ヤムカはグージィを連れて、洞窟の奥へ向かった。
僕は矢の雨に襲われたルーガルを助け起こす。
やっぱり侵入者用の罠があったか!
しまった、来た道をふさがれた!
侵入者を閉じ込める仕組みだな。だが逆に、洞窟の外から敵は来ないってことだ。
警戒すべきは前! グージィ、調べに行くぞ。
おトモしマスよ!
ヤムカはグージィを連れて、洞窟の奥へ向かった。
僕は矢の雨に襲われたルーガルを助け起こす。
ルーガル、今手当てするよ! 矢を抜くときは痛いけど、慎重にやるからじっとしてて。
えい。ずぼ。
話聞いてた!?
ルーガルが、自分に刺さった矢を無造作に抜く。
ああっ、まだ止血の準備できてないのに!
心配いらない。私のように魔力の高い者は、即死か病死でなければ死ねないものだ。
・・・? 傷口で何か、光ってる・・・
回復魔法だよ。魔法といっても、私が精霊に命じたわけではない。勝手にやってくれるんだ。
精霊が?
魔力の高い人間は、精霊からすれば豊かな餌場。やすやすとは死なせたくないのだろう。
勝手に治してくれるのか。便利だな。
不便だ。こうされている間は、魔法を使おうとしても精霊が言うことを聞かない。だから怪我をしたくないのに・・・私は昔からこうなんだ。カッとなると、後先を考えなくなってしまう。
でも、魔力なしが馬鹿にされたことに怒ってくれたんだろ? 嬉しかったよ。君が痛い思いをするのは嫌だけど・・・
君のためじゃない。私は、本当に・・・
ルーガル?
・・・君の弟たちは魔力持ちだとか。ガトド島では珍しかっただろう?
そうだね。島じゃ魔力持ちは、弟たち二人だけだ。他にはいない。
大陸から離れるほど、魔力持ちは少なくなる。君の島は遠く南洋諸島の、しかも端っこだからな。一方で、大陸では住人のほとんどが魔力持ちだ。
そうなんだ? 昨日の御者さんや、コナーさんも?
日常的な魔法なら、呪文を丸暗記すれば使える。専門的で高度な魔法も多いから、魔法師なんて職業が成り立つが。
ちょっとした魔法なら、たいていの人が使えるわけだ。ヤムカの態度はそのせいか。僕には魔法が使えないから。
大陸では、魔力なしを下に見る空気がある。でも、馬鹿らしいことだ。本当に馬鹿らしいことだ。そんな世の中でなければ、私たちは・・・
おい!
ヤムカとグージィが戻ってきた。
偵察してきた方向を親指で指し、声をひそめる。
盗賊がこっちに向かってる。戦う気があるなら、準備しとけ。
わかった!
洞窟の奥に四人いた。全員魔法を使うようだ。ほんとに隠れてなくていいのか?
少しは手伝えると思うよ。ルーガルは、そこのくぼみで休んでいて。
僕はルーガルに肩を貸して、隠れられる場所まで連れて行った。ルーガルは、壁のくぼみで膝を抱えた。
おい、早く! 来ちまうぞ!
ルーガル、すぐ戻るから待っていて。
ああ・・・ごめん・・・
気分が悪いのか、うわごとを言っている。
回復魔法があるとはいえ、完全に治るまでは普通の怪我人と同じ。熱も出ているようで、心配だ。
盗賊をここに来させたらまずい。
僕はヤムカを追って、洞窟の奥に向かった。