ワトリーは少し離れたところで
3匹の証言を思い返していた。

シオンにいつもと変わった様子はなかった――
それが共通する証言だ。

しかし、それでも
引っかかることがいくつもあった。



まず、ルーカスが楽屋に入ったとき、
シオンは携帯を見ていた。

しかし、その携帯はどこにも見当たらない。
防犯カメラにはエイミーが
携帯らしきものを持って
走り去る姿が映っていた。

エイミーがそれを持ち去ったのだろうか?



そして、いつもならお弁当を食べるはずの
シオンが、今回何も食べていなかった。

お弁当は無惨にも床に散らばっていて
フォークはまだ袋に入ったままだった。

ワトリー

もう一度、防犯カメラの映像を確かめるのだ

ルーカス

それなら、さっき鑑識の猫たちがカメラの映像を持って行きましたよ

ワトリー

ジョセフ、もう一度映像を見たいのだ!

ジョセフ

わかった、後で署に来い。
そこで確認しよう。

その時、サリーの顔色が急に
悪くなったことにワトリーは気づいた。

サリー

・・・

イザベラ

サリー、大丈夫?

サリー

はい…少し休みたいです…

仲間のシオンが殺されたショックが
彼女の体にも影響を与えているようだった。

その姿を見て、ワトリーは胸が痛んだ。

自分がエイミーのことばかりを考えている間
サリーの苦しみに気づいて
いなかったことを後悔した。

ワトリー

サリー、ごめんなのだ。
シオンは君の仲間なのに
ボクはエイミーのことばかり気にかけていたのだ

サリー

いいの。エイミーも心配だもの
私も…彼女が無事であってほしいって思ってる

サリーはイザベラに連れられ
楽屋へと戻っていった。

ワトリーはその姿を見送り
再び現場に向かうことを決意した。

エイミーにかけられた疑いを晴らすためにも
今一度手がかりを探す必要がある。

シオンの死

その裏に隠された謎――

すべてが次第に複雑に絡み合い
ワトリーの前に立ちはだかっていた。

ワトリー

ボクは絶対に真相を突き止めるのだ。エイミーを救うために…





ワトリー、ジョセフ、そしてポテトは
もう一度事件現場に戻っていた。

楽屋の中にはまだ血痕が残っており
空気は重く冷たかった。

ジョセフ

なあ、ワトリー、フェリックスはどうしたんだ? あいつなら、こういう事件は得意中の得意だろ?

ワトリー

フェリスは今休暇中で
キャットタウンにはいないのだ

(ワトリーはフェリックスを
フェリスと愛称で呼んでいる)

ジョセフ

なに!?

しまった、これは計画が狂うぞ…。フェリックスがいると思って、全て任せてくれって大口を叩いちまったのに…

ポテト

フェリックスさんがいなくても
先輩がいれば問題ないですよ

それはそうなんだが…。
なあ、ワトリー、本当に
フェリックスに来てもらった
ほうがいいんじゃないか?

ワトリー

ルビーと海外に行っているのだ。邪魔したらボクがルビーに殺されるのだ

ジョセフ

またもやルビーと!?

ルビーは、かつてフェリックスの友人であり
元恋人だったと噂される猫だ。

ミミちゃん失踪事件で二匹は再会し
それ以来、何かと理由をつけて
フェリックスを連れ出している。

今回も、ルビーはボディーガードとして
フェリックスを連れ、海外へと向かった。

そんなジョセフの心配をよそに
ワトリーは現場に注意を戻していた。

シオンの楽屋の中

ジョセフ
この血の跡を見てほしいのだ

ジョセフ

うん、血の跡だな…。

ワトリー

違うのだ、見てほしいのは血の量と、そのつき方なのだ

ポテト

死因は大量に出血してショック
症状になったようです

ジョセフ

それが何か?

ワトリーはシオンが倒れていた位置に近づき
さらに仮説を展開した。

ワトリー

ジョセフが犯人、ポテトがシオンだと仮定して、

正面からシオンを刺すふりをしてみてほしいのだ

ジョセフは言われた通り、
ポテトに向かって刺すような動作を行った。

二匹は目を見合わせたが、
まだよく分からない様子だった。

ジョセフ

ポテト

ワトリー

もし、シオンが正面から刺されたなら、犯人の後ろの壁に血が飛ぶはずがないのだ。
だけど、実際には壁や床、鏡にまで血がついていた。
返り血を浴びて
そんな姿でこの楽屋から出られないのだ

ジョセフ

…着替えたのか?

ワトリー

いいや、きっと犯人はシオンの
後ろに回って右胸を刺したのだ。
それなら返り血は最小限に抑えられるのだ

ポテト

なるほど、それなら犯猫は目立たずに楽屋を出られるわけですね

ジョセフ

そ、そうだな…

ワトリー

シオンには口に噛み切ったような跡があったのだ。切れて血が出ていたのだ

ジョセフ

犯猫に噛みついたのか?

ポテト

抵抗して暴れたときに自分で噛んだのかもしれません

ワトリー

いや、シオンは右腕の関節が外れていた、その痛みを我慢していたのだ

ワトリーは机の下を指さし

ワトリー

それにここが濡れてるのだ、
水がこぼれているのだ

ジョセフ

暴れた時に水がこぼれたんだ

ワトリー

でもコップもないし、机の下が
ぬれるのはおかしいのだ

ジョセフ

うーん

ジョセフがポンっと手を叩いた

そうかわかったぞ!

犯人はシオンの楽屋に入れたんだから、顔見知りの犯行ってことだな?

シオンが油断して後ろを向いた瞬間、犯猫がグサッと…

ポテト

なるほど、きっと歌でも歌っていたんでしょう

ワトリー

でも、油断して刺されたなら
お弁当は落ちないはずなのだ

ポテト

もしかして、シオンが弁当を食べながら歌ってて、口をふさいだのかもしれません

いいやシオンが急に踊り出して、犯人が驚いて刺した

そしてシオンは、弁当を犯猫に
投げつけたんだな

ワトリー

・・・だとしたら物音や助けを呼ぶはずなのだ

ワトリー

助けを呼べなかったシオンには何か秘密があるのだ

**殺害現場の状況**

楽屋で無惨な姿で発見されたのは、
人気アイドルグループのメンバー
「シオン」だった。


床には落ちたお弁当

荒らされたシオンのバック

机の下に水たまり

机の上にクラシックミニカー
サンドイッチの袋
ペットボトルのお茶




シオンの死因は鋭利な刃物による
右胸の刺傷による失血死と判明。

右胸の刺傷は肺にまで到達していた。

遺体を調べたところ、右腕の関節が外れており
彼女の口元には
歯形が残り、噛みしめた跡が
はっきりと見て取れた。

何かを必死に堪えていたのか、
あるいは恐怖や痛みを抑え込んでいたのか
――その跡は彼女が最期の瞬間まで
壮絶な苦しみに耐えたことを物語っていた。

状況から見て、犯猫は彼女の
後ろから右胸を刺したと推測される。

つづく

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