ルーガル

――え。君の島って、ガトド島? 南洋諸島の端っこの?

ベシワク

そうだよ。ここまでヨットで一週間かかった。

港町ビプルの片隅。
ベンチに座って、僕はため息をついた。

僕のじいさまは、島の首長だ。
だからこそ、秘宝を奪われまいと聖殿に急ぎ・・・燃えた柱にぶつかって大けがをしてしまった。

奪われた秘宝は、不思議な結界で島を守っていると言われる。
じいさまの孫である僕が、何としても取り戻さなければ。だけど・・・

ルーガル

でもベシワク、見たところ、君は魔力を持ってない。

ベシワク

だからヨットで来たんじゃないか。魔力持ちなら、空を飛んでこられるんだろうけど。

世の中には、二種類の人間がいる。
魔力のある人間と、ない人間。

生まれつきの運命を、くつがえすことはできない。
威勢よく大陸まで来たけれど、実のところ、僕はすっかり自信を失っていた。

ベシワク

魔物――ジルウェットが現れたとき、僕は何もできなかった。こんなんじゃ、魔女と戦うなんて無理だよな。

ルーガル

うん、無理だ。どうして君が来たのかがわからない。

ベシワク

正直に言うことないじゃないか。僕は首長の孫なんだ。両親はいないから、じいさまの次には僕が島を治める。僕には島を守る責任がある。

ベシワク

奪われた秘宝は〈勇者の魂〉という結晶で、島を守っていると言われるんだ。島の平和に必要なものだから、どうしても取り戻さなければ。

ルーガル

なるほど。ますますやめた方がいい。

ベシワク

なんで。

ルーガル

命を懸けることになる。君にそんな役目を押しつける島民たちに、従順さで応える必要はない。砂をかけてやれ。

ベシワク

違う、押しつけられたわけじゃないよ。誰かに言われたんじゃなくて、自分でここまで来たんだから。

ルーガル

自分で?

ベシワク

そうだよ。生まれ育った島を守りたいって思うのは、自然なことだろ? 魔力なしの僕じゃ反対されると思ったから、誰にも言わずに一人で来たんだ。

ベシワク

でも、それがまちがいだったな。誰かに任せるべきだった。僕の弟は二人とも魔力持ちなんだ。あいつらの方が、僕よりずっと・・・

ルーガル

いや、君の方がいい。君がやった方が、うまくいく。

僕は、驚いて目をぱちくりさせた。
今、ルーガルは何て言った?

ルーガル

世の中には、人に逆らうことが心底苦手な人間がいる。命じられたことにノーを返すよりも、ヨットで一週間漕いでくる方が楽だという人間だ。

ベシワク

・・・いるかなあ、そんな人?

ルーガル

いるんだ。逃げるよりも死地に向かう方が簡単に済んでよい、と言う奴が。しかしそんな蛮勇でうまくいくはずない。命を無駄にするだけだ。

ベシワク

君は、僕がそのたぐいだと?

ルーガル

思った。でもどうやら違う。逃亡からの逃亡者ではない。

ルーガル

命じられもしないのに、ヨットで一週間漕いで来るような奴はね、根性がある、というんだよ。

ベシワク

そんなふうに言ってもらえるなんて。

ベシワク

でも、僕には魔力がない。戦えないよ。

ルーガル

では聞くが、君以外の誰かが、この大陸を目指したか? 魔力のある誰かが?

ルーガル

他の奴はここにいない。君はここにいる。それだけで、君は他の奴より優れている。

ベシワク

そっか・・・ありがとう。君のおかげで、自信を取り戻せたよ。僕にどこまでできるかわからないけど・・・

ベシワク

ううん、そんな弱気なこと言っちゃいけないな。必ず、魔女を倒して秘宝を取り戻すよ。

ルーガル

そうするといい。君ならできる。

ベシワク

それで、ルーガル。さっきの戦いを見たけど、君はすごく強かった。魔女退治の旅、ぜひ君にもついてきてほしいんだ。どうか、頼む。

僕は、右手を差し出した。
ルーガルが、握り返してくれることを願って。

ルーガル

うん? それは嫌だ。私はまだ死にたくないからな。

ベシワク

・・・ッ、ノーを返すのが得意なタイプの人間だ・・・!

なんとなく、そんな予感はしていたけど。

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