ガラガラと、荷馬車の車輪が回る。
道の両側には深い森。進む先には高い山。
港町で聞いてまわったところ、リリーシカは、大陸中部の都・ジャハにいるらしい。
僕たちは、ジャハの近くまで行くという荷馬車の後ろに乗せてもらっていた。
えっ? 転移魔法は使えない?
ああ。さっきの戦いで使ったのは、ただの透過魔法だ。
透過・・・姿を見えなくして移動しただけってことか。一瞬で遠くへ行ったわけじゃなくて。
転移魔法だと嘘をついたら、ジルウェットはすっかり信じていたけどね。
ガラガラと、荷馬車の車輪が回る。
道の両側には深い森。進む先には高い山。
港町で聞いてまわったところ、リリーシカは、大陸中部の都・ジャハにいるらしい。
僕たちは、ジャハの近くまで行くという荷馬車の後ろに乗せてもらっていた。
そもそもこれまで、転移魔法と呼ばれる魔法は存在しなかった。
そうなんだ? さっき町の広場で、大道芸人が帽子からハトを出してたけど。
あれは帽子の内張に、ハトの骨と羽を仕込んでいたんだ。転移ではなく、ただの死霊魔法だね。
そんなカラクリがあったとは。いや、死霊魔法もすごいけど。
転移魔法があるなら、こんな荷馬車も、もう走らせなくてよくなるだろう?
確かに。モノを運ぶたぐいの仕事はなくなってしまうだろうな。
・・・なんか、荷馬車の後ろに便乗させた旅人が物騒な話してるな。
いやでも、もしも転移魔法があったらっていう、架空の話だものね。
あのさ。さっき「存在しなかった」って過去形で言った?
ああ。私が創った。
痛い。
とつぜん荷馬車が大きく揺れ、後ろのステップに座っていた僕たちは、後部扉に頭を打った。
商人のコナーさんが荷馬車の中から身を乗り出し、御者台に向かって怒鳴る。
気をつけろ! ワインの瓶が割れでもしたら、大損だぞ!
す、すみません、つい驚いて!
馬車はしばらくガタガタしたが、やがて道が安定したのか静かになった。
・・・大丈夫かな。
このあたりは悪路が多い。道を使わずにモノの移動ができれば革命的だ。たから転移魔法は長く研究されてきたのだが、魔力消費量が多すぎて無理という結論だった。
無理っていうと?
簡単に言うと、一度使っただけで魔力が尽きて死ぬ。
それは無理だな・・・。
実験段階で人知れず死んでる研究者もいるかもしれないな。
魔法って、万能じゃないんだなあ。知らなかった。
だが私は、生まれつき魔力量が人より多くてね。やればできるだろうと踏んでいた。そしてやってみたら、できた。
人知れず死んでる一人にならなくてよかったよ。
そんな私をもってしても、気軽には使えない。ここからジャハまでの長距離を飛んだりすれば、倒れてしまうだろうな。
ふう、よかった。私らの仕事がすぐになくなることはなさそうだ。
だからもっと効率的な法式を探している。もう三年ほど研究すれば、私以外も使えるレベルにできるだろう。
安心させるかさせないかどっちかにしてよ。どうするかな~、ギルドに伝えるべきか・・・?
それは、御者ギルドに話を通しながら進めた方がいいだろうな。
!!
なぜ?
たくさんの人がかかわる仕事が、一瞬でできるようになるんだろ? 仕事を失う人が出る。
私にそこまで背負う責任はない。
君以外でもその魔法を使えるようにしたいのは、人の役に立てたいからじゃないのか? その魔法のせいで困る人がいるのは、君の望みじゃないはずだ。
・・・君はいつも人のことばかり考えているから、ほかの人もそうだと思いこんでいるらしい。言っておくが、私は君ほど善人ではない。
ええ・・・そうかな?
ただ、たしかに別の視点で考えることは重要だな。君の考えは私にはないもので、一考にあたいする。
考えてくれるのか。ありがとう。
なぜ君が礼を?
・・・物騒な話、終わったかな。
ところで、君の島を襲った魔女リリーシカのことだけど。
ほんとの意味で物騒な話が始まった。
彼女は転移魔法が使えるんだ。
物騒な話と!
物騒な話を!!
合体させるな!!!
さっきは御者が突然叫びだして怖かった。
怖かったね。
ジャハまでの道に立ちはだかるコートン山脈。
そのふもとに到着した頃には、日が暮れかけていた。
ここは、旅人が山越えの前に身を休める宿場町だ。
コナーさんが馬車から出てきて、馬車の後ろにいる僕たちに手を振った。
やあ、二人とも。荷馬車の後ろは揺れたろう。大丈夫だったかい?
大丈夫です。今日はありがとうございました。
私は商人ギルドの運営する宿屋に泊まるつもりだが、君たちは?
そんな宿屋が?
やめておこう。ギルド登録者なら安く済むが、それ以外からはぼったくる。私も魔法師ギルドの宿があれば泊まれるんだが、この辺りにはないな。
ああ、君は魔法師なのか。どおりでローブがよく似合う。
どうも。
それじゃあ君たち、明日も乗るだろう? また明日、ここで会おうじゃないか。
はい。よろしくお願いします。
馬車をひいていくコナーさんたちを見送り、僕たちは反対方向に歩き出した。
立ち並ぶ宿屋の中から、ルーガルはいちばん小さな建物に迷わず入っていった。
いちばん安そうだからな。
大事なことだね!