俺の悲鳴だ。
数センチの段差で死ぬ洞窟探検家のように風前の灯火。
俺の命とか貞操とか。
何があったのかって?
俺の悲鳴だ。
数センチの段差で死ぬ洞窟探検家のように風前の灯火。
俺の命とか貞操とか。
何があったのかって?
リンに拉致されたのだ。
話は朝にさかのぼる。
たまにはド変態どもから解放されたかった俺は某スネークのごとく隠れながら移動していた。
休息って重要だよね。
俺はビクビクしながら裏道を通り、ビルの壁を登り屋上から別のビルに飛び移る。
いわゆるパルクールだ。
あの変態どもをまくにはここまでやらんといけないのだ。
ちなみに街の連中もみんな妹なのだが、本能のままに襲ってくるのはヤツらだけだ。
しかも街の連中なら逃げることも可能だ。
だが連中にはそうはいかない。
一人一人がラスボスクラスの生き物なのだ。
ラスボスたちの中で俺だけ村人A。
あれ……?
目から汗が……
すでに俺の人生詰んでるんじゃね?
近いうちに死ぬか手込めにされるんじゃね?
……うん考えるのはやめよう。
考えるのをやめた俺は無心で進むことにした。
俺は大きな道に出た。
ここは普通に通らなければいけない。
さっさと渡ってビルに登らねば。
その時だった。
ぱらりらぱらりらぱらりらー
正直に言おう。
俺は嫌な予感がした。
先祖から伝わるトラディショナルな音を鳴らしながら走行するバイク。
この辺でそれを恥ずかしく思わない連中。
聖☆漢工業高校の連中に違いない!
「やっほー!!!」
それは自動二輪だった。
前の見えないほど湾曲したカウル、無駄に豪華かつ悪趣味な色のシート、意味もなくキラキラ光るLED。
それだけでも、これに乗っている人間の正気を疑うデザインだ。
しかも最近までされていた風神雷神のペイントはクマさんに変化。
族車から痛車にクラスチェンジした。
まさに族車と痛車のコラボレーション!!!
なぜそんな訳のわからんところで女子力を誇示した!!!
正直近寄りたくねいよね?
ねえ?
え?
お前これの持ち主知ってるの?
……うん。知ってる。
リンの愛車だ。
もちろん乗っていやがるのはヤンデレのリンだ。
一応注意しておくとヤンキーデレの方ではなく病みデレの方だ。
相手はヤンデレ。
選択肢を間違えたら死亡エンドが待っている。
やばいやばいやばいやばい!!!
こーろ-さーれーるー!!!
俺の心臓はバクバクと高鳴り、本能的恐怖からアドレナリンがドバドバと分泌される。
強制敗北イベントに向かう勇者の気分だぜ!
兄さん!
びくうッ!!!
目を合わせちゃダメだ!
目を合わせちゃダメだ!
目を合わせちゃダメだ!
目を合わせちゃダメだ!
目を合わせちゃダメだ!
俺は視線を合わせないようにしながら挨拶した。
おはよ(にこッ)
薄笑いしてる!!!
殺られる!!!
確か街中でヤンデレに遭遇したら、視線を外さないままゆっくり後退していくだったな。
よし!
俺は徐々に後ろへ下がる。
なにかが俺の視界の端を通り過ぎた。
俺はなにかを確認するために視線を下げる。
俺の視界にシュ○ちゃんとかが持ってそうな超大きいナイフが股の下の地面に突き刺さっているのが見えた。
俺のヒザが意思とは関係なくガクガクと震え出す。
ひいいいいいいいッ!
「兄さん♪」
やあリンちゃん……さわやかな朝だね(棒)
カタカタと俺の膝が震える。
うん兄さん。
いい朝だね。
ところで今日はいつも横をフラフラしてる糞虫どもがいないんだね。
そ、ソウダネ
ヤツらがいないと強制バッドエンドなんじゃね?
俺はようやくそのことに気づいた。
ふーん♪
逃げなきゃ!
逃げなきゃ!
逃げなきゃ!
逃げなきゃ!
逃げなきゃ!
俺は脱兎の如く逃げ出す。
だがその時、リンの目が光りバイクに乗っていたはずのリンが次の瞬間、俺の後ろに立っていたのだ。
えい♪
それは手刀だった。
さすが武術の達人。
痛みを感じさせられることもなく俺は白目をむいて倒れた。
なにこの圧倒的なレベル差。
その頃、黒川の家の前。
じゅんじゅん。お兄ちゃん遅くない?
前回よりやや高くなったが、それでも野太い男らしい声が響いた。
男性ホルモンの最後のあがきだ。
もちろん声の主は真由である。
それに答えるのはすでに高くなったかわいらしい声。
……むしろアニメ声だ。
この声の主はジュンである。
まゆまゆー。
お兄ちゃん遅いねー。
なにがあったんだろう?
二人は顔を見合わせた。
まゆまゆ。
お兄ちゃんの気をたどれる?
うんやってみるねー!
すでに人間業ではないがツッコミを入れても仕方がない。
なぜなら彼女ら(?)は人間が野生の本能を持っていた古代より受け継がれた武術の使い手なのだから。
エジプトに大きな気が!
なにい!
見られている!!!
それは肩パッド討伐隊出したから大丈夫
宇宙から大きな気が!
これは伝説の宇宙地上げ屋!
来たら殴るからどうでもいいや
遠くにミジンコみたいに小さな気が……
あ、お兄ちゃんだ
どこ?
巨大で邪悪なオーラが近くに……って、
リンリンの家だ!!!
あのクソアマァッ!!!
なめやがって!!!
ぶっ殺す!!!
二人は指をボキリボキリと鳴らした。
……らしい。
だって、その時俺は……
リンの家
俺は悲鳴を上げた。
連れて行かれたのは無駄に広い洋館。
花畑がある庭。
白い犬。
漫画に出てくるような、わざとらしいまでのお屋敷。
庶民の敵。
お金持ちの巣。
そここそリンの家なのだ。
そして両手両足を拘束された俺はリンにお姫様抱っこで部屋に引きずり込まれる。
リンが俺をベッドに放り投げやがったのだ。
いやいやいやいやいやいや。
っちょ! 待てよ!!!
ユニット表示まで裸王にされた俺が命乞いをする。
兄さん……
な、なんだ……?
俺はゴクリとツバを飲み込む。
ヤツはヤンデレだ。
ここでの選択肢を間違えたら即バッドエンドだ。
兄さん……
なんだ……?
(訳:殺さないでください)
なんだもったいぶりやがって……
俺が困惑しているとリンはもじもじと身をよじる。
そして突然言った。
男の時から好きだった!!!
ぐっはー!!!
俺はストレスから血を吐いた。
この野郎!
いきなり精神を殺しにかかってきやがった!!!
ボクの愛を受け止めてくれ!!!
いやああああああああああぁぁぁぁッ!!!
俺はまるで囚われの乙女のように絶叫した。
いろんな意味でヤダ!!!
例え相手が今は本当に乙女だとしても無理!
ヘビーすぎるやろが!!!
え?
そういう薄い本あるよ?
YOU 突撃しちゃえYO!?
ざっけんな!!!
俺は絶対に逃げ切ってやるからな!!!
俺は芋虫のように這いつくばりながら必死に逃げた。
だが人生そんなに甘くはない。
特にヤンデレを前にしたときは。
鬼ごっこかいお姫様。
ふふふふふ。
笑顔でそう言いながらリンは俺を踏みつけた。
あ、俺終わったんじゃね。
あ、おばあちゃん。
あきらめの早い俺の意識が勝手に走馬燈とかそういうものを上映しはじめたその時だった。
ガシャーン!!!
窓が吹き飛んだ。
このファッキンビッチいいいいいぃッ!!!
なにしてくれがるんだテメエコラァッ!!!
完全に女性化した高い声が響いた。
窓を突き破って飛び込んできたのはジュンだった。
ワールドマグマグレイテストじゃボケェッ!
全く意味がわかりません。
テメエコラ!
ナンダコラァッ!
オドレコラッ!
テメエXXXコノヤロウ!
XXダアコラァッ!
(滑舌が悪すぎて判別不能)
オメエXXXマグマテメエXXXXコラ!
(滑舌が<略>)
まるでそれは○州力どうしの口喧嘩のようだった。
なにを言ってるいるのか全くわからない。
ジュンジュン。
XコXコラァ!
オドXワレェッ!
(滑舌ry)
今度は天○が増えた……だと(ごくり)
今度は真由が乱入してきた。
三人とも滑舌が悪すぎて何を言っているかわからない。
とにかくガラが悪い。
懐かしいノリだ。
そう俺が懐かしがっていると……
オドレコラァッ!!!
リンに拳を繰り出したのだ。
巨大な拳、そんな幻が見えるかのような剛拳だった。
さすがリンもド変態どもの仲間である。
それを柔らかい動きでブロッキングすると貫手を繰り出す。
「ふはは! ボクを殺せるとでも!!!」
そう言って笑うリンへジュンが攻撃を開始した。
オラァアアアアアア!!!
裂帛の気合。
そしてジュンはなぜか真由も含めた二人に対して高速でパンチを繰り出す。
どさくさ紛れに真由も抹殺するつもりに違いない。
それを残りの二人は片手で防御し、もう片方の手で器用に攻撃しはじめる。
三すくみとなって攻撃をする三人。
その姿は正に類人猿。
そう、三人のその類人猿のごとき脳みそでは話し合いをするだけのボキャブラリーが存在しなかったのだ。
そして次の瞬間、うんうんと納得している俺が一番馬鹿だったことに気づくハメになったのだ。
フラッシュピス○ンマッハ!!!
ふおおおおおおおおぉぉぉッ(呼吸法)
フフフ(ドスを抜く)
よし!
バカども共倒れしろ!!!
そんな不謹慎なことを思っていた俺の目に入ったのは……
連中の発した気で崩れ行く天井。
俺の上に大理石風のタイルが降り注ぐ。
なあに樹脂製のイミテーションだ。
重いはずがない。
落ちた天井の破片が重い音を奏でる。
……本物やああああああああッ!!!
芋虫状態の俺はゴロゴロと転がりながら、降り注ぐタイルを避けていく。
お前ら!
やめ、やめろ!!!
らめえええええええええぇッ!
Wピースでもなんでもしてやるから助けろバカども!!!
とあいつらを見た俺の目に飛び込んできたものは……
奥義!!!
最終奥義!!!
超ウルトラ滅殺スペシャルエンドエターナルブロウ!!!
っちょ! 待て。バカ! や、やめ! らめええええええええええッ!!!
そしてバカどもが一斉に必殺技を放ち、謎の爆発とともに天井が崩れた。
俺に迫る瓦礫。
そこでおれは意識を失った。
洋館が崩れ、俺はその下敷きな。
おお ああああ よ。
しんでしまうとは なにごとじゃ。
翌日
まったくギャグ補正がなければ死んでたぞ!!!
そう言うミイラ男。
それが今の俺だ。
ごめんなさい。
お兄ちゃん……
うん
ごめんなさい。
お兄様。
うん
ごめんよ。
兄さん
君。誰?
酷いよ! 酷すぎる!!!
るっせ!
しばらくは赤の他人のフリしてやる。
うわああああんごめんよー!!!
るっせ!!!
俺はそっぽを向いた。
俺はあとどれくらい生きられるだろうか。
ホント。
いやマジで。
そのうち死ぬぞ。
妹という悪夢が終わるのはいったいいつだろうか?
永遠に終わらない悪夢なのではないだろうか?
YOU楽しんじゃえYO!
今言ったヤツ!
俺に土下座しやがれ!!!