ベシワク

頼むよ、ルーガル! 僕にできることなら何でもするから!

あきらめきれず拝み倒す僕を、ルーガルは面倒くさそうな目で見下ろした。

ルーガル

・・・〈勇者の魂〉が奪われた、と言ったね。その正体を知っているかい?

ベシワク

正体?

ルーガル

君の島の秘宝とやらを見たことはないけど、話を聞くに、それはね・・・名前の通り、勇者の魂なのさ。

ルーガルが空を見上げた。
鳥の群れが高みを飛んでいく。黒い点々のように見えるそれは、さっきの魔物の最期を思い出させた。

黒いチリとなり、風に吹き飛ばされた姿を。

ルーガル

魔物を倒すには、コアの破壊が必要だ。魔物は魔力がまとまって形を成した生き物。魔力の中心であるコアを破壊されれば、存在を保てない。

ベシワク

さっきのジルウェットは、金属のパーツがコアだったけど。

ルーガル

そう、コアの形は様々だ。殻に入り込んだ砂粒を核に真珠が出来るように、何を中心に魔力をまとわりつかせるか、というだけの話だからね。

ルーガル

そして魔力が強い人間は、それが体内で起こることがある。体内の異物を中心に、余剰の魔力が溜まっていって、ついに形を持つんだよ。

ベシワク

それ、体内に魔物が生まれてるってことじゃ?

ルーガル

そうかもね。でも人間の体内にできる“魔結晶”は、自我を持つほど大きくはならない。むしろ本人の魂の性質を反映させるから、本人の一部といえる。

ベシワク

魂の性質?

ルーガル

善人であれば善性を、悪人であれば悪性を反映する。悪人の魔結晶は、本人の死後体内から出てくると悪さをするから、コアを破壊して消されるのが常だ。

ルーガル

でも善人の魔結晶は、残された家族やコミュニティを守る魔法道具として大切にされる。

ベシワク

・・・うちの島の〈勇者の魂〉って。

ルーガル

魔結晶だろうね。魔物を追い払うような結界を張るタイプの。先祖に魔力の強い人がいたんじゃないか?

ルーガル

どうやらリリーシカは魔結晶を集めている。ほかにも襲われた町や村があるけど、どこもみんな、伝説の品を盗まれたとのことだから。

ルーガル

そして、奴が私の命を狙う理由も同じく魔結晶にある。

ベシワク

・・・魔結晶は、魔力の強い人間の体内にできる・・・。

ルーガル

私もね、持ってるんだ。そしてリリーシカは、私が死んで魔結晶を吐き出すのを待てるほど気が長くないらしい。

トン、とルーガルが自分の胸を指先で小突いた。
そこにある、心臓以外の何かを指すように。

ルーガル

というわけで、私は命を狙われている。自分を殺そうという奴の家をわざわざ訪ねるほど、愚かではないよ。

ベシワク

そうか・・・わかった。無理を言ってごめん。

ルーガル

いいんだ。君はがんばってくれ。遠くから応援しているよ。

そう言って、ルーガルはベンチから立ち上がった。
振り返ることもなく去っていく。

そして角を曲がりもしないうちに、道行く人の一人につかみかかられた。

てっめえ、その顔は! うちの村に火を放ったのはあんただな!?

ルーガル

落ち着いてくれ。それは私ではない。

ついさっき自分がくり広げた光景を、別視点で見ているような気がする。
騒ぎを聞きつけて、どんどん人が集まってきていた。

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