侵入者め、俺たちの財宝を奪いに来たか!

ヤムカ

取り返しにきたんだよ、おまえら泥棒と一緒にすんな。お、オレの人形、ここにあったか!

洞窟の中の広い空間を、盗賊たちは集会場として使っていたらしい。
盗まれた商品は、その壁際に乱雑に積まれていた。

ゲッ、その趣味の悪い人形、おまえのかよ!

ヤムカ

趣味が悪いとはごあいさつだな、とっても役に立つんだぜ。戦闘用人形じゃなくたって、おまえらをひねりつぶすくらい余裕だ。

ベシワク

戦闘用じゃないの? その見た目で?

ヤムカ

家事労働用だ。

ベシワク

その見た目で?

生意気な口を! やってみろ! カルガモ、おまえは俺と人形使いを。スズメとハトは白黒頭の相手をしてやれ!

カルガモ

わかった、カラス!

ベシワク

変な名前・・・

ヤムカ

コードネームだろ、奴ら身元を隠してやがる。つまりあのフードを引っぺがすだけで、けっこうな嫌がらせになるってこと! 楽しみだなあ、グージィ?

グージィ

おっしゃるトオり!

ベシワク

人形に変なこと教えてやるなよ。君って普段から効率のいい嫌がらせについて考えてるの?

ヤムカ

悪いか?

ベシワク

悪くないけど、僕の弟に似てる。

ヤムカ

誰が弟だ!

カラス

――魔風刃〈ウィンブレイド〉!

ヤムカ

おおっと!

盗賊の一人が放った魔法を、ヤムカは家事労働人形を盾にしのいだ。

ベシワク

盾になるくらい頑丈なのに、戦闘用じゃないんだ・・・

グージィ

タテになるだけじゃありませんヨ! チカくばヨってメにもミよ!

ヤムカ

確かなる者、導く者よ、
うつろを満たし駆動せよ。
――操人形〈マリオネット〉!

ヤムカ

オレの人形は土魔法で動く。簡単な呪文、少量の魔力でこの通り! 盗むなんて損なことしたなあ、正直に買いに来りゃお安くしてやったのによ!

三体の人形が一斉に動き出した。ヤムカを守るように周りを囲む。
盗賊たちのうち二人がヤムカを挟撃するが、実質二対三、ヤムカが有利だ。

対して、僕は残り二人を自分だけで相手にしなければならない。

スズメ

氷結界〈グラキエス〉!

ハト

魔風刃〈ウィンブレイド〉!

僕の足元に氷が張った!
同時に風の刃が降り注ぐ。

ベシワク

ッと!

体勢を崩しつつも、なんとかその場から飛びのく。
しかし間断なく“ハト”が別の呪文を唱える!

ハト

魔氷矢〈アイシーアロー〉!

ベシワク

今度は氷の矢か! 色々あるな、もう!

降りかかってきた氷の矢を剣で払う。
そうしている間に“スズメ”が同じ呪文を唱える。

スズメ

魔氷矢〈アイシーアロー〉!

ベシワク

くっ、防御だけじゃきりがない・・・!

どうにか打開しなければ。
一方、ヤムカも意外とてこずっていた。

ヤムカ

ああもう、頑丈な奴らだなあ! いくら人形で殴ってもへこたれねえ。サンドバッグとして売っぱらってやろうか!?

ちなみに、人身売買は犯罪だ。

ベシワク

ん? あれは・・・

ヤムカを挟む二人の体を、妙な光が包んでいた。回復魔法の光に似ている。
二人が手ごわいのはそのせいか? 怪我をするたび回復させているのかもしれない。

ベシワク

回復魔法の呪文を唱えてる奴はいないけど・・・まさか契約魔法師? でもこいつらが、ルーガル並みに強いとは思えない。

ベシワク

どこかにもう一人いる!?

ヤムカ

食らえよ! これにも耐えたらサンドバッグ1号と呼んでやる!

ヤムカの人形たちがジャンプした。高みからの体重を乗せた攻撃、しかも三体同時!

カラス

はっ・・・!

カルガモ

うわあああっ!

ヤムカ

ふっ・・・

ヤムカ

洞窟崩れないよな?

不安になるくらいならやらないでほしい。

ベシワク

げほっげほっ。土煙がこっちまで・・・

ベシワク

やっぱり回復魔法が使われてる。それに・・・

ベシワク

見つけた!

土煙が洞窟を覆いつくしたおかげで、不可視の人影が、目に見えて現れた。

ルーガルが透過魔法を使いながら僕をかかえて飛んだように、見えなくても物には触れられる。
逆に言えば、巻き上がった土煙が体を通り過ぎてくれることはない。土煙が通れない謎の空間が、人の形を持って浮き上がる。

ハト

豊かなる者、流れる者よ――

ベシワク

ヤムカに警告する暇はないな。こっちの二人の相手をしなきゃ。

スズメ

――知恵と豊穣もたらす者よ――

ベシワク

でもそうだ、奴らにはとにかく詠唱が必要。それなら・・・口をふさげばいい。

スズメ

――氷結界〈グラキエス〉

ハト

魔氷矢〈アイシーアロー〉!

僕の足元に氷が張った!
あとに続くのは氷の矢だ。

ベシワク

くっ!

僕は足を滑らせないよう氷を踏み割ると、降り注ぐ矢を剣ではじいた。

そして勢いを乗せたまま、剣を相手に投げつける!

ハト

は・・・ッ!

ヤムカ

おまえ、唯一の武器を! 頭でも打ったか!?

ベシワク

唯一じゃないよ、まだ鞘がある。

剣はかわされ、岩壁にぶつかった。それでも“ハト”の隙を作ることはできた。
僕は鞘を武器代わりに“ハト”に迫った。わざと足元の土を蹴散らす。

ハト

げほっ、げほ・・・!
ゆ、豊かなる者、流れる者よ――

ベシワク

唱え終わる前に攻撃だ!

スズメ

氷結界〈グラキエス〉!

ベシワク

来ると思った!

“スズメ”の呪文は予想していた。動く相手を止めたいときには、足元を凍らせてくるだろうから。
突然なら有効な魔法でも、わかっていれば逆に利用できる。

足元に張った氷で加速し、僕は“ハト”の間近まで滑った。鞘は地面と平行に構え、胴のまん中にたたきこむ!

ハト

ぐっ…!

スズメ

ハト! よくも!
豊かなる者、流れるうわあああっ!

ベシワク

逃がすかっ!

スズメ

ぐうう…

渾身の力で殴られて、“スズメ”は僕の足元に倒れこんだ。

終わった・・・。
ちょうどその頃、ヤムカもあとの二人――“カラス”と“カルガモ”を倒したようだった。

ベシワク

ヤムカ! そっちも片付いた?

ヤムカ

当然! スーパーアルティメットサンドバッグ1号2号は沈めてやったぜ。

あれから何度か復活したらしい。
さすが、回復魔法を使ってるだけある――

ベシワク

そうだ! もう一人!

ハッと思い出して、警告しようとした瞬間。

ヤムカ

――あ!?

ヤムカ

なっ、なんだこりゃあ!?

ヤムカの足元から紫の粘液が湧き上がった。
網のように広がると、ヤムカを包み込んでとらえようとする!

ベシワク

やめろーッ!

先ほど人影が見えた洞窟の隅をめがけて、僕は鞘を投げつけた。

ギャンッ

命中した!
透過魔法で隠れていた姿が、じわりと現れる。
同時に、ヤムカを包んでいた紫の粘液が消滅した。

ヤムカ

まだいやがったのか・・・助かったぜ。よくこいつのいる場所がわかったな?

ベシワク

戦いの途中で気づいたんだ。警告できなくってごめん。

ヤムカ

いや、そんなことはなんでもねえけど・・・そういやおまえ、あとの二人、ほんとに倒したんだな・・・

ベシワク

どうしたの?

ヤムカ

あーなんつうか。さっきは、馬鹿にして悪かったよ。

ベシワク

!!

ヤムカ

オレ、生まれつき魔力が少ないんだ。だから自分より下見ると安心するわけ。でも今回はおまえのが強かったわけだし、そもそも馬鹿にしたオレを助けてくれるとか・・・

ヤムカ

・・・って、なんだよその顔は?

ベシワク

うちの弟も、君くらい素直ならいいのにと思って・・・

ヤムカ

弟扱いすんなっての! オレの方が年上だろ?

ベシワク

え、そうなの?

ヤムカ

オレは二十一歳だ!

ベシワク

えっ。

そんな話をしているところに。

ルーガル

小雷撃〈アトサンダー〉

ピリッとさせるような小さな稲妻が洞窟を駆け抜け、ルーガルが姿を現した。

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