港町ビプルの片隅。
ベンチに座って、僕はため息をついた。
僕のじいさまは、島の首長だ。
だからこそ、秘宝を奪われまいと聖殿に急ぎ・・・燃えた柱にぶつかって大けがをしてしまった。
奪われた秘宝は、不思議な結界で島を守っていると言われる。
じいさまの孫である僕が、何としても取り戻さなければ。だけど・・・
――え。君の島って、ガトド島? 南洋諸島の端っこの?
そうだよ。ここまでヨットで一週間かかった。
港町ビプルの片隅。
ベンチに座って、僕はため息をついた。
僕のじいさまは、島の首長だ。
だからこそ、秘宝を奪われまいと聖殿に急ぎ・・・燃えた柱にぶつかって大けがをしてしまった。
奪われた秘宝は、不思議な結界で島を守っていると言われる。
じいさまの孫である僕が、何としても取り戻さなければ。だけど・・・
でもベシワク、見たところ、君は魔力を持ってない。
だからヨットで来たんじゃないか。魔力持ちなら、空を飛んでこられるんだろうけど。
世の中には、二種類の人間がいる。
魔力のある人間と、ない人間。
生まれつきの運命を、くつがえすことはできない。
威勢よく大陸まで来たけれど、実のところ、僕はすっかり自信を失っていた。
魔物――ジルウェットが現れたとき、僕は何もできなかった。こんなんじゃ、魔女と戦うなんて無理だよな。
うん、無理だ。どうして君が来たのかがわからない。
正直に言うことないじゃないか。僕は首長の孫なんだ。両親はいないから、じいさまの次には僕が島を治める。僕には島を守る責任がある。
奪われた秘宝は〈勇者の魂〉という結晶で、島を守っていると言われるんだ。島の平和に必要なものだから、どうしても取り戻さなければ。
なるほど。ますますやめた方がいい。
なんで。
命を懸けることになる。君にそんな役目を押しつける島民たちに、従順さで応える必要はない。砂をかけてやれ。
違う、押しつけられたわけじゃないよ。誰かに言われたんじゃなくて、自分でここまで来たんだから。
自分で?
そうだよ。生まれ育った島を守りたいって思うのは、自然なことだろ? 魔力なしの僕じゃ反対されると思ったから、誰にも言わずに一人で来たんだ。
でも、それがまちがいだったな。誰かに任せるべきだった。僕の弟は二人とも魔力持ちなんだ。あいつらの方が、僕よりずっと・・・
いや、君の方がいい。君がやった方が、うまくいく。
僕は、驚いて目をぱちくりさせた。
今、ルーガルは何て言った?
世の中には、人に逆らうことが心底苦手な人間がいる。命じられたことにノーを返すよりも、ヨットで一週間漕いでくる方が楽だという人間だ。
・・・いるかなあ、そんな人?
いるんだ。逃げるよりも死地に向かう方が簡単に済んでよい、と言う奴が。しかしそんな蛮勇でうまくいくはずない。命を無駄にするだけだ。
君は、僕がそのたぐいだと?
思った。でもどうやら違う。逃亡からの逃亡者ではない。
命じられもしないのに、ヨットで一週間漕いで来るような奴はね、根性がある、というんだよ。
そんなふうに言ってもらえるなんて。
でも、僕には魔力がない。戦えないよ。
では聞くが、君以外の誰かが、この大陸を目指したか? 魔力のある誰かが?
他の奴はここにいない。君はここにいる。それだけで、君は他の奴より優れている。
そっか・・・ありがとう。君のおかげで、自信を取り戻せたよ。僕にどこまでできるかわからないけど・・・
ううん、そんな弱気なこと言っちゃいけないな。必ず、魔女を倒して秘宝を取り戻すよ。
そうするといい。君ならできる。
それで、ルーガル。さっきの戦いを見たけど、君はすごく強かった。魔女退治の旅、ぜひ君にもついてきてほしいんだ。どうか、頼む。
僕は、右手を差し出した。
ルーガルが、握り返してくれることを願って。
うん? それは嫌だ。私はまだ死にたくないからな。
・・・ッ、ノーを返すのが得意なタイプの人間だ・・・!
なんとなく、そんな予感はしていたけど。