ヤムカ

やっぱり侵入者用の罠があったか!

ベシワク

しまった、来た道をふさがれた!

ヤムカ

侵入者を閉じ込める仕組みだな。だが逆に、洞窟の外から敵は来ないってことだ。

ヤムカ

警戒すべきは前! グージィ、調べに行くぞ。

グージィ

おトモしマスよ!

ヤムカはグージィを連れて、洞窟の奥へ向かった。
僕は矢の雨に襲われたルーガルを助け起こす。

ベシワク

ルーガル、今手当てするよ! 矢を抜くときは痛いけど、慎重にやるからじっとしてて。

ルーガル

えい。ずぼ。

ベシワク

話聞いてた!?

ルーガルが、自分に刺さった矢を無造作に抜く。
ああっ、まだ止血の準備できてないのに!

ルーガル

心配いらない。私のように魔力の高い者は、即死か病死でなければ死ねないものだ。

ベシワク

・・・? 傷口で何か、光ってる・・・

ルーガル

回復魔法だよ。魔法といっても、私が精霊に命じたわけではない。勝手にやってくれるんだ。

ベシワク

精霊が?

ルーガル

魔力の高い人間は、精霊からすれば豊かな餌場。やすやすとは死なせたくないのだろう。

ベシワク

勝手に治してくれるのか。便利だな。

ルーガル

不便だ。こうされている間は、魔法を使おうとしても精霊が言うことを聞かない。だから怪我をしたくないのに・・・私は昔からこうなんだ。カッとなると、後先を考えなくなってしまう。

ベシワク

でも、魔力なしが馬鹿にされたことに怒ってくれたんだろ? 嬉しかったよ。君が痛い思いをするのは嫌だけど・・・

ルーガル

君のためじゃない。私は、本当に・・・

ベシワク

ルーガル?

ルーガル

・・・君の弟たちは魔力持ちだとか。ガトド島では珍しかっただろう?

ベシワク

そうだね。島じゃ魔力持ちは、弟たち二人だけだ。他にはいない。

ルーガル

大陸から離れるほど、魔力持ちは少なくなる。君の島は遠く南洋諸島の、しかも端っこだからな。一方で、大陸では住人のほとんどが魔力持ちだ。

ベシワク

そうなんだ? 昨日の御者さんや、コナーさんも?

ルーガル

日常的な魔法なら、呪文を丸暗記すれば使える。専門的で高度な魔法も多いから、魔法師なんて職業が成り立つが。

ベシワク

ちょっとした魔法なら、たいていの人が使えるわけだ。ヤムカの態度はそのせいか。僕には魔法が使えないから。

ルーガル

大陸では、魔力なしを下に見る空気がある。でも、馬鹿らしいことだ。本当に馬鹿らしいことだ。そんな世の中でなければ、私たちは・・・

ヤムカ

おい!

ヤムカとグージィが戻ってきた。
偵察してきた方向を親指で指し、声をひそめる。

ヤムカ

盗賊がこっちに向かってる。戦う気があるなら、準備しとけ。

ベシワク

わかった!

ヤムカ

洞窟の奥に四人いた。全員魔法を使うようだ。ほんとに隠れてなくていいのか?

ベシワク

少しは手伝えると思うよ。ルーガルは、そこのくぼみで休んでいて。

僕はルーガルに肩を貸して、隠れられる場所まで連れて行った。ルーガルは、壁のくぼみで膝を抱えた。

ヤムカ

おい、早く! 来ちまうぞ!

ベシワク

ルーガル、すぐ戻るから待っていて。

ルーガル

ああ・・・ごめん・・・

気分が悪いのか、うわごとを言っている。
回復魔法があるとはいえ、完全に治るまでは普通の怪我人と同じ。熱も出ているようで、心配だ。

盗賊をここに来させたらまずい。
僕はヤムカを追って、洞窟の奥に向かった。

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