの品を二人で買って、相手の名前を入れてもらって交換したものだった。
女の子の友情の表現としては普通だし、もちろん桃乃もそのつもりのはずだ。みのりもそれは分かっている。

みのり

桃乃…

もしや、と思うこともあるけれど、でも、気持ちを確かめたりしたら全部が終わることも分かっている。
分かっているから、一人で生きていくしかないと思わざるを得なかった…。

外の雪はまだ止まない。
除雪をする機械の音が表を行ったり来たりしている。

お姉さん

…今はもう、思い出しても苦しくないよ。ていうか、懐かしいって思える

お姉さんが、同性の友達に恋していた高校時代のことを話し終えた。ちょうど十年前の話だそうだ。
みのりは少しためらってから、相手の顔を見上げて尋ねる。

みのり

今は……あの、どうなんですか?

お姉さん

今も、好きになるのは女の人。でも、くっつくアテはないから当分このまんまだねー

サバサバとした感じで、お姉さんは答えた。

みのり

あの……淋しくなったり、不安になったり、とかは…?

お姉さん

ないない。東京に行ってからさ、自分を変えたいって思って無理して男の人と付き合ったんだけど、辛いだけだったし、今でも時間のムダだったとしか思えんし。それに…

そこまで言ってから、お姉さんの顔がにわかに華やいだ。

お姉さん

…その後にね、好きになった子と、初めて付き合えたの!

みのり

え……

お姉さん

彼女とは別れちゃったけど、でも彼女の紹介で、仲間がたくさんいるって分かってね。その人たちのおかげで、私、これでいいんだって思えたんだ。今もその人たちとつながっとって、励まし合えとるし

そこで冷めたココアを一口飲んでから、お姉さんは言い聞かせるように言葉を継ぐ。

お姉さん

東京って人が多いけど、多いおかげで、そういう出会いもあるのよ

だから、東京で美術の勉強しておいでよ…相手の笑顔は、みのりにそう言っていた。
けれども、みのりの顔は明るくならない。

みのり

でも………ごめんなさい。私、今のままじゃダメだって、変えなきゃって思っとるし………

お姉さん

…まあ、そうだよね。でもさ、変えられるって思っとるんなら、結婚するのをアテにできるんだから、好きな勉強して帰ってきて、適当に就職すればいいんじゃない?

みのり

でも、変えられるかどうか、分からんし…そしたら一人で生きてかなきゃ、いけないから…

その台詞を、お姉さんの声が塞いだ。

お姉さん

私も、一人で生きとるんだけど?

ぐっと近づけられた顔が、目を見開いてみのりを見ている。

みのり

……………

こんな貧しい一人暮らしは嫌だ、とみのりは思ったのだけれど、まさか面と向かっては言えない…。

ピンポーン。

そこで、チャイムの音がした。

荒木さん

みのり、おるでしょー

玄関の外から、若い女性の声。お姉さんが玄関のドアに向かって大声で答える。

お姉さん

入ってー。開いとるからー

ドアが開いて、お姉さんと同じような年頃の女性が玄関に入ってきた。

荒木さん

いやー、降るとは言っとったけど、マジやばい…この冬一番かも

雪まみれの帽子とコートを脱ぎながら部屋に上がってきた女性は、すぐにみのりの存在に気がついた。
みのりは会釈をしたが、相手は目を丸くして驚くや、そのままお姉さんの方を振り向いて本気とも冗談ともつかない口調で言う。

荒木さん

ちょっとぉ。相手がおらんからって女子高生なんか連れ込んでぇー…犯罪じゃないの

お姉さん

もお。そんなんじゃないってばぁ。お友達よ

お姉さんが笑って応じた。相手も声を出して笑う。
今の台詞は冗談だったのだが、その冗談の中身がみのりは気になっている。

お姉さん

みのりちゃん。この子、私の友達で、荒木ちゃん。高校時代の部活仲間よ

荒木さん

こんにちは!

荒木という小柄な女性は、頭を下げるかわりにキョロリと目を見開く。

みのり

こんにちは

挨拶しながら、みのりは思わずクスリと笑った。
みのりにも部活に荒木ちゃんという友達がいるのだが、名前ばかりか、背格好や、挨拶する時にキョロリと目を見開く仕草までそっくりで、本人が老け顔のメイクをして目の前にいるみたいに思えてしまったからだ。

相手は相手で、笑いながら驚きの声を上げる。

荒木さん

この子、昔のみのりにそっくりー。なんか懐かしいー

お姉さん

荒木ちゃんも、そう思うでしょ。でも、そっくりなのは顔だけじゃなくてね、名前もみのりちゃんなの

荒木さん

へぇー…

お姉さん

それだけじゃなくて、他にも同じなことがあってさ…

お姉さんはそこで言葉を切って、みのりに優しい笑顔を向ける。

お姉さん

みのりちゃん。荒木ちゃんの前では隠さんで大丈夫だよ。さっきの冗談、聞いたでしょ?彼女は女の子を好きになるってこと、普通に理解してくれとるから

みのり

え………

荒木さん

あ。あなた、みのりと同じなんだ

話を聞いていた荒木さんがあっさりと言い、それからニヤニヤ笑ってお姉さんを肘でつつく。

荒木さん

じゃあ、やっぱ怪しいじゃ~ん

お姉さん

うるさい。違うの!

笑顔でつつき返してから、お姉さんは楽しそうな顔でみのりに打ち明ける。

お姉さん

今はまだ、ホントに信用できる友達にしか話せてないけど…私ね、自分のこと、ちゃんと話していこうって思ってるんだ

みのり

えぇ?…な、なんでですか

お姉さん

ふふっ。だって隠しとったら、いつまで経っても付き合う相手が見つけられんでしょ?

みのり

…話して、大丈夫なんですか?

お姉さん

見てのとおりよ。ね。荒木ちゃん

話を振られるや、荒木さんは明るい顔でみのりに答える。

荒木さん

そりゃまあ、聞いた時はちょっとビックリしたけどさ。
でも大事な友達が本気で思っとるんなら、変なことや悪いことだって気はしないじゃん?
そういうとこも含めて、みのり、かわいい!って私思っとるよ

……………

それを聞いても、みのりは自分のことを友達に打ち明ける気なんて起きなかったし、今の自分が好きになれる気もしてこない。でも、本音で言っているのがよく伝わってきて、ホッとするような気持ちになれた。

荒木さん

そうだ、原稿持ってきたんだった

荒木さんが思い出したように言って、少し大きめの鞄から出した封筒をお姉さんに渡す。

荒木さん

はいコレ。遅くなってゴメン。間に合う?

お姉さん

うん。ギリギリセーフって感じだけどね

みのり

…あの、原稿って、もしかして…

みのりが、おそるおそる口を挟む。

お姉さん

そう。同人誌作っとるの

もう一人の友達と三人で、定期的にオフセットの漫画本を出しているという。
次のイベントは年末のコミケで、今は十二月のなかばだから、たしかにギリギリだった。
原稿を見せてもらうと、さっきも見た『鋼鉄の時空』という作品の二次創作。線画だけで塗りやトーンが入っていない。

お姉さん

データ入稿するんだけど、みんな線画は紙で描くし、B4のスキャナーなんて普通の家にはないし。
で、私が原稿集めて会社でスキャンしてみんなに送って、完成データを集めて自分の会社に発注しとるの

荒木さん

みのりが印刷屋さんだから、助かるよねー

お姉さん

だからってこんなギリギリまで引っ張らないの!マジで怒るよ

荒木さん

まあまあ。ほら、差し入れ持ってきたから!

荒木さんがお姉さんをなだめながら、菓子の袋を炬燵の上に置く。

お姉さん

おーっ、カントリーマアムのスパイシーわさび味!分かっとるじゃ~ん!

お姉さんは大喜びで袋を開け始めたが、みのりは唖然としていた。
カントリーマアムはみのりも好きだけれど、緑色の袋にデカデカと「スパイシーわさび味」なんて書いてあるカントリーマアムは初めてだった。

みのり

…こんなの、売っとったっけ?

でも、実際にそれは目の前にある。さも当然のように食べ始める二人を、みのりは呆然と眺めるばかり。

お姉さん

ホラ、みのりちゃんも食べて食べて!

お姉さんと荒木さんが勧めてくるので、みのりもおそるおそる一つ手に取って小袋を開けた。濃い緑色をしたその菓子は、予想に反しておいしかった。

みのり

なんか、クセになりそう…コンビニでも売っとるのかな?

お姉さんが紅茶をいれて、それから三人は、データ原稿の作り方の話でしばらく盛り上がった。

荒木さん

あ、そろそろ会社に戻らなきゃ。二人とも、またね

荒木さんが鞄を持って立ち上がる。そういえば彼女は黒っぽいスーツ姿で、仕事の途中という感じだ。

お姉さん

そうだ、ちょっとだけいい?

お姉さんが荒木さんを呼び止めた。

荒木さん

ん?

お姉さん

この子ね、私みたいに一人で生きていこうって考えとるんだけど、だったら公務員か一流企業しかないって思い詰めとるの。
荒木ちゃんの話、ちょっと聞かせてあげてくれん?

まかせて、という顔で笑ってから、荒木さんはみのりの前に座り直した。

荒木さん

私、ビジネス系の専門学校を出て、こういう会社で事務の仕事しとるんだけどね…

荒木さんはパスケースを出して身分証をみのりに見せる。みのりでも知っている一流の保険会社だった。

荒木さん

営業じゃないのに、契約取ってこいって普通に言われるんで。「親戚や友達がおるだろ」って。
それに事務職は事務職で『目標』みたいなのがあって、それがちょっとでも守れんと気まずい感じにされるんだよー。
もちろん給料やボーナスにも差がつくし、もう少し年上の人だと、それが理由で変なとこに転勤させられちゃったり、リストラされちゃったりとかさぁー…

普段から、お姉さんを相手にこんな風に愚痴っているのだろう。みのりがおそるおそる質問をする。

みのり

…でも、お給料はいいんでしょう?

荒木さん

そりゃ、みのりよりはいいけど、ずっと働けるかどうかが正直分からん。
残業とか、ノルマみたいなのとかは、大きい会社の方がかえってあるような感じがする。
専門学校の友達で郵便局に入った子がおるけど、その子も事務なのに、プライベートで葉書やギフト売らなきゃいけないんだってー

みのり

公務員も…そうなんですか?

荒木さん

あ、公務員だったら、残業やノルマはあんまりないか。
でも、国も県や市も、高齢化とかで財政が大変でしょ。それでお給料が下がったりして、もう、そんなにおいしい就職先じゃないみたい。
少し遠くの市役所に受かって一人暮らししてる子がおるんだけど、みのりの暮らしとあんまり変わらん感じだったし

小さく溜め息をついてから、荒木さんは言葉を継ぐ。

荒木さん

私も『安定した会社に』って思っとったけど、会社が安定しとっても、その会社で自分がずっと働けるかどうかは別かもね。
今はね、一番やりたいこと選んでやり通してきた、みのりの方が強い気がする…

みのり

……………

荒木さん

けどまあ、みんながみんなリストラされちゃうわけじゃないし、たしかに小さい会社よりは待遇はいいから、あなたの思っとること頭っから否定はせんよ。
でもね………

そこで荒木さんは、見開いた目をみのりに向けた。やっぱりみのりの部活の友達にそっくりだったけれど、もう笑いは起きない。

荒木さん

どこに入ったって予想外にキツいことはあるから、給料がいいからとか、安定してるからっていう気持ちだけじゃ、働き続けていくのは無理だと思うよ。
じゃあ、よく考えて、頑張ってね

そう言い残して、荒木さんは雪が降る外へと出かけていった。

みのり

……………


電車が通り過ぎる間隔が、少し頻繁になってきている。
でも、それ以上に車の音が目立つようになっていて、電車の響きはかき消されがちだ。
そういえば、窓の外がさっきよりも薄暗い。

お姉さん

別に、今ここで決めんでもいいんだけどさ………
どうする?みのりちゃん

二人の前にある紅茶は、すっかり冷めている。真ん中には中身が半分ほどになった菓子の袋。

お姉さん

普通に結婚なんてできん、っていう予想は、変わってないんだよね?

みのり

はい

お姉さん

私も、それでいいと思うよ。
ホントはそのことをもっと前向きな気持ちで受け止めてほしいけど…今は無理だよね

みのりは、静かにうなずいた。

お姉さん

じゃあ、どうやって一人で生きていこうか?
やっぱり市役所や銀行?それとも、あなたが好きなこと?

みのりは下を向くと、時を稼ぐみたいにゆっくりと菓子を食べて、ゆっくりと紅茶を飲んだ。
時間をかけて紅茶を飲み込んでから、ようやく口を開く。

みのり

二年で取る授業、もう決めちゃったから…

お姉さん

でも、よほどのことがあったら、変えられるでしょ?

何か言い返そうとするみのりを制して、お姉さんは続ける。

お姉さん

よほどのことだよ。みのりちゃんの人生の、分かれ目だもん。もし、本気で変えるって決めたら、先生も親も納得させられるよ

みのり

……………

お姉さん

必死なのは、きっと伝わる。やめたら体がおかしくなっちゃうぐらい、あなたは絵が好きなんだもん

眼鏡の向こうから、祈るような眼差しがみのりを見つめる。少しだけ視線をずらして、みのりもお姉さんを眼鏡越しに見つめた。
しばらくそうしてから、みのりは小さく首を振って下を向いた。

みのり

私……分からん。分からんくなった……

ぽつりぽつりと、みのりの小さな声が言葉を続ける。

みのり

いい会社に入れても、私、続くかどうか分からんくなった………でも、美大に行って戻ってきたって、私………みのりさんみたいにすら、なれるかどうか分からんし………

お姉さん

…そっか

それでいい、という顔でお姉さんは答えた。

お姉さん

分からんなら、迷っていいよ。せっかくどっちも選べる学校に入ったんだもん。もっと迷おうよ!

顔を上げたみのりの目に、励ますような、でもとても真剣なお姉さんの瞳が飛び込んでくる。

お姉さん

迷っていいし、決めるのはみのりちゃんだから、どんな結論でも私は悪く思ったりしない。
でも…

みのり

…でも?

お姉さん

授業を決めちゃったことに寄りかかって、迷うのをやめることだけはしないで。
授業は、みのりちゃんが本気で望めばまだ変えられるんで。
だから、ホントの結論が出るまでちゃんと迷って。お願いよ

みのり

……………

お姉さん

中途半端なとこで迷うのをやめたら、絶対に後悔するよ。約束して

少し間を置いてから、でも大きく、みのりはうなずいた。
お姉さんは安心したように表情を和らげると、腕を伸ばしてみのりの前に小指を差し出す。
みのりはその指に、気持ちをこめて自分の小指をからませた。

お姉さん

それからさ、もしも美術を選んだら、の話なんだけど…

紅茶を口にして、お姉さんはもう一つお願いをしてくる。

お姉さん

大学に行く時は、油絵描いてばっかりの学科じゃなくて、制作にパソコンも使うような学科に入ってね。
私はこんな仕事しかできてないけど、そういう技術もなかったら仕事自体がないからね

みのり

それは大丈夫です!だって私も、パソコンでイラスト仕上げたりするの大好きだから

お姉さん

あ、そうだった。ふふっ、余計なお願いだったね

そこで二人とも、しばらくぶりに声を出して笑った。
その後、お姉さんがまたノートを出してきた。今度はみのりも、久しぶりにイラストを描いた。褒めたりツッコミを入れたりしながら、楽しそうに紙面を埋めていく二人の似た者同士…。

お姉さん

あ…もうこんな時間だけど、大丈夫?

不意にお姉さんが言ったので、みのりは壁の時計に目を向けた。普段の帰る時間よりも遅くなっていた。

みのり

…じゃあ、あの、そろそろ私、帰ります

みのりは炬燵から出て立ち上がる。もうフラフラしたりはしなかった。

みのり

おじゃましました。あと、ホントにお世話になりました

お姉さん

なんにも解決できんかったけど、少しは元気が出た?

みのり

はい!ありがとうございます!

借りていたカーディガンをたたんでいる間に、お姉さんがコートを取ってきてくれた。お礼を言ってコートを着るみのりの後ろから、温かい手がマフラーを首に巻いてくれる。

お姉さん

まだ降っとるみたいだから、気をつけてね

みのりが鞄を持ち上げると、お姉さんが先に玄関に降りた。
みのりがブーツを履き終えて立ち上がったところで、ドアが開く音がして寒気が流れ込む。
まだ雪が舞い降りる外には、もう街灯がついていた。
さっき除雪機が通った道には車の轍も見えたけれど、すぐ横の小さな空き地は雪が膝の高さぐらいになっている。

みのり

みのりさん。本当に、ありがとうございました

開けたドアを押さえているお姉さんに、みのりはあらためて感謝した。

お姉さん

いいっていいって。それより、約束だよ

みのり

はい。もう少し迷ってみます。私、ちょっと焦りすぎてました

答えてから、みのりはドアの外へ出た。出たところでくるりと振り返る。

みのり

それじゃあ、失礼します

すると返事の代わりに、お姉さんはみのりを優しく抱きしめた。

お姉さん

頑張ってね。あなたなら、きっと正しい方を選べるから

みのり

……………

お姉さん

今ここで迷えるのは、幸せなんだよ。
私も一年の時にとっても迷ったけど、あの時に迷えてよかったって思ってる。もっと後じゃなくて、あの時に迷えてよかったって思ってるから

みのり

…はい。ありがとうございます

返事を聞くとお姉さんはみのりを離したが、みのりは離れがたそうにお姉さんの前に立ちつくしていた。

お姉さん

どうしたの?

みのり

あのね、みのりさん

お姉さん

ん?

みのり

もし、迷ってどうしようもなくなっちゃったら…また、みのりさんに会っていいですか?

みのりが聞くと、お姉さんは謎を掛けるみたいな含み笑いをして答える。

お姉さん

会わなくたって大丈夫。あなたは私そのものだから

みのり

え………?

台詞の意味を大真面目に考え始めたみのりを、お姉さんがあわてて制した。

お姉さん

な、なんでもないの!あんまり似た者同士だから、ちょっと言ってみただけ!…またね!

みのり

なあんだ…それじゃあ、また

ペコリとお辞儀をして、みのりはようやく道の方へ足を踏み出した。アパートの軒が切れるところで立ち止まって、傘を開こうとする。

お姉さん

あ、みのりちゃん!

そこで、お姉さんが少しあわてたように声をかけてきた。

お姉さん

表通りと反対側に歩いて、次の角を右へ曲がったら…帰れるからね

それぐらいは、みのりも覚えている。なのにお姉さんはとても大事なことのように、大きな声で、噛んで含めるみたいにみのりに教えた。

みのり

大丈夫ですよ。ありがとうございます

答えながら傘を開くと、みのりは前を向き直って雪の中を歩き出した。

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